1559 ジュニアの冒険:プラティvsヴィール融和篇
「アタシの作るカレーには二つとして同じ味がない! よって誰もアタシの作るカレーの味を予測することができない! これこそアタシの調理奥義、カレー転生!」
いや、それはただ同じ味を再現できないだけでは?
疑惑が確信に変わった。
やはり料理は父さんに任せておくのが一番よい、ウチの家庭の場合。
「そして、このオークボ城屋台は神聖な勝負の場でもあるのよ! アタシとヴィールの!」
母さんとヴィールの勝負の場?
それは一体!?
「アタシはカレーで、ヴィールはラーメンで、それぞれの売り上げを競ってきた。それこそ毎年オークボ城が開催されるたびに繰り返されてきた勝負!」
「そうだ! オークボ城がご主人様の手から離れたあともこの勝負だけは途絶えることなく続けてきた!」
母さんに呼応するようにヴィールまで叫び出す。
……お客さんがビビるから大声はよした方がいいんでは。
「それが、お互いのプライドを掛けた戦いだからだ! おれ様が全身全霊を込めた傑作ラーメンと……!」
「アタシの母の愛がこもったカレー……!」
「「どちらが美味いか、今年こそ決着をつける!!」」
プライドを懸けた勝負を、どうしてカレーとラーメンで?
別に本職料理人というわけでもないだろうに。
まあカレーもラーメンもどっちも人気食で甲乙つけがたいところもあるが。
だからと言って勝手に勝負に使われてはカレーもラーメンも迷惑だろう。
しかし母さんとヴィール。
農場ではなんかあるたびに張り合い、激突する犬猿の仲……いや竜魚の仲たがい。
お互いがもっとも有能で父さんの役に立てるという自負心が共通している上に、力ではヴィールが、知性では母さんが秀でており、その分自己の得意分野から外れる相手を見くびる傾向がある。
それゆえ二人はずっとそりが合わない。
恐らく僕が生まれる前から。
こんな二人を合わせて仲たがいすることなく共存させていた父さんの統率力は目を見張る。
僕がこの域に達するまで、一体どれだけかかるものか。
とにかく、この母さんとヴィールの険悪な雰囲気が、せっかくオークボ城を楽しみに来ているお客さんに伝わってしまう。
「今年もカレー屋とラーメン屋は仲悪いなー」
「ドンドンやり合えー、もっと争えー」
そうでもなかった。
ここへ訪れる人たちにとっては諍いも娯楽の一種か。
毎年オークボ城を訪れている人たちにとってはもはや恒例の、観光ポイントの一つなのか。
しかし、古くから二人を知り、これから父さんに替わって農場を引っ張っていくであろう僕が何とかしなければ!
僕が二人のためにできること……、それは、これしかない!
「うりゃそろわぁああああああああああッッ!!」
「ジュニアッ!?」「一体なんだ!?」
母さんとヴィール。
二人が営業するカレー屋とラーメン屋。
それぞれから材料をお借りして、父さん譲りの腕を振るって作り上げた料理は……!
「カレーラーメン!!」
「「えぇえええええええええええッッ!?」」
カレーとラーメン!
それぞれから素材を持ち寄れば出来上がるのはカレーラーメンが必定!
カレー味のスープになみなみとひたる麺!
それこそが二つの融和を象徴するカレーラーメンだ!
僕はこの料理に、平和と友情を表現する!
「……愚かねジュニア」
なにぃッ!?
母さんからの厳しい評価!?
「カレーとラーメンを合わせてカレーラーメン。そんな安易な発想がこれまで一度も出なかったと思っているの? カレーライスのライスの代わりに別の炭水化物を。一見簡単に見えるその発想は実は何より難しい。……何故だと思う?」
な、何故でしょうか?
「ただ簡単に混ぜ合わせただけでは、麺とカレーは互いのよさを引き出さないからだ。カレーライスだって、カレールーに小麦粉を混ぜてとろみを出し、飯粒に絡みやすくするなどの工夫をしてある」
「その細やかな工夫を抜きにして、ただグチャグチャに混ぜ合わせただけじゃいいものは生まれないと言ってるのよ」
母さんとヴィールが交互に論難してくる。
「しかもこういう場合は、完成時にしっかり味がまとまるよう原料段階から配慮が必要! それなのにここに用意されているのは中途半端に出来上がったもの!」
「しかも違うヤツが違う目的で拵えたヤツがな! これが噛み合うなんて奇跡でも
起きない限りありえねーのだ!」
くっそ、この二人こういう時だけ息ピッタリだ。
「旦那様のようにカレーうどんでまとめ直す手もあったけれど、ジュニアにはまだそこまでの発想の転換はなかったようね」
えッ、何それ?
カレーうどん? 初耳なんですけれど?
なるほど父さんも、この困ったライバルを治めるのに一苦労があったんだな。
しかし僕だって、長年父さんの背中を見て育ってきた自負がある。
けっして父さんに恥ずかしい料理は作らない!
まずは四の五の言わずにカレーラーメンを一口食べてみてはどうか。
麺が伸びる前に。
「ええ~、ジュニアが言うなら試食ぐらいはするけれど……」
「ジュニア以外なら絶対聞き届けねえ」
そう言って母さんもヴィールも不承不承ながら僕謹製スペシャルカレーラーメンに箸をつける。
「麺ってスープがはねて汁がかかるのよねー。しかもその汁がカレーじゃ目立つし落ちないじゃない」
「凶悪と凶悪が兼ね合わさったな」
ブツブツ文句言いつつも、カレーがしっかり絡まった麺を口に運ぶ。
その瞬間……。
「!?」
「!?!?!?」
二人の表情が変わった、衝撃に。
「これはなんだぁあああああッッ!?」
「まとまっている! 味も歯応えもちぐはぐじゃなく混然一体となってお互いを高め合っているのだ!」
「どういうこと!? このカレーラーメン、スープはアタシ、麺はヴィールで製作者が違えば調理の目的も違うはずなのに!?」
「どうしてまとまるんだぁああああッ!?」
驚いているな母さんもヴィールも。
しかし僕にとっては驚くことじゃない。
母さんから生まれ、物心つく前からヴィールに可愛がられて育った僕にとっては。
他の人じゃ難しかったかもしれないが。
「「ええッ?」」
そう、僕は母さんの息子であり、ヴィールの遊び相手。
二人のことは生まれた頃からずっと知っている。
だからこそわかるんだ。二人の料理、二人の手掛けたものをどうすれば融合させて、反発が起きないようにできるか。
二人をよく知る僕だからこそ可能な友情和合カレーラーメンだ!!
「ジュニア……!」
母さんが目頭を押さえた。
……泣いてる!?
母さんが!? カレーラーメン食べて!?
「子どもってのは知らないうちに大きくなるものね。こんな感動的な料理を、いつの間にか作れるようになっていたなんて……!」
それでもカレーラーメンで泣くってのはどうかと。
「ヴィール……思えばアナタとも、今日まで長い付き合いになったわね」
「そうだな、お前との出会いはどんなものだったか」
二人の思い出が、二人の間で走馬灯のように飛び交う。
殴り合ったり、ののしり合ったり、出し抜き合ったり、バカにしあったことを……。
「それでもアタシたちには共通する事柄があった。たった一つだけ」
「そうだ、すべてはご主人様のために」
「そんなアタシたちの決意を形にしているかのような……!」
「このカレーラーメン……!」
マジかよ。
「自分の生んだ子に諭される日が来ようなんて……。アタシの母親としての役割は、終わりが近いのかもしれないわね」
「それでも終わらない役目がある。ご主人様はまだまだおれたちの助けを必要としているはず」
「そうね、その時はアタシたちが率先して旦那様を支えなきゃね。協力して……」
「この……」
「「カレーラーメンのように!」」
固い握手を交わし合う母さんとヴィール。
二人の想いが、カレーラーメンのように隔てることなく交わった。
その様子を遠巻きにして見るオークボ城の見物客たち。
「そんなに美味しいのかカレーラーメン?」
「オレも食べたくなってきた……!」
「おい、カレーラーメン一杯くれ!」
「こっちにも!」
「大盛りで!」
今年のオークボ城でもっとも売れた屋台メシは……。
カレーラーメンとなった。






