表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/1391

16 お土産

 こうして平和裏にダンジョン探索を終えた俺たち。

 畑の様子も気になるので、ここらで名残惜しいがお暇する。


「倒したモンスターの素材は、ちょっと量が多すぎて一度に持ち帰れそうにないわ。肉とか足の速いものだけ持って帰って、あとは保管していただいてもいいかしら?」


 プラティが何ともテキパキしている。

 ダンジョン攻略時に色んな攻撃魔法薬を使い分けていたのも、撃破後に素材を持ち帰るための配慮だったようだ。


 役立つところのないモンスターは爆炎魔法薬で吹っ飛ばし。

 肉の美味しい、食材用にできるモンスターは凍結魔法薬で冷凍保存。

 さらに貴重な素材を有するレアモンスターは電撃で痺れさせ、生かしたまま行動不能に。


 なんともちゃっかりした奥様だこと。


『せっかくじゃ。これも一緒に持っていきなさい』


 と先生が何やら差し出してくれた。

 金属っぽい塊のようだが……。


「これってマナメタル!? こんな貴重なものを貰えるなんて!?」


 プラティが驚きつつ大喜びしていた。

 帰りにたくさんお土産を持たせてくれるなんて田舎のお爺ちゃんみたいだな、先生。


『マナメタルは、我がダンジョンでは余るほど生まれるでな。足りなくなったらまた取りに来るといい』


 気前のいいノーライフキングだった。


 ……あ、そうだ。

 持って帰ると言えば……。


「先生、この聖剣お返しします。元々ここにあったものだし……」


 いまだ俺の手元にあった聖剣を差し出す。


『いいえ、その剣はアナタ様を使い手として認めました。であればこそアナタこそが正当な持ち主と言えましょう』


 お収めください、と先生は言わんばかりだが、とんでもない。


 のんびり異世界スローライフを目指す俺にとっては聖剣など無用の長物。

 むしろこんなものを手元に置いておいて、「アナタこそ魔王を倒せる勇者です」などと資格を得る流れが怖かった。


「なので何としても聖剣はこのダンジョンに置き去りにしたい」

『ふむ……、そういうことなら我が方でお預かりしておきますかの』


 先生がちょっぴり残念そうに、聖剣を受け取った。

 しかし……。


『?』

「あれ!?」


 何とも奇妙なことが起った。

 聖剣の柄が、タコの吸盤のごとく吸いついて俺の手から離れようとしないのだ。


「ふぬぬぬぬぬぬぬぬ……! ダメだ! 離れん!?」


 何と言う強情さか!?

 この聖剣、本当に意思でもあって俺から何としても離れない気か!?


『やはりアナタ様は聖剣から認められたのです。聖剣はアナタと共にあるべきものなのでしょう』

「いいじゃない貰っておけば。そんなにいいものなら何かの役に立つでしょう?」


 プラティも他人事みたいに言いやがる。

 ……仕方ないか。

 先生からワンセットの鞘もいただき、腰に下げることにした。


 こうして俺たちは、先生に見送られてダンジョンを出た。


              *    *    *


「いやー、よい成果だった」


 家に帰ってきて、プラティは上機嫌だった。


「ダンジョンの主と仲良くなれるなんて想像もしていなかったわ! これも旦那様のお陰ね! さすがアタシの見初めた人だわ!!」


 そう言われると嬉しいやら照れるやら。


 持ち帰ったモンスターの死骸は早速解体して有効活用したいところだが、肝心の解体用の刃物がなかった。

 ……と思ったら聖剣があった。

 チクショウ、早速役に立ちやがる……!


「持ち帰ったのは、トカゲ型とヘビ型を一体ずつか……!」


 いずれも有効活用できそうなのは皮ぐらいのもので、肉は獣臭が強くて食べられそうになかった。

 皮をなめす技術は俺にはなかったが、プラティが魔法薬を駆使して行ってくれるらしい。


「やっぱり洞窟タイプのダンジョンで食用にできるモンスターは少ないわねえ」

「ダンジョンって他にもタイプがあるの?」

「そりゃそうよ。主に洞窟、山、遺跡の三タイプね。食用モンスターが一番出てくるのは山タイプだわ」


 ほほう。


「スクエアボアとかキリサキシカとか、あと鳥系が色々。いずれもアタシみたいな人魚族には縁のない種族だから、口に入れるのに憧れるわねえ……」


 とうっとり表情のプラティだった。


 彼女が口にしたモンスター名の一つが、妙に俺の気に留まった。


「スクエアボア……」


 四角猪?

 以前山に入った時に出会った角イノシシを連想する。アイツは頭から角が生えて、ちょうど口から伸びる牙と計四本。

 その頂点を結ぶと、四角形を表すかのようだった。


「まあいいか……!」


 今は先生のダンジョンから持ち帰ったものを整理する方が大事だ。

 あとの荷物は……。


「そういえばこれ、何に使うの?」


 と俺は金属塊を取り出した。

 お暇の間際に先生が土産にくれた、マナメタルとやらだ。

 プラティはこれを見て目の色を変えるほどに喜んでいたが、俺にはこれの何がいいのかわからない。


「バカね! これは超貴重な金属なのよ!!」


 プラティの説明によれば、マナメタルはモンスター同様、マナの凝縮によってできる金属らしい。


 マナが凝り固まって物質化するのは、モンスターとなるケースが圧倒的に多いのだが、稀にいくつかの条件が重なると結晶化してマナメタルになる。


 マナ溜まりであるダンジョンでも、マナメタルができるのは洞窟タイプのみ。

 食材系モンスターが山ダンジョンの特色だとすれば、マナメタルこそ洞窟ダンジョン最大の目玉なんだとか。


 硬くて軽く、色々な用途に利用可能。

 元々がマナだけに魔法とも相性がよく『魔力金属』などとも称されるマナメタル。


「ミスリルみたいなものかな……?」


 と一人勝手に納得した。


「これだけマナメタルがあれば、剣なら幾振り作れるのかしら? マナメタルの剣は、刀匠の腕にもよるけど一振り最低金貨十枚は堅いわ!」


 この土地を買った値段とほぼ同じじゃねーか。

 なるほど、それは大したものを貰ったものだ。


 元から金属製品は色々欲しかったし、材料が手に入ったという意味ではいいタイミングかな?


「よし」


 俺は決めた。

 これを機に金物作りに手を染めようと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 金貨1枚で、人が持ち運べる程度の量の最下層の貧民用の農具や工具と1ヶ月分の保存食が買える程度なのに、希少なマナメタル製の剣が金貨10枚?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ