181 聖魔女襲来
はい、俺です。
ここ、我が農場です。
最近ムカつく。
人目もはばからずイチャつくヤツらが目の前にいて。
「ランプアイ。キミの瞳は本当に燃え盛る炎のようだ。その輝きが私を惹きつける」
「ヘンドラー。アナタの言葉にも、一言一言に炎が篭っています、その熱にわたくしは蕩けてしまいそうです」
……。
うん、ムカつく。
我が農場で成立したカップルはこれまでも何組かいたが、こんな露骨にイチャつくカップルはいまだかつていなかった!!
魔王さんとアスタレスさんですら人前ではもうちょっと遠慮してたわ!!
ああ! ムカつく!!
「どうしたんだい? ちょっと留守にしてたら、あのランプアイが頭空っぽ状態になってるじゃないかい?」
あ、パッファ。
今日はこっちにいるんだね。
「こっちの仕事を疎かにするとアロワナ王子に怒られるからね。冷蔵庫の機能チェックと、新しい漬け込み。あと糠床の撹拌が全部終わったらまた飛んでいくよ」
それはそれは。
忙しなくてお疲れ様です。
「と言うか聖者様さ。そろそろまた人手増やさねえ?」
「うん?」
俺は懐からガキヒトデを取り出して……。
……叩き落とされた。
「ただでさえ農場が拡大して要求される生産量も増えてさ。仕事が増えたのにマンパワーが据え置きじゃ効率落ちるよ?」
「またその問題か……」
「ガラ・ルファは、いつの間にか医務係も兼ねるようになったから酒造りも一向に進まないし。協力作業していた発酵食品の生産も、プラティのヤツがアンタ専属の秘書係になっちゃったから、もはやアタイ一人だ。それでランプアイまで色に耽ってポンコツ化したら、いよいよ人魚チーム立ち行かなくなるよ?」
恋愛沙汰で効率落としているのは間違いなくアナタもですけどねパッファさん。
しかし言ってること自体は正しい。
我が農場のセンターと言うべき発酵食品部門は、日夜増え続ける農場の住人と、外へと配るお土産の増加で需要と供給がパンク寸前。
前にもそうした状態でたった一人奮闘していたプラティが悲鳴を上げて、結局パッファ、ランプアイ、ガラ・ルファの三人を補充することによって解決したのだが。
その三人が新たにしたいことを見つけたりでまたマンパワー不足。
また人手を補充しなければならなくなるか。
どうするかなぁ……? と考えていたら、唐突に別の問題が襲来してきた。
「フッフッフ!! ついに見つけたわよ魔女ども! こんなところにコソコソ隠れていたとはね!!」
「ん? 誰だ!?」
突如農場に響き渡る、謎の声!?
聞いたことない声だな。
俺の知らない子か!?
声質が甲高くてフレッシュなので、若い女の子だということはわかる。
「このアタシを知らないなんて、さてはアナタ、モグリね!? 陸人は地上で潜るのね!!」
上手いこと言ったつもりだろうか?
「知らないならば答えてやるのが世の情け! 鼓膜をかっぽじってよく聞きなさい!」
鼓膜かっぽじったら破れて聞こえなくならない!?
「『火の魔女』ベールテール!」
「『氷の魔女』ディスカス!」
「『風の魔女』ヘッケリィ!」
「『地の魔女』バトラクス!」
「……そして彼女らを率いるリーダーがアタシ。人呼んで『聖光の魔女』エンゼル。我ら五人を一まとめにして……」
「「「「「正統五魔女聖ッッ!!」」」」」
…………。
俺たちの前に、無意味にポーズを取った五人の美少女たちが現れた。
…………。
何だろう恥ずかしい。
スッゴイ恥ずかしい!!
見てるこっちが恥ずかしすぎて痙攣起こしそうなんだけど!?
なんで登場時にポーズ取るの!?
その飾りすぎなネーミング何なの!?
この子ら何者なの!?
「エンゼルって……、たしか?」
「エンゼル王女? 何故こちらに?」
それを見たこちらの陣営で、パッファとランプアイは気づいたようだ。
ヘンドラーも知っているらしく、俺に説明してくれる。
「あの五人組の中央でリーダー気取りのエンゼル様は、現人魚王ナーガス陛下のご息女です」
王様の娘?
って言うと……?
「アロワナ王子とプラティ王女の妹君に当たられます。次期人魚王アロワナ王子と、天才と謳われるプラティ王女と比して、いまいちパッとしないという点が評判の第二王女です」
「いまいちパッとしない言うなああああああああッ!!」
ヘンドラーの説明に、強硬に割って入る。
そっか、プラティの妹なのかこの子。
「アタシはいまいちパッとしていなくなんかありません! プラティ姉様亡きあとの人魚魔法界に君臨し、燦然と輝くべきエリート魔女なのですわ!!」
攻撃的にわめきたてるエンゼルちゃん。
だが「亡きあと」とか言うなよプラティ死んでねえっつーの。
「あの女の妹だけあって強気だなあ」
「しかし何故ここに? この農場の場所は、ごく限られた者にしか伝わっていないでしょうに?」
当然人魚国の王族ともなれば、極秘情報に触れることができても問題ないだろうが。
……直感的にわかる。
彼女はその手の情報をけっして共有してもらえないタイプだ。
「そんなの簡単よ。ヘンドラーのあとをこっそり尾行したのよ」
やっぱり情報を貰えずに非合法な手段で到達してたんじゃないか。
「しかもキミの落ち度じゃないか。迂闊だぞヘンドラーくぅん?」
「申し訳ありません聖者様。ランプアイとラブラブすぎて浮かれていたと言いますか。だからすみません。首を絞めないで苦しい。折れる折れるグギギギギギギ……!」
目の前でイチャイチャされたイラつきもまとめて、チョークスリーパーで締め付ける。
その間、珍客たちの対応はパッファとランプアイに任せる。
「手段は判明したとして、こちらへの来訪の目的は何でしょう?」
「そうだよなあ。ご丁寧に陸人化薬まで飲んで変身してやがる。見たとこいいとこのお嬢さんばかり、こんな辺鄙なところまで何用だい?」
相手の目指すところがわからないだけに、警戒心充分な二人。
さすがは六魔女と言うべき油断のなさ。それに対する闖入者たちの反応が意外なもので……。
「キャー! 『凍寒の魔女』様と『獄炎の魔女』様よ!」
「氷と炎! 対極の二人! あの方々が並び立っている場面をナマで見られるなんて感激!」
「六魔女一のアウトローと評判のパッファ様に、戦闘狂ランプアイ様!」
「この光景を目に焼き付けておくわ! 一生の記念にするわ!」
…………。
なんだろう、このミーハーな雰囲気は?
そんな浮かれ気分の舎弟たちをリーダーのエンゼル、叱り飛ばす。
「何感動しているのよ! ヤツらは敵よ!? アタシたちは今日、ヤツらを倒すためにここへ来たのよ!!」
倒すために?
また物騒な。
「そうよ! 狂乱六魔女傑という前時代の遺物は去り、新しい支配者が台頭するのよ! それこそアタシたち正統五魔女聖!!」
プラティの妹、エンゼルは言った。
「さあ、ここにプラティ姉様がいるんでしょう! 呼んで来なさい! そしてこう伝えるのよ! アナタに取って代わる者が挑戦しに来たとね!!」