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1480 ジュニアの冒険:魔女の同窓会

 そして後日。

 ガラ・ルファさんによるレントゲン撮影装置発表会が行われた。

 まさに今日。

 マジにやりやがるつもりだ。


 会場にしつらえられたこの場所には、人魚医学界の重鎮はもちろん他分野からも名だたる人々が何事かと集まってきている。

 ざっと数百人規模。


 これもガラ・ルファさんによる影響力の賜物ということか。

 あの人がよくも悪くも凄まじくやらかすということが周知された結果でもある。


 かく言う僕も、その一人として会場に列席しているのだった。


「はー、やれやれ……」


 さらなる一人、パッファおばさんも人魚王妃かつ魔女の一人として発表会に参加している。


「本当は来たくなかったんだよね怖くて。だってあのガラ・ルファのやらかすことなんて何かしら波乱あるに決まってるじゃないか」

「むしろだからこそ参加したんでしょう。何か起こって、それを止められる立ち位置にいないと、そっちの方が恐怖ですからね」


 パッファさんを支えるように言い添えてくるのがランプアイさん。

 こないだ会ったばかりの、こちらも前世代魔女の一角だ。


「アンタも同じ考えかいランプアイ。まあアンタもアタイ同様、ガラ・ルファの人となりをよく知る一人だからねえ」

「農場で共に暮らした日々を忘れてはおりませんよ。衝撃が強すぎて忘れたくても忘れられない、という意味ではありますが……」


 そう言いながら乾いた笑いを浮かべ合う戦友二人。


『凍寒の魔女』パッファ。

『獄炎の魔女』ランプアイ。


 いずれも十年……いや二十年ほど前に名前を轟かせた魔女のうちの二人だ。

 あの当時の魔女は、法から逸脱したアウトローの側面もあって憧れと同時に恐怖の対象でもあった。


 その中でもさらに一等群を抜いてヤバいのが『疫病の魔女』ガラ・ルファさん。

 今回の主催となる御方。


 ということで他魔女さんの危機管理センサーが敏感となるのだろう。


「考えることは一緒ということね、フフフ……」

「アナタは!?」「お前さんは……!?」


 新たに現れた人物を見て僕も驚きを禁じ得なかった。

 アナタは……アナタこそは……!


 ……母さん!?


 僕ことジュニアの生母、農場の母にして聖者キダンの妻、元人魚国王女プラティその人であった!!

 母さんまで来ていたのか!?


「武泳大会で一度帰郷した直後だってのに。こうなってくるとちょくちょく帰れる転移魔法薬が恨めしくもあるわね」


 人魚国から遠く離れた農場住みの母さんが駆けつけられた理由。

 転移魔法は便利なものであるけれども、それが却って窮地に追い込んでくることもあり得るのだった。

 便利さゆえの弊害。


「ジュニア……こんな形で再会するのはいささか不本意ではあるわね。でもまた一段と精悍になったわ……」


 と言って僕を抱きしめてくる。

 うわっぷ! 母さん、人前ではやめてくれませんかね!


「おうおうプラティよ、あんまりベタベタすると子どもから嫌われるぜ。ウチの旦那みたいに」

「抱き着き癖は人魚王族共通の特徴といったところでしょうか?」


 パッファおばさんにランプアイさん。

 見てないで助けて、実力行使で引っぺがして。


「煩いわよパッファ。アンタのとこの悪ガキと違って、ウチのジュニアは公正で大らかだから多少のことは許してくれるのよ」

「誰の息子が悪ガキだって、あぁ!?」

「控えなさいパッファさん、元人魚王女の御前ですよ」

「アタイは現役の人魚王妃なんだが!?」


 顔を合わせた途端に始まるガラの悪い掛け合い。


 同世代の魔女として距離が近いこともあり、母さんたちが会するといつだってこんなバチバチの空気になる。

 なんで仲よくできないんだろうかこの世代は?


「……フッ、いいわねこのヒリつき。これこそ魔女のあるべき凶悪さといったところかしら?」

「最現役のディスカスらが行儀のいい魔女になっちまったからね。無法、災厄、崩壊……あらゆる悪徳の代名詞であった魔女も今は昔の概念さ」

「あの時はよかったわね。後先考えずに魔法薬研究を断行していった結果……魔女と忌み嫌われたあの頃……」


 それ懐かしがる内容でしょうか?


「まともに取り合わずともいいのですよジュニア様。ワルぶっていた青春にノスタルジーを感じているだけですから」

「ノスタルジーを感じるほど老いてもないわよ!!」


 ランプアイさんの冷静なツッコミに母親世代がわななく。


 まあ、母さん世代の魔女が相当荒れていたことは事実ではあるようだが。


 現在一番ピッチピチの魔女……ディスカスおねえさん、ベールテールおねえさん、ヘッケリィおねえさん、バトラクスおねえさんは、理性分別あって世間にも協調的。魔法薬研究者としての魔女だけでなく、人格者としても世の賞賛を浴びる立派な方たちだ。


 それに比べて前世代の子の魔女たちは……。


「オイお前さんの息子、残念なものを見る目をこっちに向けてきてんだけど?」

「そりゃー、アンタ一人を見てるんでしょう。アタシの誠実な息子が、実の母にそんな失礼な視線向けるわけないでしょう?」

「子は親を映す鏡、と申しますよ。聖者様が時折向けてくる視線と同じものを感じます」

「親を映す鏡って、そっちかい!?」


 うーん、よい手本になりえない。

 どっちかというと反面教師寄り。

 これが世代というものか。きっとディスカスおねえさんたちは、こんな先代を見て『ああはなるまい』と思ったんだろうな。


「しかし……そんなアタシたち世代でも飛び抜けてヤバい魔女がいるわけよ」

「それな」


 急に渋面を作る前世代魔女三人。

 きっと彼女たちの脳裏には一致したとある個人の顔が浮かんでいることだろう。


『疫病の魔女』ガラ・ルファ。


 これだけ無法悪辣な母さんたちをしてさえ、そのヤバさに恐れおののくのがガラ・ルファさんという存在。

 魔法薬研究の果てに、世界を滅亡一歩手前まで追い込んでもまったく悪びれない母さんたちだが、それに対してガラ・ルファさんは実際世界を滅亡させる研究してもまったく悪びれない。


 それはまさにワルぶってる不良と、本物の悪との差を明確に分類するようなものだった。


「アタシも当時は相当なワルだと自認していたものだけれど、ガラ・ルファの前では何の意味もないと悟ったものだわ……!」

「アタイら世代の魔女は大体一度は鼻っ柱折られているものだよ。あのガラ・ルファの本物の狂気に……!」

「お陰で各々ツッパッた部分を矯正できて、今ではよい妻よい母親になれているというわけですが」


 陰で不良矯正にも一役買っているガラ・ルファさんの狂気。

 それはそれでよい影響もあるということなのか?……いやメリットに対してデメリットというかリスクが大きすぎる。

 数人の不良を更生させる引き換えに、気軽に数度も世界危機起こされたら堪ったもんじゃないって。


「だからこそこうして前世代の魔女が再集結している状況になってるんでしょうけれどねえ」

「そうだね、アタイら反りも合わないが、今ある生活を守るためなら協力だって団結だってするよ」

「せっかく愛する人と築かれた家庭を今更粉砕されては堪りませんのでね」


 と意見一致する三人。

 彼女らが言うのは間違いなく、今日のガラ・ルファさんの研究発表についてだろうなあ。


 その内容如何で、再び世界に危機が訪れる。


 ……という認識なのだろう。

 彼女ら自身、世間から極悪非道と認識されているのに、そこからさらに警戒されるガラ・ルファさんの凄まじさよ。


「ところでパッファ……一応聞くけど今日は子ども一人も連れてきていないのね。どうして?」

「お前さんだって子どもも旦那も連れてきてないじゃねえか。それと同じ理由だよ」

「考えることは皆同じですね」


 と心通じ合う魔女三人。


 どういうことか?

 たしかに随分前に入籍し、結婚歴に伴って多くの子宝に恵まれた母さんとその同期。

 いつもなら夫同伴だったり、たくさんいる子どものうち最低一人を連れてきているものだが……。

 今日だけは単独行動。

 独身時代のように。

 それが三人示し合わせるかのように、意味するところは一つ。


「「「こんな危険な場所に夫&子どもを連れてこれるか!!」」」


 心ひとつになる前世代魔女たち。

 そんなに危険ならなんで自分は臆さず飛び込んで来たのか?


「「「それは万が一のことがあれば止めるため!!」」」


 ガラ・ルファさんの研究発表会が、まかり間違えば世界の危機レベルに発展するものかと三人は確信を持っていた。

 だからこそ、仮に現場にいなくとも危険は襲い来る。

 ならばせめて間近にいれば、危機が発生しても即座に対処できるという……涙ぐましい動機だった。


「本音を言うと……アンタにも今すぐここから離れてほしいんだけれど」


 母さんの視線が真っ直ぐこっちを向く。

 僕か。


 いや、僕はガラ・ルファさん当人から強く出席を所望されたもので。


「アンタも大概義理堅いものね。そういうところ誰に似たんだか」

「父親だろ」「父親でしょうね」

「少しはアタシの可能性を示唆しろ!!」


 いや、父さんじゃないかなあ。

 義理なんて母さんからはもっとも縁遠い言葉だ。

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― 新着の感想 ―
実際、便利と危険は表裏一体ですからねぇ(火薬然りロケット然り)  ストレンジラブ博士にならなきゃいいけど…いやコング少佐か?
レントゲンの技術の発表で、世界が滅ぶか? どんな手段を使ってるのかを聞いて判断すべきですね。
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