1472 閑話:聖者観戦2/4
武泳大会を観戦することとなった俺、聖者。
……と、その一家。
ひとまず観客席から開会式の様子を見守る。
なかなかに豪勢で、突発的なアクシデントも盛り上げに一役買ったよい開会式だったと思う。
……まさかモビィくんまで大会に参加するとはな。
しばらく会っていなかったが、あんなわんぱくに育っていたとは。
「『反抗期こじらせてる』ってパッファが育児愚痴ってたわねえ。……まあ、反抗期にかけてはウチのノリトの方が数段上だけれどね」
たしかに。
そんなことなんの自慢にもならないけれど。
しかし俺たちから見ればモビィくんも間違いなく甥っ子だし、好成績は収めてほしいものだ。
それ以上に応援するのはジュニアだけどな!!
「そうよ! ヨソの子よりも断然ウチの子よ!」
これが『ヨソはヨソ、ウチはウチ』ってことなのか!?
そんなジュニアも開会式に顔を出していた。
俺の息子ってことで大注目を受けて、緊張の面持ちでキョロキョロしている。
「ダメねー、あんな挙動不審で。心細い時こそ堂々としていないと。……あ、売り子さんこっちにビールねー」
観客席でもう飲み始めている。
「あー、美味しい。農場の外もどんどんごはんが美味しくなっていくわねー」
農場の技術が広まっている成果だな。
農場だけ突出しても意味がない。全体的な文明水準の底上げをしていかないと。
「ママー、ぼくもー」「じゅーす、じゅーすー」
「はいはい、今日はお祭りだから好きなだけ飲んでいいわよー。売り子さーん、コーラかオレンジジュースないー?……えッワカメ汁?」
末子たちの相手も大変だが、ジュニアの勝負も気にかかる。
しかもアイツの出番、一回戦の第一試合ですぐじゃないか?
どういうクジ運だ?
「対戦相手は……うわぁ、いきなりシャーク将軍? 一人目からエグイ相手と当たったわねえ」
ガラ悪いんだよなあ、あの人。
あの喋り方と雰囲気でただでさえ怖いし、直接対決でジュニア、ビビらないかな?
「いや、あの人は喋り方が独特なだけで基本いい人ではあるんだけどねー。でもノリの合う合わないはどうしてもあるし……」
と相手選手について語り合っていると試合が始まる。
よしここは全力でジュニアを応援せねば!
うおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!
かっとばせー、ジュニア!
「行くのよジュニアーッ! 容赦するな! 殺せー!!」
妻の応援の尖りようが凄い。
あの、末子たちがすぐ膝元で聞いておりますのでトーンを落として……! 教育に悪影響が……!
「容赦するなー……、殺せー……、息の根止まるまで殴り続けろー……」
声のトーンじゃなくて表現のトーンを落とせっつってんの!
そうこうしているうちにシャーク将軍の猛攻はジュニアへと迫る。
なにぃッ! あんな必殺技、俺との戦いのときには見せなかったぞ!?
「そういえば旦那様はシャーク将軍とやりあったことがあるんだっけ? それでそんなに怯えてるの?」
うん、そう。
俺がかつて場の空気に逆らえずに武泳大会に参加した時、最初の相手がシャーク将軍だった。
時を経て息子の最初の対戦相手もシャーク将軍だとは運命のいたずらを感じざるを得ない。
あの当時は『至高の担い手』を駆使して何とか勝つことができたが、それから彼も鍛錬を続けてきたようだ。
親子なだけに俺と似たタイプのジュニア……。押し切ることができるか。
「必殺シャークネード!!」
「必殺ダブルヘッド・ジョーズ!」
「必殺トリプルヘッド・ジョーズ!!」
「必殺ゴーストシャーク!!」
「必殺アイス・ジョーズ!!」
「必殺シャークトパス!!」
シャーク将軍は尽きることなく多くの必殺技をぶつけてくる。
何という多彩さ。ヤツは技のデパートか。
「うーん、この選手紹介パンフによるとシャーク将軍。旦那様に敗北してから雪辱を果たそうと鍛錬を絶やさなかったみたいね」
選手紹介パンフ!?
そんなの売ってるの、商魂たくましい。
「毎年、大会に備えて新必殺技を編み出してはぶつける相手がいないためにお蔵入りになってきたそうよ。今大会でライバルの息子にぶつかり、溜めに溜めてきた切り札を大放出ってところね」
なんで溜めてるの?
その年にぶつかった対戦相手に使えばよかったのに?
「それだけ旦那様への雪辱に燃えていたってことね。しかし当の相手は一度出場したあとは音信不通。新技と共にフラストレーションもたまっていったでしょうね……」
うう、それじゃあシャーク将軍の情熱を無視して出場しなかった俺が悪いみたいじゃないか?
「そんなことないわよ? 出場するしないを決めるのは旦那様の自由。旦那様の雪辱を求めるのもシャーク将軍の自由。それぞれの自由を貫いた結果よ」
その結果、俺へ向けられるはずだった情熱と必殺技のすべてをジュニアが受け止めることになるのは……。
……大丈夫?
俺、ジュニアから恨まれない?
「ウチの子はそんな器ちっちゃくないでしょう? ほら、もうすぐ決着つくわよ。シャーク将軍の必殺技すべてに耐えきったようね。さすがアタシの息子」
相手の攻勢を封じるのではなく、すべてを出し尽くさせてさらにその上をいくとは。
何という堂々とした勝利なのか。
お陰で敗れたシャーク将軍も表情晴れやかだ。
「ジュニアは、旦那様の息子の割に闘士マインドに理解あるのよねえ。いやぁ初っ端から見応えのある試合だったわ。長男の成長を確認できて母、感激」
周囲の観客と一緒に惜しみない拍手を送るプラティ。
俺も当然手を叩いた。
ジュニアよ、お前も立派な一人の男に成長していたんだな。
プラティも感激していたが、お父さんだって感激だぞ!!
「にいちゃん、すげー」「にぃに、さいきょー」
末子たちも掛け値なしの称賛を送る。
どこまで正確に理解しているかはわからないが、とりあえず『オレの兄ちゃんスゲー』ということは心に刻まれたようだ。
……しかしシャーク将軍。
そんなにも俺へのリベンジに燃えていたなんて。それなのに武泳大会から逃げに逃げて悪いことしたな。
「もう、すぐそうやって責任感じるんだから。ヒトがいいのも大概にしておかないと」
プラティのフォローに心癒される。
「相手が勝手に決めたことに付き合う義理なんてないわよ。どうしても負い目感じるんなら、なんか贈り物でもしておけば」
そうか、どんな時でもプレゼントは友好の証だものな。
どんな贈り物がいいだろうか。
……そうだ!
彼、サメが好きそうだから俺が腕によりをかけたサメ料理をプレゼントするってことでどうだろう!?
サメは下処理しくじるとすぐアンモニア臭くなるから腕の見せどころ!
照り焼き、から揚げ、煮つけにムニエル。
色んな料理をご馳走しよう!!
「……それ、むしろケンカ売ってない?」
そうかな?
『シャーク将軍! お前もこのサメみたいにジョーズに料理してやるぜー!!』ってことか。
贈り物するのも難しいな。
「まあシャーク将軍の鬱憤はジュニアが大方解消してあげたし、これ以上ヘタに触れない方が……あ、テトラも出場してるのね。勝ったわ」
テトラくんと言えばプラティの弟じゃないか。
兄弟に対してあっさりしているなウチの嫁は。
それから一回戦がつつがなく消化されていったが、ある選手が出てきたことで会場が異様な盛り上がりを見せる。
「うぉおおおおおおおッ! イエローテイル!!」
「勝て勝て! ウェーゴの威信を背負って!」
「お前の後ろはウェーゴ数千人の信頼が支えていることを忘れるな!」
「かっとばせー!」
あれ、ノリトの友だちじゃない?
ノリト本人もいる?
「そういや今試合に出てる子、ノリトの取り巻きの中にいたような……。まさかあの子の応援のためにメンバー引き連れて海底まで来たの!? どんだけ友だち甲斐があるのよ!?」
さすが俺の息子。友だち想いなところは俺によく似ている。
その応援が効いたのかどうかノリトの友だちのイエローテイルくんは常に危うげない試合運びで相手の動きを征し、最小限の動きで勝ちを収めた。
筋肉ムキムキの割にテクニカルに洗練された動きだ。
「きっとノリトの入れ知恵ね。まだ子どものくせに……やるわね」
プラティさん息子に対抗意識もつのやめません?
武泳大会も様々なところから思わぬ精鋭が現れ、盛り上がりを見せている。







