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167 大浴場・満喫編

 完成した大浴場は、外観の造りが日本家屋風の木造建築。

 昭和の銭湯というような風情だ。


 プロデュースは俺で、細部まで拘って監修したからな。


 さて。

 実際に大浴場へ入ってみることにしよう。


 まず玄関口には、バティに拵えてもらった♨マーク入りの暖簾がある。

 それを潜ると靴を入れるロッカーがあって、そこから男湯、女湯へと分れて進むルートだ。

『男』と文字の入った藍染の暖簾と、『女』の文字が入った紅染めの暖簾も完備。

 このクオリティの高さ。

 さすがバティは布製品の仕事で妥協がない。


 俺は男なので、当然藍染めの暖簾をくぐって男湯に入る。

 するとすぐに脱衣場だ。

 通気性のいい藤むしろの床が、足の裏に心地いい。


 ここにもロッカーがあるので、そこに服を脱いで入れる。

 ロッカーには、今のところ鍵はついていない。


 そういう複雑な構造を作るのが面倒だし、我が農場に窃盗を働く者などいないと信じるからだ。

 これからもロッカーに鍵がつかないことを切に祈るばかりだ。


 で、タオル一枚だけをもってついに本丸、浴場へと到達!


 岩風呂!!


 洞窟ダンジョンや山ダンジョンなど、広い範囲から条件を絞らず、ただひたすら、いい岩を選んで持ってきて岩風呂を築きました!!


 広さも可能な限り大きめにとって、十人程度が入ってもまだ余裕がある規模。

 それを三槽用意した。


 個人風呂の時の教訓を踏まえて、これで人が溢れて順番待ちしなきゃいけない事態は避けられるはず。

 女湯も同じ規模で、まあ安心だろう。


「我が君ー、いいお湯ですぞー」

「生き返るー」


 既にオークボやゴブ吉たちが岩風呂に入って極楽的な表情になっていた。


 我が農場で男湯となれば、即ちモンスター湯となる必然。

 もっと正確に言えばオーク・ゴブリン湯だが。


 ただ狼型モンスターのヒュペリカオンたちも浴場に入って、仲のいいゴブリンたちに体を洗ってもらっていた。


「意外な……、犬や猫って風呂嫌いかと思っていたんだが……」


 それでも狼たちは気持ちよさそう。


 ザバァと湯をかけられ、ブルルルッと全身を震わせて水気を弾くと脱衣場の方へ駆け出していった。


 そして俺も湯に入る。

 やっと……、やっとだよ。

 湯船にこの身を、ついに沈めることができた。感無量だ。


「あ゛あ゛あ゛~~~、染みるうううう~~~」


 屋敷のお風呂は、連日女性陣に占領され続けてついに入ることができなかった。

 この大浴場が完成した今、あっちはどうなるんだろう?


 俺やプラティのような屋敷の住人が軽く体を流すのに使うか、来賓用かな。


 とにかく今はどうでもいいや。

 お湯の気持ちよさに思考までもが溶けていく。


『本当によいものを作られましたなあ』

「うひゃあッ!?」


 ビックリした!!

 何故ビックリしたかというと、俺のすぐ隣で乾涸びた人間の遺体がお湯に浮いていたから!!

 いや違う!?

 遺体じゃない!!

 ノーライフキングの先生だ!!


『お邪魔しておりますよ』


 来ていらしたんですか先生!?

 一言仰っていただけたら歓待しましたところを!


『いえいえ、こちらが勝手に押し掛けただけですゆえの。むしろ非礼を詫びるのはこちらの方です』

「そんな!」


 俺たち先生には散々お世話になっているじゃないですか!

 そのお礼のためにも、この大浴場にぐらい、いつでも何度でもお越しください!!


『はっはっはっは』


 先生は鷹揚だ。


『では、折々通わせていただきますかな。ここは我がダンジョンから近いですし、気楽に足を運べますわ』


 それはもう!


 不死の王、御用達の温泉。

 凄いんだかヤバいんだか。

 いっそネーミングを『地獄温泉』にでもしたらシックリきそう。


「……でも先生のお体って、生きてる連中とはどう見ても違いますが。それでも温泉は効きますか?」

『効きますとも。先ほどから、体の隅々まで湯が染み込むようで活き活きとしますわい』

「…………」


 ……不死の王が活き活きするのって、問題ないんだろうか?

 あと体に湯が染み込むって、実際に染み込んでいたりしないんだろうか?


 先生の体は、まさしくアンデッドとばかりに乾涸びた五体をしておられる。骨の上から薄い皮と、ほんのわずかな肉が覆っていて、それらが乾ききって干物然。

 より正確に表現するなら木乃伊ってヤツだ。

 あるいは即身仏?


 だから基本乾涸びたお体で、水などに触れようものなら猛烈に吸い取ってしまいそうな……。


「大丈夫ですかね? 温泉が却って先生の健康を害したりしたら……!?」


 鰹節ってカビが生えるから水気厳禁って言いますじゃない?


『大丈夫でしょう。お湯ごときでノーライフキングを倒せるのならば、とっくに生者たちの間で情報が広まっておりますとも』


 そりゃそうですよね。


『ワシのように、乾涸びた肉や皮が残っておるタイプはまだしも。完全な白骨タイプのノーライフキングもおりますんで、そういう者にはますます効かんでしょうなぁ……』


 白骨かぁ……。

 それはそれでカルシウム分が溶けだして温泉には向かないかもしれないが。


 先生の口振りからちょっと気になった。


「先生は、自分の他のノーライフキングに会ったことがあるんですか?」

『ありませんな。皆、自分が主を務めるダンジョンから出ず、俗世と関わろうとはしませんので』


 じゃあ、どうやって自分以外のノーライフキングの形状などを知って?


『世界中を循環するマナ対流には、上手く術を使えば思念を乗せて遠くに運ぶことができるのです。それをもって世界中のダンジョンの奥底に住むノーライフキングたちは情報をやり取りすることができるのですよ』


 へえええええ……。

 いわば魔法電話か。

 それでもノーライフキングが使う術だけあって高難易度なんだろうなあ。


『活きのいい冒険者の情報を共有したり、互いのダンジョンで獲れたものを融通し合ったり、便利ではあります。ただ、面倒くさいこともありましてな』

「ほう」

『相手によっては、明らかに思念が届いて読んだとわかるのに反応がなかったり、逆にそういうことに怒って「なんで返事しないのだ!?」などと追申を送ってきたりしましてな。不死の王も付き合いが大変ですよ……』


 既読スルー問題かよ。


 しかし、先生があんな地下のダンジョンに千年も引きこもっていながら、浮世離れしていなかったり世事に詳しかったりするのを時々不思議に思っていた。

 それが理由だったんだな。

 思念通達魔法で他のノーライフキングと情報共有していたのか。


「さて……、では骨の髄まで温まったことですし、そろそろ上がるとしますかな」

「ハイ、それはいいですが……」


 先生が、ザブンと水音と立てて湯船の中から立ち上がった。

 その姿を見て俺は、心底当惑した。


 何故か?


 そこに俺の知らない人がいたからだ。


「あの……、あの……、いいですか?」

「はい?」

「アナタ、誰なんですか?」


 と俺は先生に聞いた。

 いや違う。

 この人は、先生がいるはずの位置に立っているけど先生じゃない。


 どういうことか?

 先生らしいその人は、れっきとした生きている人間だった。


 肌に艶があり、筋肉も盛り上がり、髪もサラサラ。

 容貌は、明らかにイケメンの部類に入る二十代ほどの好青年だった。


「本当に誰だぁーーーーーーーーッッ!?」

「異なことを、アナタ方が先生と呼ぶノーライフキングではないですか」


 違う!

 俺たちの先生はもっと木乃伊みたいに乾涸びている!


 アナタのように生命力漲るイケメン青年じゃない。


「……これを」


 ゴブ吉が、お湯でなみなみ満たされた桶を先生(?)らしき好青年に差し出した。

 手鏡の代わりか。

 桶の水に映っている自分自身の顔を見ろと。


「これは……」


 水に映る自分の顔を見て青年、言う。


「生前のワシの姿ではないですか?」

「生前!?」


 先生アナタ! アンデッドになる前はそんなイケメンだったんですか!?

 ビックリだよ声まで変わって!!


「温泉とは凄まじい効能がありますなあ。まさか乾涸びたワシの体に生命を取り戻させるとは」


 しかし先生は、風呂から上がって体をタオルで拭いていくうちに水気が取れる。すぐまた元の木乃伊状態に戻ってしまった。

 ほんの僅かな間の状態変化ではあったが。


 俺は、すぐさま記録せずにはいられなかった。


 我が農場温泉。

 効能。


 若返り。

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