1464 ジュニアの冒険:ダークシーホース
武泳大会、盛り上がっております。
強豪も結集し、最強を競って争い合う。
盛り上がらないはずがありません。
しかも二回戦が終わって、優勝してもおかしくない強豪も敗北に沈む大波乱。
シャーク将軍に王弟テトラの名もトーナメント表から消えました。
それだけ予想できない展開に、観戦に訪れた人たちもワクワクが止まらないようです。
「くぅ……連単消えた!」
「あとは単勝を狙うしか……!」
賭けるな賭けるな。
しかしそんな不埒な観衆を駆逐するかの如く、無名で勝ち上がるダークホース……いや、海の大会なだけにダークシーホースが存在する。
それは誰だ?
僕か?
いや違います。
僕自身は父さんのネームバリューを継承してなかなか人気が高いそうで、単穴には入っているとのこと。
だから賭けるな。
しかし、そんな下馬評に関わりもせず、大穴にすらならない評価から爆勝ちして不埒な博徒どもを一掃する戦士がいるという。
その戦士の名は……。
イエローテイル!
またウェーゴのメンバーかよ!
「また会ったな宿敵ジュニアよ。まさかこのような場所で巡り合うとは」
と強者の貫録すら醸し出すイエローテイルくん。
それもそうだろう。
彼は秘密組織ウェーゴの高弟、農場六聖拳の一人として相当な場数を踏んでいることだし。
この平和な世の中で、彼の実戦経験を追い抜くことはなかなか難しいと言わざるを得ない。
そんな豊かな実戦経験を提供してくれるウェーゴってどういう組織なんだとツッコミ入れたくもなるが……。
とりあえず……。
「二回戦突破おめでとうイエローテイルくん」
「敵を賞賛か? 相変わらず余裕だな。しかしこのまま勝ち進めばいずれはオレたちも当たることになる。こんなに早く再戦の機会が訪れるとは……嬉しいぞ!」
あー、はい……。
たしかに僕とイエローテイルくんはかつて戦ったことがある。
秘密組織ウェーゴとの抗争で。
そもそもウェーゴとは何ぞや? という話からなのだがウチの次弟ノリトのアホが創立し、アホのノリトが首領として君臨している組織だ。
活動目的は兄たる僕の打倒。
なんで?
そんな組織活動にしてまで兄を誅しようなんてどんだけ弟から嫌われてるの?
僕、前世で弟に何かした?
お陰でまったく面識のない相手からも敵意を向けられる僕の気持ちを考えたことがあるか?
僕を倒さんとすることが前提の組織なんだぞ、嫌だよ対象の立場から言わせてもらえば。
このイエローテイルくんもそんな一人。
恨まれる覚えもないのに敵意マシマシで、かつては激戦を繰り広げた。
しかも彼は農場六聖拳という上位幹部の一人で、その分腕も確か。
攻略するのに随分骨を折った記憶がある。
そのイエローテイルくんとまたしても戦うことになるかもしれないとは。しんどくなりそうで憂鬱だなあ。
「首を洗って待っていろ。今度こそ勝つ!!」
そんな高らかに宣言しないで……。
「その通りだ! 勝ち抜けイエローテイル!!」
「お前のバッグには我々がついているぞ!!」
観客席から怒涛の応援。
これは……アレか?
またアレか?
ウェーゴのメンバーが組織ぐるみで応援に来てやがる!
「ありがとう! 皆の期待に必ず応えて見せる! ありがとう!!」
声援に応えるイエローテイルくん。
メンバーの誰かが何かしら大会に出るたび組織総出で応援に来るな。
こないだの海下一魔女武闘祭でもそうだったろ。同じく幹部クラスのドミノクラウンさんが勝ちあがるたび、やんやの喝采を上げやがって。
……そのドミノクラウンさんも今回は観客席でガンガンメガホン鳴らしていた。
マーメイドウィッチアカデミアの授業は? あってもサボって駆け付けそうだなあ。
同種族だけでなく地上種族のリルレイくん、ザーガくん、シブアさん。
それと当然のように首領のノリトも。
なんだ? お前らただの仲よしか!?
「あのイエローテイルってヤツ、人気高いな。もうお抱えの応援団までいるのか?」
「まったく無名なのに……?」
ほら、他の一般観客さんが困惑している。
応援団なんて僕にもいないのに。
その時点で充分僕に勝っているよ!
「エヌ様! このイエローテイル、農場六聖拳の名に懸けてジュニアの首級を献上して御覧に入れましょう!」
やめて!
首獲るのやめて!
さすがのノリトも、そんなモノ献上されたら困るだろうから!
というか困ると言ってほしい!
ちなみにエヌ様というのはノリトのことです。
組織内でのノリトのニックネームです。
「男人魚としてうだつの上がらなかったオレを拾い上げ、いっぱしになるまで鍛え上げてくださったエヌ様、そのご恩に報いるために、今度こそエヌ様の悲願をオレの手で達成してみせる!!」
達成のために身命を狙われる人のことも考えてほしい。
くっそう、世界中どこへ行っても弟の影がちらつくの何とかならんのか!?
「そもそもオレは……人魚族ながらも体の小さなヒョロガリ人魚だった」
語りだした。
まあ三回戦まで時間もあることだし、黙って聞くか。
「どれだけ食べても体に肉がつかず、全身は薄くてシーモンキーと間違えられるレベル。ちょっとした海流に押されて、慌てて戻ろうと泳いではスタミナ切れてすぐバテる。そんな様を見て周囲からは『イワシより弱い』と笑われたものだ」
それは随分失礼だな。
イワシにも。
「そんな時にエヌ様が現れた。エヌ様は言われた『このプロテインカレーを食べて鍛えれば、ムキムキになれるぜ!』と」
通りすがりに何を勧めているんだノリトは?
「そしてすべてはエヌ様のおっしゃる通りであった。プロテインカレーを基礎にして体の各部位を満遍なくカバーする筋トレを十回三セット。それを毎日繰り返しただけで半年後には筋骨隆々の肉体。オボコがボラに? いやカタクチイワシがヨコヅナイワシになるほどの劇的変化であった!」
イワシに拘るなあ。
「しかも工夫が凝らされているのはプロテインカレーも同じ。味が単調になって飽きが来ないよう、スパイスの調合を変えてチキン、ポーク、マトン、ほうれん草、シーフード、ダル(豆)、と様々な味を完備。その上にトッピングで組み合わせは数十に上るから飽きがこない! トッピングを上手く使えば野菜も充分に摂れるしな!!」
普通に健康食品として売り込みできそうな文言やめろ。
ノリトのすること大抵そうだよ。あらゆるところからビジネスチャンスを見出してきやがって。
「エヌ様は『新商品の実験してるだけだよ!』と照れ隠しされていたが、大恩あることに変わりなし。だからオレはこのムキムキマッチョの肉体をエヌ様のために使おうと決めたのだ!!」
と暑苦しくサムズアップするイエローテイルくん。
ノリトは何で海の底にいる彼とまで偶然出会っているの? 世界中あらゆる場所を放浪してんなアイツ?
「ウェーゴに所属する者たちは皆そうだ。エヌ様と出会うまでは誰もがままならない問題を背負い、自分の人生と向き合えずにいた。エヌ様と出会えることでオレたちは本当の自分を見つけられた」
その話、ドミノクラウンさんからも聞いたからいいです。
「しかしオレたちがどんなに心から礼を言ってもエヌ様ははぐらかして取り合ってくれない。オレが感謝しても『お前の筋トレが成功したこと自体が、オレへの恩返しだっての』と言ってくださるのだ!」
この人たらしなとこ誰に似たんだ?
父さんにも母さんにもそういう素養ないよな?
「エヌ様に喜んでいただくことがウェーゴの務め! よってジュニアよ、次の三回戦で必ずお前を倒す! それで前回の雪辱を果たすとともに、エヌ様への果報としてくれようぞ!」
えッ、でも三回戦では、僕たち戦わないよ?
「え? ここまで滔々と語ったのに?」
そうそう、だったら何だったんだこの時間? となるが。
イエローテイルくんが三回戦で当たる相手は……トーナメント表を見るに。
……うわぁ、ナーガスおじいちゃんだ。







