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1455 ジュニアの冒険:地獄の使者、登場

 何故か雪崩式にノーライフキングとの戦闘になった!?

 大丈夫なのか!?


 先生と同格の相手なんて……僕がこれまで出会ってきた中で最強格の敵かもしれない!


「大丈夫よ!」

「問題ナッシングよ!」

「無問題よ!」

「ノープロブレムよ!」


 そう叫びながら四魔女のお姉さんたちが、一斉に魔法薬を投げつける。もちろんあのおぞましいノーライフキングへ向けて。


『ぐげぇえええッ!? あっちちちちちちちちッ!! つめめめめめめッ! 溶ける溶ける溶けるッ!?』


 効いてる!?

 様々な魔法薬の効果を浴びて海中をのたうち回っている!?


「オーケー! やっぱりアイツ、先生ほどの力あるノーライフキングじゃないわ!」

「先生は“三賢”と並び称されるほどの最上位ノーライフキングですもの! そこまで匹敵するノーライフキングがあちこちいて堪るもんですか!」

「先生はもはやノーライフ・ハイキング!」

「対して目の前のコイツは、ノーライフキング全体から見て中の下程度と推測した!」


 すげえ、四魔女の皆さん的確に敵の能力を分析して冷静な対処ととっている!

 さすが農場育ちは一味違うぜ!


『ぐぬぅ……、そういえばモンスターどもへの対処といい、なんじゃこの小娘どもは? たかが人間レベルの魔法薬使いに不死王たるわらわを押し戻せるわけが……!?』


 よぉーし、僕だって負けていられないぞ。

 出張った以上は一定の役に立たねば。


 農場豪農波!


『ぐぎゃぇええええええッッ!? 体中の細胞一粒一粒が焼ける!? なんじゃこの闘気流はぁあああああッ!!』


 よし、これも効いている!


「ふはぁーっはっはっはっはっは!! 見たか怪物、これぞ我が友・正統五魔女聖と、我が甥ジュニアの力よ! 友と親族の絆の前には、どんな邪悪も太刀打ちできない!!」


 エンゼルおばさんが一人で勝ち誇っている。

 勝ち馬に乗る鮮やかさは天下一品であった。


『おのれぇ……下等な人間ども、またしてもわらわを愚弄するか。許さんぞぉ……!!』


 効きはしているけれど。

 いずれも相手に致命傷を与えることはできずに怒りを誘発するばかり。


 ノーライフキング特有の、剥き出し髑髏の落ちくぼんだ眼窩に、赤黒い炎が宿る。


「これ、このままじゃマズくない?」

「腐っても相手はノーライフキングだものねえ。何より恐ろしいのは、そのしぶとさだわ」

「たとえ粉々にしてもマナさえあれば復活できるんでしょう。事実上の不死身。アンデッド最大の特徴を極限化した感じね」

「唯一とどめを刺せるのは聖属性の攻撃だけ。……この中で聖属性もってるヤツっている?」


 いねえよなあ。

 四魔女さんたちが一斉にこっちを見るが、やめてください僕にも無理です。

 いくら僕の『究極の担い手』がなんでもありでも、無から聖属性を生み出すことはさすがに不可能ですわ。

 せめて聖水大さじ一杯でもあれば、そこから聖属性を極大化して見せるのになあ。


「諦めちゃダメよ! 逆転の一手はいつもどこかに隠れているものよ! 根性で凌ぎつつ頭を働かせるのよ!」


 と発破をかけてくるエンゼルおばさん。

 その通りでしかないから、そうするしかないんだがなあ。


「エンゼル様はいつも正しいことしかおっしゃらないわ」

「そうよね、いつも答えが用意されているとは限らない」

「答えがないなら創り出せばいいことよ!」

「困ったら表面張力よ!」


 四魔女のお姉さんたちも気力を失わない。

 さすがは経験豊富なベテラン勢だ。


 それを見てノーライフキングの老姫は甚だ不快そう。


『わらわの絶対なる力を見ても委縮せぬとは。生意気な。人間ごときがノーライフキングの前で希望を持つこと自体不敬と知れ。その思い上がりを絶望の中でたっぷり後悔するがいいぞ!』


 向こうは殺意マシマシだ。

 なんでここまで恨まれなきゃいけないのか。


 基本的な戦闘能力ではややこちらに分があるものの、問題なのは耐久能力において絶望的な差があることだ。


 こちらは人間である以上有限で、あっちは無限。

 この時点でもう反則。

 そして向こうは基本何やっても死なない。


 とすれば僕らが打てる有効手段は、まず真っ先に挙がるのが“逃げる”んだが。

 しかしヤツは、ここ最近の人魚国における混乱一連の黒幕だ。

 ここで放置してしまえば更なる混乱が誘発され、いずれは取り返しのつかない犠牲が出るやもしれない。


 だからできるならここで決着をつけたいところなのだが……。


『ほほほ……できぬことをできるように考える、それを妄想と言って時間の無駄にしかならぬものじゃ。不死身たるわらわを滅ぼすことなど誰にもできぬ。たとえ神であろうとも。下賤の人間どもは、ただわらわの絶対叡智の前に恐怖し、打ち震えるがよいわ!』

「いいえ恐怖するのも、震え上がるのも、アナタの担当よ」


 えッ、誰?

 突如静謐の海中に響く、鈴の音のように澄み渡った声。

 一体何者だ?


『こ、この声はまさか……!?』

「あら、覚えてくれていたのね嬉しいわ。……いいえ、やっぱり嬉しくないわね。アナタごときの記憶に、アタシの存在が残っていること自体、酷い侮辱で狼藉だわ」

『お、おおおお……!?』

「それ以前に、アナタが存在すること自体が侮辱だったわね」


 海中の、天に等しい高みに浮かぶ一人の女人魚。

 それがあの声の主。

 神かと思われるほどの絶対的な声の主。


 しかも彼女には見覚えがあった。

 そのいつまでも若々しい、張り艶あるお肌の主は……。


「ママッ!?」

「シーラおばあちゃん!?」


 そう、エンゼルおばさんの実母にして、僕の母プラティのそのまた母である御方。

 先代人魚王妃シーラ・カンヌその人であった。


「はぁい、ママ兼おばあちゃんよ」

『あわわわわわわわわわわわ……!? はわわわわわわわわわわわわわ……!?』

「そして兼、アナタの敵」


 どうしてシーラおばあちゃんが、この場に?

 そしておばあちゃん登場と同時に、老姫を名乗るノーライフキングの様子が明らかに変わった。

 蛇に睨まれた蛙、猫に遭遇したネズミ、ミノス神の前に引きずり出された亡者。


 自分の運命を握る絶対的上位存在に対するような反応を、あのノーライフキングはシーラおばあちゃんの前で示す。


「随分久しぶりねえ老姫、アタシはアナタなんかに二度と会いたくなかったのだけれど」

『ひぃいいいいい、おわわわわわわ……!?』

「ねえ、なんで甦ってきたのかしら? あたしを不快にさせてアナタに何の得があるの? アタシが不快になった分だけアナタは凄惨な死に方をする羽目になるというのに? 苦しむために甦ってきたというの?」


 あの口ぶり、二人は知り合いなのか。

 しかしその関係性は上限突破して険悪そう。

 詳しく事情を聞くことが憚られぐらいに。


「えッ、そのバケモノと知り合いなのママ?」


 そこへ無謀にも突っ込んでいく蛮勇の持ち主エンゼルおばさん。

 皆、気になっていても恐ろしさのために触れられないというのに。


 その誰もが踏み出せない危険領域へ、一歩踏み出せる向こう見ずさが交渉役の資質だとでも言うのか。


「知り合い? ええ、そうともいえるのかしら? アナタはどう思う?」

『ごわわわわわわわ……!?』


 あえて向こうに回答権を回す形態の、脅し。

 シーラおばあちゃんは、老姫に対してこれ以上ない怒りを宿し、老姫はシーラおばあちゃんに対してこれ以上ない恐れを抱いている。

 わかるのはそれぐらいだった。


「何も知らない孤児の少女をさらい、おぞましい倫理破綻の研究の実験材料とし、釣り針に刺しつける生餌のように使い捨てる。そんな関係を“知り合い”呼んでいいというなら、そうなるかもね」


 なんだって?

 シーラおばあちゃんの口からは想像だにしない恐ろしい出来事が語られる。


「ねえ老姫? 何を無言でとぼけているの? 実際アナタが行ってきた悪行でしょう?」


 シーラおばあちゃんからいくら呼び掛けられても、老姫はぶるぶると震えるばかりで何も答えない。

 ただ恐怖で凍りつくばかりだ。


「……答える気がないならアタシから説明してあげましょうか。コイツは、かつて神が禁じた領域に踏み込もうとした。そのために数えきれないほどの犠牲を出してね。でもコイツは気づかなかった。コイツが何の頓着もなく払った犠牲にも心があることを、恨みがあることを」


 シーラおばあちゃんのここまで冷たい視線を、僕は初めて見た。


「自分が踏みにじってきた命の復讐によって一度は滅びたノーライフキング老姫。……アナタは何故甦ってきたの性懲りもなく? 甦ったって、地獄の苦しみを味わいながら再び死滅されるだけじゃないの。生きても地獄、死んでも地獄。そんなアナタが安息できる場所などどこにもないのよ」

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 もはや聖者な先生のような存在と違い、この老姫とやらは『ノーライフキングの恥晒し』な存在のようですな…。 某世紀末救世主さんの最初期の台詞を借りるなら「てめえに今日を生きる資格は無え!」…
そう…シーラさんこそそのさらわれた人魚の子供たちの中で唯一聖唱魔法を発現させ、その恨みから老姫を滅ぼし、そして世界全てを憎み滅ぼそうとした犠牲者…その前に立ちはだかり、愛をもってシーラさんを止めたのが…
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