17 鍛冶
鉄など金属製品を作るために火は欠かせない。
鉱物を溶かして打つためだ。
だから俺は金属製品を作るために必要な火を、安全かつ効率的に活用するための施設。
窯を作ることにした。
とは言ってもそんなに大きい窯は必要ない。
地中から掘り出した鉱物は、まず高熱にかけて不純物を取り除き、製品に使用できる純粋な金属へ精製する必要があり、そうした行程があるならより大きな炉が必要となる。
しかし俺たちがこれから加工せんとするマナメタルは、ダンジョンの中でマナが凝縮してできたファンタジー金属。
元から純度100%で精製の必要などないらしい。
ならばなおさら利用しない手はないさ。
これまでも開拓生活で色々やりたいというのに、肝心の道具がなくて決行延期……、などともどかしい思いをしたことが幾度かあった。
そういう時に手元になくて不自由な思いをしたのは大抵鉄製品だ。
王都に戻って購入するという手も思い浮かんだが、ここから王都は片道一ヶ月という距離だし、しかもどういう道順で戻っていいか忘れてしまった。
何より、一度開拓生活を始めたからには、再び王都に戻ってあそこの人たちと関わり合いになりたくない。
なったらヤバい気がする。
なのでこの案は永久的に却下。
それはともかく。
これからの開拓生活向上を実現するためにも、鉄製品の安定供給は不可避。
いつかは取りかからなければ、と思っていた課題に、今こそ本腰入れて取り組むこととしよう。
* * *
で、窯作りだ。
適当な大きさの石を拾い集めて積み上げて、隙間に粘土を詰めて固める。
それでドーム状の形を作ってひとまず窯が完成だ。
まあ、簡単な試作品と言った気分で、この経験を元にしてより大きく、機能的な窯を多数制作していく予定。
鍛冶仕事用の窯だけでなく、料理用や炭焼き用、陶芸用の窯も作れたらいいな。
妄想が膨らむが、今は金物作りだ。
出来た簡易窯に早速薪をつっ込み、火をつけてみる。
思った以上にボーボー燃えた。
燃料として薪以外にプラティの作った燃焼剤も入れてみたのだが、それが効いたのか?
何を材料にしたのか聞いてみたところ、スパイス畑で育てていたトウガラシに魔法を加えて作ったらしい。
さすがトウガラシ。
温度は充分に上がったので、そこに適当な量に切り分けたマナメタルを入れて熱する。
どうやって切り分けたかというと、聖剣を使ってだ。
さすがのマナメタルも聖剣の前ではパンケーキのようなもので、要らないと思ったのにまた活躍する聖剣に忸怩たる思い。
熱したマナメタルを金槌で叩き、形を整えてていく……。
そして出来たのは……。
「フライパン! 完成!!」
フライパンだった。
実はずっとフライパンが欲しかったのだ!!
この世界に来て、所有している調理器具といえば万能タイプの小鍋一つのみ。
王都で買い込んだ時にはこれで充分だろうと考えていたが、開拓生活が長くなればなるほどに新たな料理のレパートリーを開拓したくなり、多種多様な調理器具が欲しくなる。
そこで金属製品が作れるようになって真っ先に制作したのが、このフライパンというわけだった。
しかもマナメタル製。
その性能を早速試してみようと完成したばかりのマナメタル製フライパンに火をかける。
油を引いて、充分に熱してから、オラが畑で育てた野菜を数種、刻んでぶち込む。
塩、胡椒で味付けして……!
「野菜炒め! 完成!!」
かなり簡単な部類の料理ではあるが、丸焼き、煮炊きに続く新たなステージの炒め物だ。
俺の開拓生活は、ここに新たな広がりを見た。
「うっさいなー。何騒いでるのよ」
部屋にこもって魔法薬の調合をしていたプラティもやってくる。
「……っていうかいい匂い? 何? 新作料理? 食べる食べる。あの美味しい野菜を材料に使ったんならどう調理したって美味しいじゃない! どれどれ?」
プラティ、キャベツの炒められてしんなり柔らかくなったところを、一口。
「んまーーーーーーーーーーーーーーいッッ!?」
大仰なリアクションが来た。
「何これ美味いッ!? 超クソ美味い! ただ生噛りするだけでも美味しかった野菜が、調理するだけで倍率ドン!? 旦那様! アナタ何者なのよ!? こんなに美味しい料理を作れるなんて何者なのよ!?」
「喜んでいただけたようで光栄です」
元々『至高の担い手』効果で調理器具を握ればプロ級の料理人にもなれる俺である。
しかし今回はそれに加えて道具もよかった。
このマナメタル製フライパンは、普通の鉄以上によく熱を通し、しかし決して必要以上に熱くもならず、まるで俺の意を汲んでくれたかのように調理を助けてくれた。
油ものを作った直後だというのに焦げ付きもなく、油汚れもちょっと磨いただけで落ちてしまった。
これがマナメタルの効果だというなら、なるほど夢の金属だ。
お土産に持たせてくれた先生に感謝するばかりだな。
「……しかし道具が揃えば、さらに使ってみたくなるのが人情というもの」
手元にある食材――、野菜だけでは、どうしてもメニューが限定されてしまう。
炒め用に使った油も、プラティが魚肥を作る際に副次的にできた魚油で、料理には向かないものだ。
プラティは喜んで食べてくれたが、俺自身はこの辺不満である。
やっぱり油は、植物か獣から採りたい。
「……よし」
俺は決意した。
「このフライパンでもっとおいしい料理を作るために、再び山に入る。そして山の獣をたくさん狩って、お肉をゲットする!!」