1458 ジュニアの冒険:一難去ってまた一興
ノーライフキングの老姫、消滅。
しかし、それで終わりではない。
死滅した本人の言う通り、ノーライフキングは不死身。
たとえチリも残さず消滅したとしても、その肉体は物質でありながら同時に霊体でもあるがゆえに、世界に満ちるマナを取り込みながら時間をかけて何度でも甦る。
老姫自身もそうやって、一度目の消滅から数十年かけて甦った。
そしてシーラおばあちゃんの手によって再び倒されたんだが、このままじゃいつまでたっても終わらないイタチごっこだ。
しかも次の復活がまた数十年かかるとしたら、その時もシーラおばあちゃんによって成敗されるかどうかもわからない。
人の時間は有限なのだから。
あまりにもあっさりやられてしまったから実感しづらいが、あの老姫も恐ろしきノーライフキングだ。
先生よりも随分格下だが、それでも恐ろしい怪物であることに変わりない。
遥かな後世、甦った老姫を速やかに封殺できるものが果たしているだろうか?
……僕か?
僕かなあ……やんなきゃなあ。
「大丈夫よ。こんな厄介事を未来のアナタに背負わせたりはしないわ」
シーラおばあちゃんが、何がしかをゴソゴソ取り出す。
それは……壺?
「老姫の魂を永遠にお封じるために作られた壺よ。アナタのよく知るノーライフキングに、婿さんを通じてお願いしたの」
先生に!?
父さんを通じて!?
こんなところで人脈が十二分に生かされている!?
「ええと……蓋を開ければ、あとは勝手に霊体を吸い込み封印します。だから先に肉体を消滅させる必要があったのよね」
『うぐあるぶわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁーーッ!?』
なんか断末魔のような叫び声が上がって、その声はドップラー効果を伴いながら壺の中に吸い込まれてきていった。
すかさす蓋をオン。
「あとはこの壺が再び開かれないように安置するんだけど。その場所も決めてあるわ」
へえ、どこなんです。
「神界よ」
……また凄まじい立地が来た。
僕、最近神界に関するのがトラウマになって、話に出てくるだけで動機が……!
「神界は神界でも、海神ポセイドス様が治める海の神界オケアノスよ。やはり陸のノーライフキングさんが話をつけてくださったの。聖唱魔法は海神が没収したものだから、それを復活させようとした老姫は充分神罰の対象になるそうなの」
神様が珍しく正当な裁定を下している。
「具体的な罰則として、神界に永久封印だそうよ。さすがに神の世界にまで渡って開封しようなんて物好きさんはいないでしょう。これで一件落着ね」
孫要る歳とは思えない可憐な笑顔をするシーラおばあちゃん。
先ほどまで不死王も震える冷酷さだった人とは到底思えない。
「あの……、おばあちゃん大丈夫?」
「今日は格好悪いところを孫に見せてしまったわね」
いや、見方によってはクソほどカッコよかったというか……。
「とはいえこないだも格好悪いところを見せたばかりだけれど。どれだけ徳を積もうと、その大元は世界を破滅へと追い込んだ『暗黒の魔女』。その性根はおばあちゃんになっても変わらないのかもねえ」
たしかに血の気は多いように感じられますが……。
実際、憎き老姫への情け容赦ない殺戮に、傍から目撃していた四魔女の皆さんも衝撃に硬直している。
「そんなことないわ!!」
そこへ投げ込まれる反論の声。
エンゼルおばさんの声だ。
「ママは人魚王妃として、立派にパパを支え切ったじゃない! そんなこと破壊しかできない魔女には絶対にできないわ」
「エンゼルちゃん……」
「他の誰が否定してもアタシだけは言うわ! ママは見事な人魚王妃だったって! 魔女としての功績よりもずっと輝いているわ!!」
ああいうことをドストレートに言うからエンゼルおばさんは強い。
普段はテキトーで欲望に従うばかりだっていうのに。
四魔女のお姉さんたちに慕われ続けるのもああいうところが所以だろう。
「……そうね、アタシは人魚王ナーガスの妃として、彼の治世を退位まで支え続け、多くの次世代を育て上げた。その実績は誰にも否定させないわ」
「時々失敗もするけどね」
「エンゼルちゃん?」
そしてそのしくじり癖もウチの母さんやエンゼルおばさんにしっかり継承されている。
シーラおばあちゃんの系譜が今の世に続いているのだ。
「ともかくこれで、ここ最近人魚国を騒がせていた不穏は絶えることでしょう。ジュニアちゃん、よく頑張ってくれたわね」
ああ、僕は……いや。
そんなに役に立った覚えもないですし。
「それから農場の四魔女たち。ディスカス、ベールテール、ヘッケリィ、バトラクス。アナタたちもよく働いてくれました。人魚王家の一人としてお礼申し上げます」
「「「「いえいえいえいえいえいえいえッ!?」」」」
先代人魚王妃からの率直な礼に、むしろ動揺するお姉さんたち。
実力は整っていてもまだ若い。
「アナタたちのような頼りある新世代がいれば、アタシの完全引退もそう遠くはないわね。最後にエンゼル」
「はいはいはいはーいッ!!」
元気。
「危険な役目をよくこなしてくれました。戦う力を持たないアナタが果敢にも敵地に乗り込み、あえて危険を冒したからこそ老姫を誘い出すことができた。ヤツはアタシを恐れていたから、身を隠すことにかけては完璧を期していたわ」
だからさすがのシーラおばあちゃんでも身柄を抑えることは難しかった。
それが今日叶ったのは、エンゼルおばさんが捕まったことで敵側にとっての状況が好転し、老姫の油断を誘えたこと。
さらに四魔女の皆さんが乱入することで状況が引っ掻き回され、老姫の動揺させられたこと。
そうした揺さぶりの連続で老姫から冷静さを奪い去り、正常な判断力を奪わせた。
もし老姫の自制心が勝り、計画失敗の時点で撤退されていたら、災いはさらに尾を引いたことだろう。
知らないうちに相手のペースを乱すって、ある意味エンゼルおばさんの必殺技だよなあ。
「だからこそ真意はアナタにも話さなかったわ。パッファちゃんやゾスちゃんにすら。万が一にも老姫に悟られるわけにはいかなかったから。そのために娘を、何も知らせず危険に送り込んだアタシを恨む?」
「全然! だってママは結局アタシの安全を保障する目途がついていたんでしょう?」
ウチの母さん謹製の魔法薬で身を守る手筈は整えていたらしいし。
「だったらママの思惑に乗って突き進むのがアタシの使命よ。それにお姉ちゃんに比べたらママの方が断然優しいって! お姉ちゃんだったら最後に説明すらしてこないわよ!」
「「「「「「……」」」」」」
その場に居合わせた誰もが、継げる言葉が見つからなくて沈黙してしまった。
ウチの母さんなら『アタシの役に立ててよかったでしょ?』ぐらい言いかねない。
「だからアタシの頑張りがままの役に立ってよかったわ! それで皆、怪我もなく問題解決できた! それ以上のことはないじゃない!」
「皆怪我もなく……あ!」
一言をきっかけにディスカスお姉さんが気づいた。
「そういえば村人を解凍しなきゃ! もう安全だろうから凍らせとく意味がないわ!」
「一人だけ凍ってない村人がいたんじゃ!?」
「いたいた! 衝撃すぎて放心してるわ!」
「回復役を! それとも記憶消去薬!?」
四魔女のお姉さんたちが忙しなく動き出す。
この村も最初は反乱の根源地を疑われていたが、老姫の精神支配に踊らされた被害者だった。
これから救助活動だったり、中央への報告だったりで忙しくなることだろう。
「あ、そういえばママ!」
気づいたようにエンゼルおばさんが聞く。
「このこと、パパは知ってるの?」
「知らないわ。ダーリンだけでなく男性陣は全員ね」
「よかった!」
よかった……とは?
「だって、せっかくの晴れ舞台に水を差したくないんだもの。皆この日のために一年間頑張ってきたのよ。それが中止になるなんて……さすがママ、多方面に気を配ている」
「でも、すべて終わってから話したら怒られそうね」
?????
何を話しているんだろうエンゼルおばさんとシーラおばあちゃんは?
二人とも訳知り顔で、事情を知らない僕を置いてかないでほしい。
「置いていくどころかアンタもきっと巻き込まれるわよ。部外者ヅラできていられるのも今のうちなんだから」
「そうよねえ、ダーリンもアロワナちゃんも、ジュニアちゃんが参加するとなったら大喜びするでしょうねえ。もしくは既に決定事項になているか」
何? 何?
どんな大きなうねりが僕を巻き込もうとしているの?
一難去ったばかりだというのに、すぐまた一難が迫ってくる予感!?







