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1478 ジュニアの冒険:最キョウの魔女

 人魚国立総合医療センター。


 僕ジュニアの今日の訪問先はここです。


 病院?

 体調崩したの?


 いいえ僕はいたって健康です。

 何しろまだ十代なので、肝臓も腎臓もピッチピチです。


 まずは受付してもらいます。


「初診ですか? 予約はありますか?」


 いえ診察ではなくて……。

 今日は人と会いに……。


「お見舞いですか? ではこちらの用紙にお名前を記入してもらって、そちらにある消毒液で手指の消毒をお願いします」


 いやあの入院している人じゃなくてここで働いている人との面会に来たんですが……。

 ええい、僕小市民だから病院にいるお医者さんとの面会の仕方なんてわからねえ。


 第一なんで仕事中に面会しようとするんだ?

 休日なり何なりに自宅で会う方が自然だし筋が通っているだろう。仕事中は仕事しようよ。


 などと挙動不審な僕に、受付の人は怪しみ、不審者に片足突っ込んでだ状態の僕。


 しかし面会相手の名を出した途端、受付の人の表情が変わった。

 緊張感も変わった。


「……お話は伺っています。こちらへどうぞ」


 と直々に案内してもらえるらしい。

 マジで?


「でもその前に手指の消毒と、マスク着用をお願いいたします」


 あ、ハイ。

 やはり病院だけあって衛生観念もしっかりしていた。


 いや、これだけ神経質なまでに衛生に気を配っているのは、他に類を見ない。

 ここだけが群を抜いて清潔さに気を使っているのは、やはりあの人がいるからなのか。


 などと考えつつ病院の中をコツコツ進んでいく。

 随分歩かされるな。大分奥まで来たんじゃないか。


「あの方がおられるのは隔離病棟ですから」


 隔離病棟!?

 また恐ろしい響きの名詞が出てきた!?


「隔離病棟と言ってもあの人の研究物を隔離するための区画ですがね。患者じゃなくて医者を隔離するための病棟があるなんてウチぐらいじゃないですかね」


 といって乾いた笑いを漏らす受付の人。

 ……生憎、僕は笑えなかった。


「では、ここからは一人でお進みください」


 ええッ!?

 こんだけ脅しておきながら僕一人だけ放り出すんですか!?


 嫌です心細い! 飼うなら最後まで面倒見て!!


「この先は一本道なので迷う恐れはありません。私も受付を空けてきておりますので、できるだけ迅速に戻りたいのですが」


 それを言われると反論できないいいいいいッ!?

 ……ふんぬッ!

 忙しい中ありがとうございました!!


「ご理解いただけて恐縮です。それでは……生きて帰ってきてくださいね」


 不穏な送り文句しないでいただけますか!?

 心細さに拍車がかかる!


 ……仕方がない、ここからは一人でいくか。


 しかしマジで一本道なんだな。

 建物内だというのに通路分岐もドアさえもないのか。


『一本道の通路を作るのは、そこに敵を追い詰めて逃げられないようにするため』と、何かで聞いたことがあるが、それ病院に当てはまる理屈じゃないよねッ?


 どんどん進んでいくと、ついに突き当りが見えてきた。

 行き止まりとも言える通路の終点に一つだけ、重厚な扉が設えられている。

 鉄製?

 ビックリするような物々しさ。

『絶対に通さないぞ』という確固たる意志というか……いや、これは『絶対に出さないぞ』という閉じ込める意志なのか。


 どちらにしろ、ここ一ヶ所にしかない以上、この扉を叩くしかいない。


 ガンガンガン。

 どなたかいらっしゃいませんかー?


 ……。

 ガンガンってノックで鳴る音じゃねえ。


「はいはいー、ジュニアさんですねお待ちしていましたー」


 ギギギギギギギギ……。

 金属特有の重厚な軋みを上げて扉が開く。


 そして現れたのは小柄な……それでいてメガネをかけた可愛げのある女性だった。

 自分の母親と同世代の女性を『可愛げがある』と言っていいのかどうか。


 しかし実年齢を感じさせない可愛さは、いかにも“魔女”と呼ぶにふさわしい妖しさでもある。

 母さんとかパッファおばさんとか、他の魔女も少なからずそんなところがあるしなあ。


 そう、この小柄なメガネ女性こそ、かつて人魚界を震撼させた狂乱六魔女傑の一人にして、その中でも最悪最恐と言わしめた狂気の中の狂気。


『疫病の魔女』ガラ・ルファさんであった。


「いやー、わざわざ来てもらってすみませんねー。適当に座ってください」


 と言いながら鉄扉の向こうへ通される。

 中の様相は、思ったよりも明るくて清潔感があった。暗くてドロドロしたイメージがあったんだが……。


 しかし内装は、所狭しと試験管やらフラスコやらビーカーやらの実験器具が並び、その中には色とりどりのお薬らしきものが入っている。

 あまりに様々な種類の色が散りばめられすぎて目がチカチカする。


 さらに室内にはもっと大きな……ちょっと何なのかわからない名前も知らないような装置も並んでいて、ゴゥンゴゥンと駆動音を鳴らしている。

 あれも実験器具の一種なのだろうか。


 つまりなんと言うか……非常にガラ・ルファさん“らしい”部屋ではあった。


「散らかっててすみませんねー、何しろ実験以外に使わない部屋なんで」


 ああ、いえ、その……。

 お気遣いなく。


「しかしこんな海底までジュニアさんが来てくれて感激ですよ。普段は誰もここまで来てくれないもんですからー」


 でしょうね!

 明らかに好きこのんで来たい場所ではないでしょうね!

 ……と心の中で思った。


 この『疫病の魔女』ガラ・ルファさんは、人魚医学会に所属する医療関係専門の魔女。

 元来から病気の治癒や体調管理を得意とする人であったが、魔女という人種の御多分に漏れず正統社会のはみ出し者であったらしい。


 何やら異端な学説を唱え、それが受け入れられずに学会から追放。

 その間、農場に身を寄せていて、ウチの父さん母さんとかの協力を得て、みずからの説いた仮説をほぼ独学で立証までこぎ着けた。


 その実績をもって華々しく返り咲き、今では人魚医学会の重鎮として存在感を強めているという。

 典型的な追放モノの主人公気質だ。


「いやー、本当は人魚医学界になんて帰りたくなかったんですけれどねー」


 え?


「だって、学会に戻っても社会的なしがらみが増えるだけで研究に何のプラスもないんですもん。むしろパーティとか発表会とかに引っ張り出されて時間を無駄にされるんです。その時間研究を進めていれば、どれだけの成果が得られたことか……」


 凄い高飛車な研究者が言いそうなことを言う。


 しかし、学会に所属しているからこそ研究が捗ることがあるんでは?

 研究費が出たり、大きな施設が使えたり?


「そういうのは農場にいれば充分ですからねえ。知ってます? ここよりも農場の方が遥かに技術も知性も進んでるんですよ。農場で生まれて、農場のあれこれが当たり前になっているジュニアさんには実感しづらいかもしれませんが」


 そんなことない!……はず?


 たしかに農場の内と外では文明レベルが桁違いということはたしかだ。

 農場国を通じて技術が広まっても、まだまだ農場には先生もいればヴィールもいるし、オークボさんゴブ吉さん他色々。

 超越した力で外界との基準を分断している。

 そして父さん母さんが日々研鑽を重ねているがゆえに今なお農場の文明水準は世界トップをひた走っている。


 父さんは今でも思い付きでなんか凄いものを発明しては、世界規模の旋風を巻き起こしているし……。


 そんな農場驚異の科学力には、このガラ・ルファさんの存在も大きく寄与していた。

 何しろ農場の医学担当でもあるのだから。


 そんな彼女が、人魚医学界からのバックアップを有難がるはずもない……か?


 ……そういえばガラ・ルファさんって、正式にはどこに所属しているんだ?

 たしかかつて人魚国医局長に就任したと聞いたが、それと同時に農場でもバッチリ仕事しているのを見たし……?


「いいえ、今でも私は農場の医療担当ですよ」


 ……そうなの?

 じゃあ、ここ(病院)にいるのは?


「それは人魚医学界の人から頼まれましてねえ。『医学界に戻ってください!』『せめて籍だけでもいてください!』って。最初は断り続けていたんですけれど、三百回を越えた辺りで根負けしちゃって……」


 三百顧の礼!?


 それで人魚国医局長に就任したんですか?


「あんなのとっくに辞職しましたよ。今は農場に所属しつつ、この病院の外部顧問として籍を置くようにしたんですよ。それが一番バランスいいですし、今でも私の住居は農場にあります。転移魔法薬で行き来しています」


 ここでも出てきた転移魔法。

 本当にあらゆる距離的問題を解決するな。


 ……あッ。

 それでもしかして会談場所をここにしたんですか?


「そうですよ、自宅で会うとなると農場になりますからね」


 それじゃあ旅先の訪問感がなくなってしまう。

 なるほど、ある種非常識に思えた行動もガラ・ルファさんなりの気遣いあってのことだったのか!?

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― 新着の感想 ―
ガラ・ルファさん… 結婚出来たのかなぁ…
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