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154 ブランドネーム

「このたびは、本当に申し訳ないことをしてしまいました」


 魔王妃アスタレスさんが訪ねてくるなり俺に言った。


 その横には、何故か縄でぐるぐる簀巻きにされた魔族娘バティが引きずられている。

 ……彼女、たしか今朝方「魔都の最先端ファッションモードを偵察してきます!」とか言って出掛けて行ったよね? 意気揚々と?

 それが何故こんな無残な姿で帰ってきているの?


「このアホ娘が、秘密を漏らしてしまったのです!」

「秘密?」


 心から申し訳なく謝罪するアスタレスさんに、詳しく事情を窺った。


 なんでもバティは、久方ぶりに帰った魔都で、四天王副官だった時代の仲間たちと再会。

 思い出話に花を咲かせているうちに、近況の話となって……。


 ……ここで服を作っていることを喋ってしまったと。


 その罰でアスタレスさんからボコボコにされてしまったと。


「部下の過ちは、上司である私の過ちでもあります。こうして充分な責めは負わせましたが、やはり聖者様への直接の詫びは必要不可欠と、失敗した当人と共にまかり越しました……!」

「いや、それはいいけど……!?」


 なんでもバティは、魔王城に乗り込み、アスタレスさんの部屋まで行って「すみませんバラしちゃいましたぁ!!」と直接土下座したという。

 非常に潔い態度だが、そこではアスタレスさんがちょうど商談をしていて、ウチの生産品を仲介売りしている商人さんも同席。


 そこでも秘密が漏れてしまったという。


「それで、なお一層ボコボコに……!?」

「本当になんとお詫び申し上げていいか……!! 聖者様がお望みとあらば、バティをもっと取り返しのつかないレベルでボコボコにし、せめて鬱憤を晴らしていただく他ございません……!」

「いや、いいよ別に……!?」


 バティも長年夢見てきた分野で大成功を収めたんだから誰かに自慢したくなるでしょうよ。

 ……え?

 ……そういうんじゃない?

 好きな男から言い当てられて取り繕えなかった?

 ちょっとイラッと来たかな?


「この農場のことを新たに知った者は正確に把握し、口止めを誓わせることには成功しました。ですが人の口に鍵はかかりません。より万全とするためには、その命ごと封じてしまうのが……」

「怖い怖い怖い……! いいよ気にしなくて。そもそも俺は『秘密にしろ』なんて言ったことないよ、一度も?」


 ウチの農場のことを秘匿するのは、アナタたちの方で勝手に言い出したことでしょう?

 多分。俺の記憶が正しければ。


「そっとしてくれることは有り難いけれど、必要以上にオメルタ(血の掟)する必要はないよ。お喋りには死を、とか怖すぎるよ……!」

「聖者様がそうおっしゃるのであれば……!?」


 アスタレスさんは戸惑いながらもバティに掛けられた縄を解いていった。


 しかしアスタレスさん、怖い。

 結婚を経て妊婦となり、多少は人格も丸くなったかと思いきや、四天王時代の残虐将軍ぶりは健在ではないか。


「まあ、レタスレートちゃんのこととか絶対外に漏らしちゃいけないこともあるけれど、あまり神経質にされ過ぎるとこっちも息が詰まる」


 外と商売すると決めた時点で、こうなることは避けられない事態だったろうし、遅かれ早かれの問題だったんじゃない?


「聖者様の寛大さには、いつもながら痛み入ります」

「お言葉に甘えてさらにご相談があるのですが!」


 戒めを解かれたバティが、もう復活していた。

 相変わらずバイタリティ溢れてんなコイツ。


「私が出頭した時に、アスタレス様と商会の人が話していたんですが……」

「うん?」

「ブランドを決めたいのです」

「うん?」


 ブランド?

 俺が元いた世界で言うシャ○ルとか、ティファ○ーとか、エル○スみたいな感じの?


「私の服を売りさばいてくださっている商人さんが言うには、高品質、高級な商品をブランド化することで、その価値が一目でわかるようにしたいんだそうです」

「なるほどなー」


『大丈夫! ○○のブランドだよ!』って言えばお客さんに一言で価値が伝わるもんな。


「私が魔都で会った元同僚たちも、私製の服を『謎ブランド』と呼んで有り難がっていました。私の服一着一着だけでなく、私の手がけたもの一ぐるみで価値が出来上がっていて、それが一言で表すのがブランドなのです」

「商人からの提案では、バティの服だけでなく、エルフたちの作品も一まとめにブランド化しないかと言われました」


 アスタレスさんが追随して言う。


 それってつまりエルフどもが作った陶器や革製品やガラス細工や木工細工も、ってこと?


「エルフたちからの提供品も、やたら高品質と商人が驚いていました。それら全部を一つのブランドとして売り出し、付加価値を高めてブーストを狙いたいのだと」

「私の服もデザインを真似する輩が増えてきて、それらパチモノと違いを明確にするためにもブランド化は有効な手段です」


 まあ、いいんじゃないの?

 俺にはそういった商売の話は分からないし、あこぎにならない程度なら、より利益を上げるための工夫はガンガンしていくべきだ。


「よきにはからうといいでしょう」

「「ありがとうございます!!」」


 こうして話は成立した。


「つきましては、必要となるのはブランド名です」

「うん?」


 バティさらにガツガツしている。


「そのブランド名を、農場の主たる聖者様に考えていただきたいと……!」

「「「「お願いいたします!!」」」」


 いつの間にかエルフまで集まって、俺にお願いしてきた。


 まあ、俺が考えるのが一番角が立たないか。

 ここは、あまり捻ったものを狙わず、単純な名前にしておこうか……。


「……『ファーム』」


 農場より。


 バティの服もエルフたちの工芸品も、ここ農場で作ったものだから自然であろう。


「承りました! よい名です!!」

「これからは、この農場から売り出すものを『ファーム』製と括り、ブランド価値を高めていきます!!」


 あまり言わないで恥ずかしい。


              *    *    *


 ウチの生産品のブランド化は、割と急ピッチで進められた。


 意外なことにヴィールまで協力的で……。


「ん、出来たぞ」


 と何やらハンコのようなものを作り出してきた。


「竜魔法で作り出した特別製のスタンプだ。布だろうとガラスだろうと何にでも押せて二度と消えん」


 そんな便利なものをありがとうございます。


 このハンコはこちらの世界の言葉で『ファーム』と刻まれているらしく、この捺印こそウチの農場で生産されたものという動かぬ証明というわけ。


 早速、持ち出されるバティやエルフたちの商品にバンバン押していく。


「…………」


 その様子を、我が妻プラティが難しそうな顔で眺めていた。


「どうしたプラティ?」

「……いや、あのハンコ。ヴィールの手から離れても竜の魔力が残ってるのよねえ。その魔力が、捺印したものにも僅かながらに移って行って……!」

「え?」

「あれって、いわば押したものに竜の加護を与えるマジックアイテム……、ってことじゃないかしら?」


 ……。

 またウチのブランドに付加価値が?


 まあいいや。


 深くは考えないことにしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言]しかし、どいつもこいつも後の事を考えてねぇな〜!!迷惑かけっぱなしじゃん。上手くいってるからいいけどね。
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