1461 ジュニアの冒険:第一戦の鮫
こうして人魚王子モビィ・ディックくんの武泳大会参加も認められた。
「わーい! やったやったやったー!」
嬉しさのあまりピョンコピョンコ飛び跳ねるモビィくん。
ノリトと同年のはずなんだけど、やっぱりこの年代の子は精神的な成長度にバラつきがあるなあ。
ともあれ人魚王三代の一斉参加とあいまって武泳大会の盛り上がりは限界超えてヒートアップする。
「見てろよオヤジ! お前を倒して人魚王の座を奪い取ってやるぜ!」
「そういう趣旨の大会じゃないんだけどなあ……」
人魚王を王座タイトルか何かだと捉えていらっしゃる?
まあ一つだけ確実に言えるなら今のモビィくんにアロワナおじさんを倒すことは絶対不可能。
伊達に一国の王として第一線で踏ん張り続けているわけではない。
その経験に培われた知性、胆力、良識、剛力、技巧、飛翔。
いずれとっても、まだ幼いモビィくんでは太刀打ちできないだろう。
もし彼が、若さゆえの向こう見ずさでみずからの父親に当たることになれば、きっと成長に欠かせない貴重な経験を得ることになるだろう。
かく言う僕も、有益になるか否かはわからないがとりあえず経験を積むことだけはたしからしい。
戦闘経験というヤツを。
さて武泳大会は、四方八方海水だらけの海中で行われる。
男人魚の伝統闘法である回遊しながらの銛で突進刺殺を行うにはある程度広いフィールドが必要となるからだ。
会場には観客席も設けられていて、随分立派なつくりであるというのに満席に人が入っている。
一体どれだけいるんだ?
「武泳大会特設スタジアムの収容人数は、約四万人だ」
よんまん!?
そんなに!?
教えてくれたアロワナおじさんは解説を続ける。
「それだけ武泳大会は人魚国にとって重大な催しなのでな。最近では陸からの旅行者も、これを目当てに訪れるようだ。だからこの時期、観光業はかき入れ時なのだ!!」
な、なるほど。
そりゃー、シーラおばあちゃんからも『集中してほしい』と言われるほどだ。
今日一日でその年の売り上げが決まりそうな勢いだからなあ。
よく見れば確かに観客席には二本足の、地上人の姿もチラホラ見える。
シャボンで観客席を包み込み、酸素を供給しているのだ。
「早速第一試合を開始だ! ジュニアくん、頑張ってきてくれ!!」
ハイ!
……はい?
えッ、いやいやアロワナおじさん。
第一回戦の第一試合。
いろはにほへとの、いの一番が僕なのですか?
そんなにいきなりなんて僕聞いていないんですけれど?
「厳正なくじ引きの結果だ!!」
いつくじ引いた!?
僕、まったく覚えがないんですが!?
「いいではないかジュニアくん! 一番手の口火を切って、今年の大会を盛り上げていってくれ!」
背中を押されて飛び出す僕。
闘場エリアへ入ると同時に歓声が上がった。
わぁあああああああああああああッ! と。
おおう、僕のネームバリューたっか。
これは不様な試合は見せられないぞ緊張する。
さて、そんな僕の対戦相手は……?
「シャーッハッハッハッハ!! シャーッハッハッハッハ!!」
この特徴的な笑い方は?
一目見ただけで『近づいちゃダメ』とわかる狂暴そうなオジサンが、これまた凶悪そうな刀剣状の武器を両手に一振りずつ、二刀流で持っている。
……近づきたくないなあ、このオジサン。
「雪辱を誓って十数年! もう報われることはないと思っていたのに、運命ってのは小シャーク(癪)だぜー!!」
喋り方も癖があるなあ。
彼は何者?
「このオレこそは、人魚軍にその人ありと謳われた剛の者! 獰猛将軍の異名をとるシャーク将軍だぜ! シャーッハッハッハッハ!!」
あんなテンション浮かれまくった人を軍で飼ってらっしゃるんですか?
大丈夫ですか人魚国?
「シャーク将軍を侮るなかれ! 彼は武泳大会常連! 優勝ならずとも必ず上位に食い込む猛者だ!」
リングサイドでアロワナおじさんがアドバイス。
「見た目通りの獰猛さで、息つく間もなく繰り出される猛攻に耐えきれる者はそうそういない! 攻撃性においては間違いなく人魚国トップクラス! 伊達に将軍の称号を持ってはいないぞ!」
だからって獰猛さだけじゃなくて理性も必要と申しますか。
とにかくそんな猛獣……もとい猛魚? の真ん前に放り出された僕の哀れさに想いを馳せて!
「一回戦からツイてるぜぇ……。まさかこんな形で昔の屈辱を晴らせるなんてよぉ。幸運にMEGまれてるぜぇ……!」
え? なんです?
僕とアナタ初対面だと思うんですが、それなのに恨み持たれるとか心当たりがあるわけないしでホラーなんですけど?
相手がサメだけにパニックホラー?
「デメエにはわからないんだぜ。何せ直接の恨みがあるのはテメエのオヤジ、聖者なんだからなあ!」
ああ、ウチの父さん。
失敬な。僕の父さんは品行方正、謹厳実直。皆に慕われこそすれ恨みを持たれるような生き方はしていない!
「ところがどっこいだぜぇ! お前の父親は、オレとの約束を破り、オレを裏切ったんだぜぇ!!」
なんと!?
父さんの裏切り、約束破りとは!?
「アレはもう十年以上も前……オレは武泳大会でテメエのオヤジと戦った。ちょうど今、テメエとこうして戦っているようになぁ……!」
はい。
ウチの父さん、武泳大会の出場経験ありますものねそれは知っている。
僕が遥か小さい頃の話だ。
対戦相手のことまで明確に記憶に残ってないが、それがこのシャーク将軍だったのか。
「そしてオレは盛大に負けた。ショックだった。人魚が、自分のフィールドである海中で、陸人なんかに負けるなんてあってはならないことだぜぇ!」
たしかに水中戦なんて人魚の方が圧倒的に有利なんだろうから、負けるはずない勝率百パーセントと思うだろうなあ。
そこからの惨敗ともなればプライドもバキバキにへし折られてしかるべき……?
「だからこそオレ雪辱を誓い、次なる戦いに集中をフカめたんだぜぇ……! 日々の鍛錬を増やし、新たな戦法を開発し、いずれ迎える再戦を勝利で飾ろうと、サメのこのこのこ虎視眈々してたんだぜぇ……!」
そのサメジョーク苦しくない?
「しかしぁッッ!!」
はいッ!?
勢いで押し切ってきた!?
「ヤツは現れなかった! あろうことか翌年以降、武泳大会に参加せずに勝ち逃げを決め込みやがったんだぜぇ!! オレとの再戦の約束を破りやがった! これを裏切りと言わずして何なんだぜぇー!?」
えー、まず確認いいでしょうか?
再戦の約束って、それウチの父さんと明確に取り交わしたんですか?
「してないぜぇー」
じゃあ約束してないじゃん!
父さんとんだ冤罪!
「そんなことないぜぇー、いちど銛を交え合った戦士たちの間には、無言の友情が結ばれるものなんだぜー!」
無茶を言う……!
ウチの父さんは根っからの農家だから、戦士のスピリットはないと思うけれど。
「だからこそ息子のテメエと戦えるのはディスティニー! ヤツとの再戦のために編み出してきた新技のすべてをぶつけてくれるぜぇー!」
僕とはまったく関係ないところで対戦相手のファイトは火の玉ファイトというわけだった。
ええい厄介な。
「さあ、これでまどろっこしい問答は終わりだぜぇー。ここからは楽しいバトルの時間。シャーク(尺)が迫ってるぜー!!」
そして襲い来るシャーク将軍。
振る舞いは頓狂な人だが、実力は間違いなく本物。
むしろ初出場の僕に、こんな強カードぶつけてくることの方が非道じゃありませんか!?
どうなの運営側!?
盛り上がるからノープロブレム!?
そう言うと思った!







