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160 天使昇臨

 今日もいい天気だ。

 俺は本日久々に、レタスレートちゃんの個人畑を手伝ってやることにした。


「もう! 遅いわよセージャ!!」


 元人間国のお姫様で育ちのいいレタスレートちゃんは、その分我慢を知らないので待たされてプリプリだった。


「早く新しい作物を育てたいのに! アナタがやってくれないと何も始まらないじゃない!!」


 まあ、そうなんだけどね。

 我が農場では、作物の種付けは全部俺の『至高の担い手』によって行われるので、俺がいないと始まらない。


 それはレタスレートちゃんが行う個人的な農地でも変わらないのだ。


「だから悪かったって。ここ最近、魔族の商人さんを歓迎したり納豆作ったりと忙しかったから……!」

「そんなことより人間族の王女である私を優先するのは当然……! ッ!? おっと危ない。こんな偉そうな物言いしてたら、またあの鬼人魚のパンチが飛んでくるわね……!」


 彼女もやっと学んだか。

 そうそう、プラティが怖かったら血筋云々で偉そうに振る舞うのやめようね。


 ともかく種付けさっさとやっちゃうか。

 俺自身、他にもたくさん作業が控えて詰まってるし。


「で、レタスレートちゃんは次何を育てたいの?」

「ソラマメ!」

「またソラマメかあ……」


 レタスレートちゃんソラマメ大好きだね。

 でもあんまり同じものばっかり育てると連作障害起こるからおススメできないなあ。

 まあいいか。まだそこまで実害起きるほど連作してないだろうし。

 もう一回ぐらい……。


 ……と、『至高の担い手』で土を触ろうとしたその時だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 と地面が揺れた。


「キャアッ!? 何?」

「地震かッ!?」


 地面が揺れたということは、他に原因が思いつかぬ。


 この農場で暮らし始めてから地震なんて一回もなかったし、そういう地盤じゃないかと思ったが……!

 しかしたまに起こる地震ほど大きくて危ないというし……。

 とか思っていたらさらに……!


 ズボーンと! 地面に大穴が開いた!?


「ぎゃあああーーッ!? 私の畑があああああーーーッ!?」


 地面の穴は、よりにもよってレタスレートちゃんの個人畑のど真ん中に開いていた。

 なんかもう落盤と言っていいレベルの規模で、彼女の畑は見る影もない。


 地震の原因はこれだったか。


 これはもしや……!?


「モグラッ!?」

「えッ!? どういうことなのセージャ!?」


 モグラと言えば農家が憎む害獣の一種。

 地中に穴を掘るのが特徴の動物だが、その掘ったトンネルのせいで作物の根が傷んだり、地面を脆くして田畑を荒らしてしまう。


「じゃあ、これはモグラの掘った穴だっていうの!?」

「モグラ穴にしては大きい気もするが……!?」


 人一人が楽に出入りできそうなほど大きな穴だからなあ。


 しかしここはファンタジー異世界。

 前の世界の常識では推し量れない部分もあるだろう。


 人間に匹敵するほどの体長を持った巨大モグラだって異世界にはいるかもしれない!


 そう思っていたら、開いた地面の穴からビュンと何かが飛び出した!

 それこそ人間ぐらいの大きさだ。

 速すぎて残像しか見えなかったが。


「ぎゃあああああ!! 今度は何ぃッ!?」

「落ち着け! 今のもきっとモグラだ!!」


 この穴を掘った犯人だ!


 ファンタジー異世界のモグラなら、空飛ぶことだってあるかもしれないじゃないか。


 そうして飛び出した何かは、そのまま空中に浮遊し、俺たちにその姿をくっきり晒した。


「…………女の子?」


 それはやたら美しい容姿の美少女だった。

 輝く金髪。白磁のように硬くて透き通った肌。

 総身には戦闘用と思しき鎧をまとい、しかもそれが全体宝石のように輝いていた。


 そして何より目を引くのは、背中から広がる一対の翼。


「あ、あれがモグラなのセージャ? どう見ても違うと思うんだけど……!?」

「まだわからない!」


 何しろファンタジー異世界だからな。

 美少女のモグラだっているかもしれない!


 俺たちの狼狽を余所に、美少女本人はどこの何を見ているのかわからない様子だった。


「……マナゲージ、強制開放を確認。天使識別番号零六番、ホルコスフォン。再起動開始」


 なんかブツブツ独り言を言っている?


「外世界と同期開始。休眠時より三八二七年の経過を確認。各所に経年劣化による不具合を確認。記憶回路に欠損。行動目的の消失を確認。永久機関からのマナ供給不足。起動状態の維持困難――。最低限の活動マナ確保のため、『イカロスの翼』機能を停止――」

「え? え? ええええええッッ!?」


 色々ブツブツ言った末に、美少女は浮遊をやめて、いきなり地面に落ちた。

 もう何が起きているのかもわからず、とにかく少女に駆け寄る。


 抱き上げると、少女は意識がなく目を閉じていた。体温も低いし呼吸も細い。

 っていうか呼吸してない?


「ねえねえ、何か調子が悪そうよ? 病気? ケガ?」

「わからん……! モグラだから日光に当たって具合が悪くなったかも!?」


 いい加減『モグラ説捨てろ』と自分でも思わないでもなかったが、今はこの少女の状態に対処しなければ。


「まず家の中に運ぼう! それからガラ・ルファを呼んで……! だ、誰か来てー! 手を貸してーッ!?」


              *    *    *


「全然わかりません」


 美少女を診察するガラ・ルファがお手上げのポーズをした。


 元々人魚医学会に所属した医師で、ウチにいる中では一番の専門家なんだけど、そのガラ・ルファが診察して何もわからないと?


「出ている症状が、私の知識とまったく噛みあいません。そもそも、この子が何の種族かわからないんです。人族でも、魔族でも、人魚族でもありません。それらから派生する亜種族にも、特徴が合致する種が見当たりません」


 それでお手上げってわけか……?


 この子が、何の種族かわからないから。

 その種族特有の病気か何かだった場合、対処がわからない、と?


「せめて、栄養をたくさん与えて体力を上げるべきですね。それくらいしか私に思いつく対処がありません。ごめんなさい……!」

「いやいい、助かった……!」


 ならばとにかく栄養のあるものを食べさせるべきだな。

 幸いうちの農場にはそういうのたくさんあるぞ!


「我が君! これを使ってください!」


 と言うのはゴブ吉ではないか。

 騒ぎを聞きつけて野次馬化している集団に含まれた一人だったのが、進み出てきた。


「ここに納豆をお持ちしました! 栄養満点! 病気に効くとなれば打ってつけです!」


 と納豆の入った小鉢を差し出す。

 ゴブ吉……、納豆の試食第一号となって以来なかなかの納豆マニアだな。


 たしかに納豆なら栄養があって、この子も元気になるかもしれないが。こんな状態ならもっと食べやすいものの方がいいのでは……?


「ええい、ままよ!!」


 迷っている暇はない。

 俺は既にゴブ吉によってネバネバ掻き混ぜられた納豆を、少女の口の中に流し込んだ。

 これで元気になってくれ……!


 ゴオオオオオオオオッッ!!


 と凄まじい圧倒感を放ちながら、少女が立ち上がった。

 何コレ!? オーラ!? 気迫!?


 とにかく息絶え絶えだった少女が完全復活!?


「機能完全回復を確認。自己診断開始、マナ各部供給――、正常。自己修復機能――、正常。各種センサー動作――、正常。戦闘モード出力――、七十%まで開放可能。コンディションレベル――、グリーン。万全状態への復帰を確認」

「あ、あの……?」

「記憶情報の復元を試行――、失敗。次善処理として、新たな情報を入力することで行動を補完します」


 まったく訳がわからず呆然としている俺へ、少女の視線が向いた。

 そしてすぐさま跪いた。


「私を機能不全状態から回復させてくれたのは、アナタとお見受けします。私は天の御心によって作られし刃。天使ホルコスフォン。マスター情報消失のため、これよりアナタを新たなマスターとして登録します」

「ええええええええッッ!?」


 天使!?

 天使っつったこの子!?


 天使と言えば神の使いで翼の生えている……。たしかにこの子、翼がある!?


「命令をお与えください。私はマスターの刃となり、マスターの敵を悉く壊滅させていきましょう」

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