1454 ジュニアの冒険:海の黒幕出現
死屍累々。
気づいた時にはすべてが薙ぎ倒されて焼け野原しか残っていなかった。
ディスカスお姉さんによる凍結。
ベールテールお姉さんによるマグマ。
ヘッケリィお姉さんによる分解。
バトラクスお姉さんによる極大消滅洗浄。
これらの大火力大殲滅にモンスター軍団は、たとえ数千だろうとまったく足りずに一匹残らず凍結焼滅消滅&土に還った。
魔女ではあると知っていたけれど、ここまで強かったのか。
「素晴らしい! エクセレントだわ! ベネよ!!」
この蹂躙劇を目の当たりにして、一人喝采するのはエンゼルおばさん。
ただ成り行きを眺めていただけ。
「こんなにも成長していたなんてさすが我が旧友学友! これが私たち正統五魔女聖の絆の力というわけね!!」
と言って飛び跳ねながら、四魔女のお姉さん一人一人に抱き着いては頬にキッスを浴びせる。
苦笑を浮かべつつ受け入れているお姉さんたち。
されるがままだ。
「まあ、これがエンゼル様ですから……」
「この馴れ馴れしさがあるからこそのエンゼル様の魅力よ」
「それに救われた過去だってありますからねえ」
「頬っぺた舐め回すのはやめてくれません?」
さりげなく五魔女をアピールして勝ち馬に乗ろうとするところも何とか。
しかし苦難の時も調子に乗ってる時も離れようとしない一貫性が、エンゼルおばさんの美点でもあった。
「さあ、忌々しいモンスターよ! 私たち正統五魔女聖の前に好き勝手はできないと知りなさい! 何度お前たちが人の領域を狙おうと、私たちがシャットアウトして御覧に入れるわ!!」
私“たち”?
まあいいか、本人たちが納得しているなら。
「村人は無事?」
「もちろん、まだ氷漬けのまま集会所にまとめてあるわ。危険が去ったならもう解凍してもいいけれど……」
その間も冷静に状況を確認し合う四魔女たち。
「いいえ、まだ置いておきましょう」
その声音に、緊張感が伴う。
「展開が不穏だし不吉だわ。事ここに至るまでずっと」
「人魚国で頻発する反乱。その原因はあやふやですぐに鎮圧される。さらには交渉役にして王妹のエンゼル様が拘束され、その現場に狙いすますようにやってきたモンスターの群れ……」
「モンスターと言えば“センテルポートの闇事件”も原因不明じゃなかったっけ?」
「長く攻められることのなかったジゴルを襲撃するモンスターの群れ……たしかに今日の状況と酷似するわね」
なんかのっぴきならない内容の会話が交わされている。
それは状況の陰に隠れて姿を現さない……それでいて人魚国の存亡に関わる明確な危険を浮き彫りにするような……?
「なーに沈んでるのよ! アタシたちは勝ったのよ勝利! ヴィクトリー! だったらもっと明るくしなさいよ!」
一人短絡に状況を捉えるエンゼルおばさん。
不安のない人生だ。
「暗く悩んだって人生損するだけよ! わかんないことをあれこれ考えても時間の無駄! それとも何、ここまでの状況が出来すぎてるからって裏で操っている誰かが存在するとでも?」
「……」「……」「……」「……」
「…………あれ?」
沈黙で返す四人に、虚を突かれて息詰まるエンゼルおばさん。
「……まさか、当たりとか?」
「そうですね、状況的にそれ以外の結論が出ません。ここまでの状況を演出してきた者がいるとしたら、今のこの状況もどこかで監視している可能性が高い」
四魔女の皆さんが、四方へ向かって言い放つ。
「出てきなさい黒幕!!」
「いるのはわかっているのよ!」
「出てこないなら私たちの必殺魔法薬をところかまわずぶっぱなしましょうか!?」
「息をひそめていれば凌ぎ切れるか、試してみるのも一興よ!」
海底に吸い込まれていく挑発の声。
その声に、フフフと嘲笑が返ってきた。
『低級な人魚たちが……わらわに対して無礼な口をききよる』
仄暗い水の底から浮かんでくるかのように、姿を現す一体の異業。
その姿に僕は心当たりがあった。
「ノーライフキング!?」
そう、その骨だけとなった身体は紛れもないアンデッド。
それだけならただのスケルトンか、もしくは何らかのトリックで白骨を遠隔操作しているのかもしれないが、放たれる瘴気の禍々しさは、そんじょそこらの低級アンデッドに出せる禍々しさではない。
これだけの濃厚で凶悪な瘴気は、最上位のアンデッドでなければ出せない。
つまり不死の王、ノーライフキング。
しかも人魚のノーライフキングだ。
人体白骨の上半身から視線を下げると、下半身の骨は、紛れもない魚のそれ。
焼き魚食べる時に必ず見るからわかる。
かろうじて残ったボロボロの尾びれ。
そしてそれらを包むボロボロの衣服は、女性用のドレスだとわかった。
「人魚のノーライフキング?」
「そんなのがいたの? 初めて見た……!?」
四魔女のお姉さんたちも、黒幕の存在は予測していたものの招待の予想外さに驚きを隠しきれない。
それもそうだろうノーライフキングなんて想像できる中で最大級の大物なんだもの。
「なるほど……アナタがここ最近の事件一連の黒幕だったということね?」
その中で一人意気揚々と、悪の大ボスの前へ勇み出る女性一人。
そうエンゼルおばさんだ。
「私は人魚国の特別交渉官にして現人魚王アロワナの実妹エンゼル! 私は名乗ったわ、さあアナタお名乗りなさい! そしてこのような凶行に至った動機と目的も喋りなさい!」
ノーライフキング相手に堂々とすげえ。
相手の恐ろしさが理解できていないのか、それとも友だちの四魔女をアテにしているのか。
どちらにしても並大抵の度胸じゃない。
『……わらわは老姫。ノーライフキングの老姫』
答えた!?
意外にも会話が成立した。
ノーライフキングの老姫。
初めて聞く名前だし、そもそも海にノーライフキングがいるということも初めて知った。
考えてみれば人族側にも魔族側にもノーライフキングとなった出身者がいるのだし、人魚族にいたっておかしくはないよな。
それなのに今日まで影も形も表さなかったのは……何か理由でもあるのか。
『口惜しや……恨めしや……どうしてわらわの思った通りに進まぬ。矮小なる人間どものがどうしてわらわの思惑を阻みよる』
「その口ぶり、やはり……!」
ここ最近起きた事件はすべて、このノーライフキングが糸を引いていたのか。
人の心を操作し、不安や恐れといった負の感情を暴走させることもノーライフキングの魔法を用いれば容易いだろうし。
モンスターを使役して特定の何処かを襲撃することだって朝飯前。
すべてがストンと腑に落ちた。
それと同時に新たな疑問が起こる。
どうしてノーライフキングが人魚国を潰そうと狙ってくるのか?
だってノーライフキングぞ?
世界二大災厄と言われ、集落どころか一国一種族もその気になれば簡単に消し去れるヤツらぞ?
そんな不死王にとって人類など虫けら同然。眼中に入れる価値すらなく、人が何かしようとも歯牙にもかけぬのが普通だ。
先生みたいなアイラブヒューマンな御方は非常に稀有な例だ。
それなのにこの老姫とやらは何をそんなに人魚国に執着する?
しかもこんな迂遠な方法をとって。
先に言った通りノーライフキングならば一国を滅ぼすぐらい容易いことだ。
それなのにここまでの手口を見ると精神操作で地方に反乱を起こし、国政を混乱させるとかいうやり方は、いかにもみみっちいい。
ノーライフキングの超絶能力をもってすればもっと派手に、ズババーンを崩壊させられないものか。
ことほど左様に何ともやり口が陰険でちぐはぐなノーライフキングであった。
『やかましい! 人間風情が舐めた口をききおって!』
うわぁ、こまごまと指摘していたらキレられた。
『わらわはのう……人間どもが憎い! 存在も許せぬほどに! だから一度は人魚どもの都にモンスターを送り込み、滅ぼさんとした。一匹残らず根絶やしにのう!』
ではやはり……!
数年前に起こったというモンスター襲撃騒動“センテルポートの闇事件”もお前が黒幕だったのか。
なんて酷いヤツだ!
『海神どもが与えた巨大魚ジゴルもモンスターの襲撃でくたばり、数十万という人魚どもが地獄にのたうち回るはずだったのに! それを楽しみに数万ものモンスターをかき集めたというのに! なんで陸のモンスターごときに阻まれる!? 何故わらわの計画が阻まれるのじゃ!?』
オークボさんとゴブ吉さんのことか。
まああの二人を普通のモンスターで倒そうと思ったら最低でも数百万は揃えないと。
『だったら今度は調略じゃ、同族で共食いし合って潰れていく方が愚かな人間どもに相応しかろうと精神操作したのに、そこの小娘が底抜けの能天気さでことごとく邪魔しよる!』
「ノーテンキって誰のことよ!?」
エンゼルおばさんのことだと思います、ハイ。
『頭にきたから、今度の標的にはさらに強めの精神感応をして、小娘を捕らえることに成功した! あとは救出の軍がやってきたタイミングでモンスターどもをけしかけ、皆殺しにしてやろうと思ったのにそれすら上手くいかん!』
それが、今回の事件の概要だったってことか。
危うくノーライフキングの作戦に乗って、多くの血が流れるところだった。
老姫の誤算は、標的がエンゼルおばさんであったこと。
そのエンゼルおばさんのために旧い友だちの四魔女さんたちが駆けつけてきたこと。
お姉さんたちにかかればモンスターの数千ぐらい物の数じゃないからな。
オークボさんたちの時は数万を動員してきたらいいけれど、それが全滅しちゃったから数千しか集められなかったってことか?
『煩い煩い煩いわ! こうなれば、このノーライフキングの老姫みずから縊り殺してくれるぞ人間よ! わらわの思い通りに死んでおった方が遥かにマシだったと後悔させてくれる!!』
一体何がそこまでヤツを怒らせるのか?
まったく心当たりのない因果から、ノーライフキングという最悪の脅威が襲い掛かる。







