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173 海王子の資質

 アロワナ王子が遊びに来ている時に、魔王さんまで遊びに来た。


「久しぶりですな魔王殿! いっちょやりますか!!」

「望むところよ王子! はっけよい、のこった!!」


 アロワナ王子と魔王さんは、再会するなり相撲を始めた。

 俺が教えたものとはいえ、彼らのドハマリぶりが怖い。


 俺はしませんよ?

 ただでさえ畑仕事で腰がキツイですからね。

 しませんてば。


「どすこーい!!」


 土俵際まで追い詰められたアロワナ王子が、大逆転の巻き落としで勝利。

 武泳大会で優勝した豪傑人魚の粘り腰は、地上に出ても健在だった。


「負けた負けた。さすがアロワナ王子の相撲技は無敵の域よな」

「所詮遊戯の内です。一統治者として、魔王殿の大器は憧れるばかり……!」


 うん。

 仲いい。


 この魔王と、未来の人魚王、肝胆相照らす並に仲いい。

 平和な予感しかしないんだけど何コレ?


「いいことじゃないですか……? 何が不満なんですか……?」

「不満じゃないけれど……!」


 隣にいるベレナにツッコミを入れられ、一応リアクションしておく。


 しかしまあ、現状にまだ満足していない人が、たしかに一人はいるわけで。

 それが誰かと言うと……。


              *    *    *


「私はまだ、人魚王となる資格がない……!」


 アロワナ王子は、魔王さんも一緒になっての談笑の席で言った。


「武勇、知恵、器量、まだどれをとっても王となるには届かぬ! それを得ぬまま王となっては、愛する人魚国の災いにもなりかねん……!」

「そうは言うけれど……!」


 それはアロワナ王子が自分に厳しすぎるだけなんじゃないかな?


 少なくとも武泳大会? ってヤツで優勝したという近況を鑑みれば、武勇はキッチリあるんじゃないですかねえ。


 まして地上にあるもう一つの王国、魔国の王である魔王さんとも超仲良しって点は、外交的に相当なアドバンテージだと思うし。


 アロワナさんが王となれば人魚たちは安心できると思いますよ?


「いいや。武泳大会は所詮ルールで縛られた競技。そこで優勝したとしても真の戦乱を勝ち抜いたとは言えん。それに魔王殿と深く誼を通じれば通じるほどわかるのだ」


 自分の未熟さが……。

 とのアロワナ王子の弁。


「魔王殿は、私とそう年齢も違わぬというのに、既に魔王として責任ある立場にあり、人間国を滅ぼし地上統一の偉業を成し遂げられた。その覇気、その大器。私など彼の足元にも及ばぬ……!」

「いやいや……!」


 思わぬところで持ち上げられて、魔王さん照れ気味。


「ならば我からも言わせてもらうが、アロワナ王子は統治者として非常に好ましい人徳をお持ちである。アロワナ殿が人魚国を治めてくれれば、隣国の長としてこれほど安心できることはない」

「お心遣い痛み入る。……しかし私は、このまま現状に満足することはできないのだ。もっと人魚王に相応しい人物となれるよう威厳と、風格を備えなければ……!」


 ということをアロワナ王子は、最近来るたび言い重ねるのだった。


 どうやら武泳大会での優勝が、いい意味でも悪い意味でも刺激になったらしく、またウチで魔王さんと接する機会をもって『統治者とは?』なる命題を強く意識し始めたらしい。


 アロワナ王子は、今や大事な友人であるし、俺にとっては妻の兄でもある。


 ここは彼の悩みを解消するように一肌脱ごうではないか、俺が!!


「威厳や風格を備えると言うと、どんな手段があるだろうか……?」


 それこそアロワナ王子が求めているものだ。

 威厳……。

 風格……。

 俺はうーんと唸って、ピンと閃いた。


「装備を充実させてはどうだろう?」


 人間、形から入ると、その形に合わせて自分自身も変わるもの。

 豪勢な鎧を着てすっかり将軍のようになったオークボのケースもある。


「魔王さんにも怒聖剣アインロートみたいな伝説の武器があるし、それに倣ってアロワナ王子にも何か凄い武器を持ってもらえば、威厳が出てくるんじゃないか?」

「レガリアということか……、なるほど一理ある」


 俺の案を聞いて、魔王さんが顎を一撫でした。

 よし! そうと決まれば早速、アロワナ王子のために気合いを込めて武器を作ってみよう!


 ウチに在庫のあるマナメタルは、別名『地上最高の金属』とも呼ばれ、それを俺の『至高の担い手』で打てば、聖剣には及ばずとも相当いい武器ができるはずだ。


 男人魚の得意な武器は、銛らしいのでそれを参考に……。

 柄の部分は、山ダンジョンで栽培している樫の木から作って……。


              *    *    *


「できたー!」


 俺作製、アロワナ王子専用の銛!


「ほう……、これは……!」

「何と言うか、変わった形をしておりますな……!?」


 完成品を見届けた魔王さんにアロワナ王子、どちらも戸惑い気味だ。


「はい! 今回は持ち主の威厳を高めるという趣旨なので、見た目に派手なデザインを心がけました!」


 具体的にどんなデザインかと言うと。


 通常の銛が直線的で槍のようなものなのに対し、俺の作ったアロワナ王子専用の銛は、刃部分が三日月のような形状になっていて、とっても特徴的なのだ!


 これをアロワナ王子に持ってもらうことで、どうなるか!?


 相撲が大好きで。

 きゅうりの糠漬けをボリボリ食べて。

 甲羅の盾を装備するアロワナ王子。


 以前からそれらの特徴を兼ね備え、「河童か!?」というツッコミを受けていた彼が半月刃の矛を装備することによって浮かぶ姿は……!


 河童界のスーパースター!

 沙悟浄!!


 ……ってわかりづらいか。

 沙悟浄なんて俺の元いた世界でしか知られてないしね。

 沙悟浄がメインウェポンにしている矛みたいな武器も。

 悪ノリしました。

 すみません。


 と俺が反省している横でアロワナ王子、俺の悪ノリの集大成である半月刃矛を見事使いこなし、魔王さんと模擬戦に興じていた。


「おおおおおおッ!」

「りゃああああああああッ!!」


 右手に半月刃矛、左手に甲羅の盾をもって、魔王さんの怒聖剣アインロートと見事に渡り合っておられる。


 当然魔王さんも本気じゃないんだろうが、曲がりなりにも聖剣持ちの魔王と互角の戦いができるアロワナ王子って、やっぱりこの世界で最強クラスなんじゃないか?


「アロワナ王子。これぐらいにしておこう」

「承知。……しかし魔王殿はお強い、最後まで突き崩す隙を見出せませんでした」

「いや、あれ以上続けられたら体力が続かず、何らかの齟齬を晒していたことだろう。最近は政務が多いせいか、体が鈍っている」


 強者の会話を交わしていた。

 なんだかんだで気に入ってもらえたようだ。


「しかし……、聖者殿のご厚意は大変ありがたいのだが、やはり私自身を鍛え上げないことには、人魚王への道は拓けぬ。……私はここに決意した!」


 と奮起するアロワナ王子。

 決意って、一体何を?


「私は旅に出る。みずからを一から鍛え直す旅に!!」

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] そのストレスのあまり、頭頂部が禿げてしまい、益々、沙悟浄化していく、、、訳では無かったんですね。 良かった良かった(笑)
[良い点] 降妖宝杖だったかな?沙悟浄の武器は
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