1443 ジュニアの冒険:魁!!乙女塾
乙女塾!?
それは一体何者なんだ!?
名前の感じからしてマーメイドウィッチアカデミアと同じ教育機関と思しきが……。
なんか字面が厳つくない?
「お、乙女塾ですって……!?」
なんだ?
知っているのかドミノクラウンさん!?
「聞いたことがあるわ。ここ数年の間に新設された教育機関。主に少女人魚を対象とした女子校だという点はマーメイドウィッチアカデミアと同じ。でも乙女塾はスラム地区に設立され、家庭の事情などで学校へ行けない子たちを対象に授業料完全免除だとか」
そういう意味では、お嬢様学校のマーメイドウィッチアカデミアと対極みたいな運営方針だな。
「設立には、人魚国の教育水準の底上げ……を謳っていたと記憶しているわ。庶民からは持てはやされる一方で、貴族層からはバカほど批判されていた感じかしらね」
ドミノクラウンさん解説がスゥーと効いて理解が深まる。
そうか、同じ女子校ならあっちの方も出場していて当然か。
そうじゃないと不公平だもんな。
「乙女塾が設立されてから、そろそろ三~四年。一期生が最高学年まで成長した時期を見計らって仕掛けてきたってこと?」
ドミノクラウンさんが分析しているところへ、大慌てのカープ学園長が突入してくる。
「我が学園の生徒が敗退ぃいいいいいいッッ!?」
「おッ、カープ学園長?」
「どうしても外せない仕事があったので遅れて来てみれば、こんなことになっていたとは! 乙女塾……やはり我が学園に立ちはだかってきましたね……!」
その口ぶり、カープ学園長はあの学校の存在を知っているのか?
そりゃまあ学園長だしなあ。
「私たちマーメイドウィッチアカデミアとは真逆の教育方針ですからね。設立が議題に上がった時は真っ先に抗議を入れました!」
こういうところキッチリしているよなあ。
褒めるわけでも貶すわけでもないが。
「まあ、だからといって悪い政策ではないと思いましたがね。教育水準の底上げ、いいことじゃないですか」
だったらなんで抗議した?
「教育はすべての人平等に受ける権利があります。海は人魚の上に人魚を作らず、人魚の下に人魚を作らず。貧しいから、庶民だから、そんな理由で学ぶ機会を奪われるのは間違っています」
「だったらなんでそんなに乙女塾を目の敵にしてるんです?」
「そんなの決まっているではないですか……乙女塾を発案設立したのはゾス・サイラだからですよ!!」
やっぱり私怨だった。
しかもより個人的な。
「ゾス・サイラのヤツめ、あからさまに私への当てつけですよ。私がマーメイドウィッチアカデミアの学園長に就任したからって、自分でも学園作って私に対抗しようとしてるんです。わざわざスラム地区に建てたのもその一環ですよ。アイツは無頼を気取りますからねえ・
たしかにゾス・サイラさんはそういうところあるが。
「大体アイツが対抗意識燃やしてくること自体お門違いなんですよ。“センテルポートの闇事件”でもアイツが手柄全部かっさらっていったくせに。いや正確にはアイツの旦那ですが。……何が守護神ですか。あの事件で人魚国を守ったのはアイツの旦那だけではないというのに」
と、いうと?
「あそこには彼もいたのですよ、そう私の愛する旦那様のゴブ吉様が!」
説明しよう。
ゾス・サイラさんは農場のオークボさんと結婚しているが、このカープ学園長もまた農場住みのゴブ吉さんと結婚している。
一見教師職にすべてを捧げているように見えてカープ学園長も夫婦仲はすこぶるよく、転移魔法薬を活用して農場から学園と通勤生活を送っている。
その点はゾス・サイラさんと同じだ。
「『愛する妻の務める学園を脅かす者は許さん』と戦ったのはゴブ吉様も同じなんです。なのに終わってみればゾス・サイラの旦那ばかり誉めそやされて……!」
どうしてそんなことになったのか?
答えは簡単。
ゴブ吉さんの動きが速すぎて誰にも認識できなかったからだ。
なにせ時間停止と高速活動を併用できるゴブリンだからなゴブ吉さんは。誰にも捉えられないし、僕にも捉えられない。
普通の認識速度しか持たない人魚さんたちから見れば、唯一視認できるオークボさんが一人でなんか薙ぎ倒しているようにしか見えないだろう。
そんなわけで唯一の英雄となってしまったオークボさんだった。
「モンスターも半分以上はゴブ吉様が倒したのに、その功績もゾス・サイラの旦那が独り占め……! それなのに『キミが無事だったならそれ以上にいいことはない』と……、ああッ、ゴブ吉様は本当に紳士ですわ!!」
それでますますゾス・サイラさんを目の敵にしてしまったと……!?
「そうです、どうせこの海下一武闘なんちゃらとか言うのも、ゾス・サイラの差し金に違いありませんわ! 自分がケツ持ちになった乙女塾が、マーメイドウィッチアカデミアを打倒するところを夢想して、舞台設定したに違いありません! 人魚宰相の権力を濫用して、まあ、はしたない!」
「違うぞえ」
「へ?」
気づいたらすぐ隣にゾス・サイラさんがいた。
噂の張本人が!?
これがことわざに言う『ゾス・サイラの話をするとゾス・サイラが現れる』というヤツなのか!?
「盛り上がっているところ申し訳ないけれど、わらわはこの大会の開催にはなんも関わっとらんぞ?」
「ゾス・サイラ! こんなところに現れてよくものうのうと! 実際にアナタがここに現れたことが、何よりあなたが関わっている証拠じゃありませんか!」
「そんなこと言われても、わらわも人魚宰相としてこんなデカいイベント様子を見に来ないわけにはいかんしのう。……それに一時でも顔見せんかったらあとが怖いし……!」
ん? ゾス・サイラさんどうした?
「とにかくこの海下一魔女なんちゃらの開催運営について、わらわはノータッチじゃ。人魚宰相の殺人的忙しさを考えたら察しもつくであろう?」
「うッ……、で、でも乙女塾の設立は、たしかにアナタの発案だったと記憶しているわ!」
「たしかに乙女塾設立を議会に諮ったのはわらわじゃ……。だがなカープよ、議会に提案したからと言って、わらわが発案したと言い切れるかの?」
「え?」
「この大会についてもそうじゃ。公的に『主催・パッファ人魚王妃』となっているが、本当にそうか? アイツだって元々クソ忙しい身分で、余計なことなど極力したくないだろうに」
しかし乙女塾設立はゾス・サイラさんが発議し、海下一魔女武闘祭はパッファおばさんの主催で行われた。
二人にその気がなかったとしたら……。
この二人に気が進まないことでも無理やりさせられる人に、心当たりは一件しかない。
「あらあら、ゾスちゃんにカープちゃん、ここにいたの?」
「「うひぃッッ!?」」
現れたッ!? 噂するどころか思い浮かべただけで現れた!
「シーラおばあちゃんッ!?」
「ジュニアちゃんもよく来てくれたわね。アタシの招待に応じてくれて嬉しいわ。でも残念、今のアタシはアナタのおばあちゃんじゃないの」
はい?
と、言いますと?
「今のアタシは……乙女塾塾長、シーラ・カンヌよ!!」
「なんですとぉおおおおおおッッ!?」
一人驚くカープさん。
僕も驚いたが。
その奥で一人ゾス・サイラさんが手で顔を覆っていた。
「アタシは乙女塾塾長、シーラ・カンヌよ!!」
「それはわかりましたから!」
なんで二回言った?
「ちょっとゾス・サイラどういうことです!? すべての黒幕はシーラお姉さまだったと!? あの御方が裏で糸を引いていたと言うんですか!?」
「すべて見たまんまじゃ。まあ、あの人は現役から退いた分わらわはパッファより時間余っておるからのう」
その上で、パッファおばさんが現人魚王妃として侍女たちをきっちり育て上げているのを見て、自分もやってみたいと思ったそう。
そして宰相を裏から巧みに操って、設立させたのが乙女塾。
「ゾス・サイラ……アナタ大変だったんですね。あらぬ疑いをかけて申し訳ありませんでした……」
カープさんですら優しくなるレベル。
「だからわかるじゃろう? シーラ姉さま元々あっち生まれじゃし、そこを考えたら学校設立地もスラム区なのは自明の理じゃ」
「『教育水準の底上げ』云々も隠れ蓑だったと?」
「いや、そこは本心……である、あってほしい、きっと本心じゃ」
段々自信がなくなってくる三段論法やめて。
「とにかくシーラ姉さまが旗頭になって教育していったらどうなると思う? あのシーラ姉さまの指導に三年か四年か耐えきった娘はどうなると思う?」
「……!?」
「…………!?」
なんか言え。
いや、ゾス・サイラさんもカープ学園長もおいそれとは口に出せないのだろう。
シーラおばあちゃんが手ずから育て上げた女生徒。
そんな子が一人前の域にまで大成できたなら、その結果現れるのは。
……武闘派……!
「乙女塾も設立から年月経って、ようやくよそ様にお出しできるぐらいの子が育ってくれたのよ。それでお披露目したくてパッファちゃんにお願いしたの。相応しい場を用意してくれって」
それで『主催パッファ人魚王妃』になっていたのか!?
パッファおばさんも来て早々撤退していくよ、そりゃ!
「ジュニアちゃんが来てくれたのもいいタイミングだったわ。アタシも孫の前で張り切りたかったもの。そういうわけで乙女塾から、アタシが自信をもって出場させた子たちよ」
三人並んだ年若い乙女たち。
「乙女塾一号生筆頭、カタクチ」
「乙女塾二号生筆頭、キヌベラ」
「乙女塾三号生筆頭、オトシンクルス」
でも全員顔つきが乙女じゃねえええ……! 眼光鋭い!? 殴り合いに命を賭けた闘士の顔つきだよ!!
「各学年から選りすぐりした子たちよ。マーメイドウィッチアカデミアのことも当たるだろうけれど、その時は胸びれを貸してもらうわねカープちゃん?」
「は、はいぃ……!?」
一気に激戦の様相を呈してきた。
海下一魔女武闘祭の行く末は、一体どっちだ?






