14 不死王
ノーライフキング。
それはこの世界における最凶最悪の脅威。
死した者が自然の理に反して再活動する不死者アンデッド。その頂点に君臨するのが不死の王ノーライフキングなのだという。
生前から高い魔力と知能を有する大魔導師もしくは高僧が、みずからの意思でアンデッド化し、永遠となった存在。
不死者ならではのしぶとさ。自分の意思でアンデッド化できるほどの魔力。
それに加えて紛い物なからも永遠の生命を得て、長い時間とともに蓄積された知力はただの人間など及びもしない。
それら様々な厄介さを結集させた不死の王ノーライフキング。
比肩しうる強者はそれこそドラゴンぐらいしかない。
この世界においてドラゴンもしくはノーライフキングに出会うことは、そのまま死を意味していた。
* * *
……以上が、プラティが俺にしてくれたノーライフキングについての説明だった。
そんなヤバいヤツが、このダンジョンを根城にしていたのか。
ノーライフキングの待ち受けるダンジョン最下層に踏み込んでしまうのは、当然ながら超危険。
いや、踏み込んだら必ず死ぬので、危険とかどうでもよくなってしまうレベル。
逃げようと思っても逃げられない。
何せここはヤツの本拠とするダンジョンの奥深くなのだから。
能力、知能、共に人間を遥かに超越するノーライフキングに狙われて、逃げおおせることなどできるはずがない。
俺たちにやれるのは、ただひたすらに立ち向かうこと。
それが万が一にも生き延びられる唯一の可能性。
だから俺たちは必死に戦った。
そして勝った。
* * *
「何故勝った!?」
勝ち鬨を上げる俺たちの方がビックリだよ!!
割とあっさり勝てましたよ、この世界最凶最悪の脅威に!!
一体どうしてこうなった?
『何故も何も、アナタ様の手にしておる剣のせいじゃろう』
敗北したノーライフキングさんが、両手を上げて『降参』のポーズをとっていた。
俺に斬りつけられまくって体中ボロボロだったが、元々ゾンビだし、俺と戦う前からけっこうボロボロだったような気がしないでもない。
それよりも……。
「え? 剣?」
それは俺がこのダンジョンで現地調達した剣のことか。
今回のノーライフキングさんとの戦いでもメインウェポンだったけど。
『何を自分で驚いておる。不死の王たるワシを討とうというからこそ、聖剣など用意してきたのじゃろう?』
「聖剣!? これが!?」
いやいやいや!
ただの拾得物ですよ!?
現地調達現地利用の!! しかも割と入り口近くで拾いましたが、そんな無造作に聖剣なんて落ちてるものなんですか!?
『うむ……? ちょっと待て』
ノーライフキングさんは踵を返して部屋の奥に引っ込むと、雑多なその辺をゴソゴソ漁り始めた。
『やっぱりなくなっとる』
「え? 何が?」
『ワシが一振り所蔵しておった聖剣が。どこか見覚えのあると思ったら、みずからの主を見つけて馳せ参じておったか』
ええー?
『聖剣はみずからの意思を持つ剣。正し戦いに向かうため、自分で自分の主を選び出す。アナタ様は聖剣に選ばれたのですじゃ』
そう言って不死の王者は、自分から跪いた。
『聖剣が主を得た以上、ワシの現世での役目も今日で終わり。どうかその剣で、ワシにとどめを刺してくだされ。不死に呪われた我が肉体も、聖剣の光でならば浄化出来ましょう』
「そんなこと言われても……!」
どうしていいかわからなかった。
助けを求めるように背後のプラティへ視線を向けるも「アタシの手に負えない」とばかりに被りを振られた。
自分で決断せよということか。
しかしこのノーライフキングのオッサン(?)。いざ向かい合ってみると話が通じるいい人っぽいし。
無益な殺生はしたくないな。いやもう相手死んでるけど。
「あー……、多分ですけど俺、この聖剣の本当の主じゃないです」
『なんと?』
「俺は異世界から来たんですけど、その時神様から能力を貰って……」
どんなものでも手にすれば、持ち物に見合った達人になれるのだということを簡潔に説明した。
「……だから、この聖剣もギフトの力で反則的に扱えてるだけなんだと思います。俺はコイツの真の主じゃありません。勝手に持ち出してすみませんお返しします」
と聖剣を差し出す。
しかしノーライフキングさんの反応はまた格別だった。
『なるほど勇者召喚の魔法で……! しかし、それほど破格の能力はもはやスキルの枠には収まらぬ……! 伝説に聞く神々の贈り物ではありませぬか!』
なんか敬語になった。
『神よりギフトを頂く召喚者は、もはや勇者とも呼べぬ。……聖者。アナタ様は聖者であらせられたか!!』
「なんか勝手にランクアップ!?」
『おお、聖者様……! 知らぬこととはいえ失礼いたしました! このような場所に足をお運びいただき恐悦至極……! 遅ればせながら最大限の歓待をさせていただきますぞおおおお……!!』
アンデッドの王から五体投地された。
一体どういうことになっているやら?
俺も、同行するプラティも呆気にとられるばかりだった。