1452 ジュニアの冒険:再会の学友たち
「わぁ! ダイマル! ニチィ! オサダ! ユニード! 久しぶりね!!」
「名前全部違う!?」「そんなあやふやな記憶野でよく外交官が務まりますね!」
エンゼルおばさんと四魔女。
かつて青春を共に過ごした仲間が共に集う。……とはいえエンゼルおばさん一人が合流しただけなのだが。
「いやねえ、冗談よ。アタシがボーダフォンたちのこと忘れるわけがないじゃない」
「「「「だから違う!」」」」
ディスカスお姉さん、ベールテールお姉さん、ヘッケリィお姉さん、バトラクスお姉さんですよ。
念のために明記しておく。
「懐かしいわね……、こうして五人集まると何もかもガムシャラだった青春時代を思い出すわ。姉さんの研究室に忍び込んで実験器具暴走させたり、姉さんの魔法薬レシピ盗んで似ても似つかぬ劇薬制作した挙句に大惨事を引き起こしたり。知らないうちに魔王の前で暴言吐いてキレさせたり……!」
「本当ロクなことしてない……!」
エンゼルおばさんって、こんな人だったのか。
古き日は農場で暮らしていたと聞くが、何しろ僕が小さかった頃の話なのでおぼろげな記憶しかない。
ただ存在だけは知っていたので、どんな人なのか質問するたび母さんの眉間に皺が寄っていたのがもっとも印象的な思い出だ。
「エンゼル様は元々、私たちと一緒に農場へやってきたんですよ。そして私たちと同様にプラティ様やパッファ様の下で修行していたんですけれど……」
「修行に身が入らなくて……」
「進歩も滞り……」
「私たちとの差もつき始めて……」
ああ。
実にエンゼルおばさんらしい話。
「失礼ね! 適性を見極めていたのよ! 自分の可能性を集束させるのが少年期というものなのよ! いつまでも可能性無限大のままじゃいられないのよ!」
「実際こういう口の上手さから交渉役に適性があるのではないかと言われて人魚国に戻り、本格的にその道を究めだしたエンゼル様だったのです」
そして今、人魚国随一のネゴシエーターとして国内外を飛び回っているんだから努力が実っている。
人生ってわからないものだ。
「あの時、私たちの道は分かたれましたが」
「私たちの友情は変わりません!」
「私たちの原点がエンゼル様にあるということも!」
「私たち離れていても心は一つ!!」
四魔女+エンゼルおばさんの固く結ばれた絆。
「うう……四人衆の皆、アンタたち本当友だち甲斐のあるヤツらねえ……!」
「だから絶妙に名前を間違っている」
本当に固いのか?
「じゃあもしかしてアンタたち、その昔の絆によってアタシのピンチに駆け付けたってこと?」
「当然です!」「エンゼル様の危機と知れば私たち世界中のどこからでも駆けつけます!」「それが友だちというもの!」「ズッ友!!」
エンゼルおばさんのピンチを察知したのはたまたま人魚国を訪れたからだけれど。
四魔女さんたちも相当に根が図太いな。
これが類友。
「アタシは本当にいい友人を持ったわ……! 恵まれていないのは姉妹運だけね」
そしてことあるごとに姉を刺すことを忘れないエンゼルおばさん。
あの執拗さは何からくるものなのか。
「エンゼル様、この村はすでに私たち四魔女によって制圧されています。反乱も鎮圧されたと言っていいでしょう。もうエンゼル様に危険はありませんよ」
「はッ、そうだったわ! 暴漢に薙ぎ払われた見張りの村人たち!!」
誰が暴漢じゃい。
エンゼルおばさんを助けようと思っての凶行なので、そんな非難がましく言わないでいただけますか。
それにちゃんと救出を念頭に置いての暴行なんで加減はしてありますよ。峰打ちです。
「アンタたち、この倒れている見張りさん魔法薬で治せる?」
「そりゃ治せますけれど……エンゼル様を拘束した反乱者たちを回復させるんですか? このままの方が安全では?」
当該の見張り役たちは、僕の豪農波で全身を強く打ち、打ち身ねん挫で身体能力を大きく損なった上に気絶している。
「皆はどういう風に聞いているか知らないけれど、彼らは善良な人魚国の民よ。そんな人たちを不当に傷つけたりはできないわ」
「でも反乱したんでしょう?」
「それがそもそもの間違いなのよ!」
エンゼルおばさんは真剣な面持ちで訴える。
「こういうケースは今までもたくさんあったわ。地方から急に不満が湧き起こって、反乱に繋がりかねないほど剣呑になっていく。それで現地に向かえば住民はすぐさま不安解消して円満に終わるの」
そういえばパッファおばさんもそう言っていたような。
“反乱”がちらつくほど物騒な雰囲気になっているのに、いざ向かい合えば不満は消える。
……あッ、不満解消ってまさかあのゲームで?
「当然よ。ゲームは世界を征服できるし、救いもするのよ」
そんなある種の少年漫画みたいなノリ。
「今回はアタシが拘束されるまで行っちゃったけれど、それもいわゆる『いきおいあまって』程度の話でしかないのよ。実際これから見張り役を手始めに村人全員ゲームで懐柔していく手はずだったんだし、それも充分成功の見込みあったわ」
「さすがエンゼル様!」
ではこういった現象が昨今、人魚国各地で頻発しているってことか。
一体どういうことなんだろう。
前にも考えていたが、アロワナおじさんの統治で反乱が起きるほど不満が溜まる……っていうのは考えづらいんだよな。
「だからこの村の人たちも、本気で人魚国を倒そうなんて考えていない。何かのせいで気の迷いが起こっているだけなんだと思うの。だから必要以上に傷つけないで」
“何かのせいで気の迷いが起きている”……?
何のせいで?
「それがわからないのよねー」
「では、当人たちに聞いてみましょう」
四魔女の一人が言う。
「外の村人たちを氷漬けにしてありますので。その中から一人事情に詳しそうなのを選びましょう」
「ええええーッ!? 氷漬け!?」
エンゼルおばさんが慌てふためく。
それはそうだろう。普通人を氷漬けにしたら低体温症に陥って、死ぬ。
「大丈夫です。私は……プラティ様から『冷蔵の魔女』の名を授かっているのです」
妖しく笑うディスカスお姉さん。
「『冷蔵の魔女』の手にかかれば人を生きたまま霜だらけの氷漬けにして生命を保ち、そっくりそのまま解凍することだって思いのまま……」
とりあえず場所移動して建物から出る。
すると村内にはマジで氷像がいくつも並んでいて一目でビビった。
だってこれ氷像じゃなく正真正銘の凍った人なんでしょう?
そんなのが並べられるなんてサイコパスの世界だって。
「相手を無傷で沈黙させたかったらディスカスに任せるのが一番なのよね」
「凍らせる腕前も速やかだし。解凍の成功率も一〇〇%だしねー」
「パッファ様も『ここまで生体を傷つけずに凍結解凍できるのはディスカスだけ。アタイでも無理』って言ってたわよ」
ディスカスお姉さんは氷像を一つ選び出すと、それに向けて魔法薬を振りかける。
海中でもしっかりふりかかるものだなあ。
そして魔法薬を浴びた氷像はジュウと煙(煙幕?)を噴きながら、健常な中年男人魚へと息を吹き返した。
「えッ? 突然荒波が……! あれッ?」
「アナタに質問があります。速やかに答えなさい」
ディスカスお姉さんが尋問を始めたが、その声色は恐ろしく冷たい。
敵とみなした者への呵責ない冷酷さ。やはり若くとも魔女。
「どうしてこの村の連中は、人魚王家に対して反抗を企てたの。アロワナ陛下の統治に何の不満があったというの?」
「とんでもない! 人魚王様の治める世の中にゃー、ワシら村人総出で感謝しております」
中年男性……この年格好なりに時勢に聡そうな人魚が恐れおののきながら言う。
「人魚王様の威光はこんな田舎にまで届いて、何年か前に役人の不正がバレて逮捕されました! 税金の一部を懐に入れて私腹肥やしていて憎たらしいヤツです! それ以来ウチらの暮らしはよくなる一方で、これはまー人魚王様がよい政治をしてくださるからだと……」
息継ぎ。
「……ワシらの暮らしが豊かになるのは人魚王様のお陰だ。足を向けてはねられねーと日々感謝しております!!」
「だったらなんで反乱起こしているのよ、ん?」
ディスカスさんの周囲の空気が凍りだしている!?
「落ち着いて! ディスカス落ち着いて!」
「そ……それがよくわからんのですわ! なんか腹の底からムカムカしてきて、気づいたら決起集会なんぞ開いて。王家様からの使者がなだめてくださってようやく正気に返れたと思ったら、今度はそれ以上にムカついて使者様を縛り上げちまって……!」
「アタシなら大丈夫よ! ホラ、こんなに元気爆発ガンバルガール!!」
村人に気を使って無事をアピールするエンゼルおばさん。
案外民をいたわってらっしゃる。
「最近の反乱モドキは大体こうなのよ。原因となる不満点は特にないのに感情ばかりが湧き起こって暴発へと至るの。他のケースでも聞き取りは行われているから同様なのはわかるわ」
「エンゼル様ってそんな細かい仕事できたんですね」
「どういう意味!?」
動機はないのに各地で起こり続ける反乱。
これはもう政治のせいとか言う話ではなく、何かに仕組まれたものではないのか。
何者かによる人為的な暴発でなければこんな不自然なことが立て続けに起きはしない。
特に今回は、エンゼルおばさんが拘束される事態にまでいったのだ。今まで無難に治めてきた名交渉者のエンゼルおばさんが。
なにか、よくない流れを感じる。
「ちょっと待って」
そこへ四魔女の一人バトラクスお姉さんが慌て気味に言う。
「モンスターが現れたわよ。数千体。この村を取り囲んでいる……!?」







