1442 ジュニアの冒険:武闘開始
恐るべし新世代魔女の人気。
「きゃあああああディスカス様! ベールテール様ぁあああッ!!」
「ヘッケリィ様! バトラクス様ぁああああああッッ!!」
シュリンプさんとドミノクラウンさんまで新魔女に興奮の声援を送っている。
その様はまさしくただの強火ファン。
これは若い彼女らが一際ドデカい感情を抱えているんじゃなくて、あの壇上のお姉さんたちの求心力が物凄い……ということ。
「これは俄然燃えてきましたわ! 私前々からベールテール様の情熱的な火炎使いに魅入られておりますの!」
「私だって、ディスカス様のクールな戦略、ヘッケリィ様の気温気圧を完全制御する風魔法薬。そしてバトラクス様のすべてを『整理』してしまう制圧力……! すべて私の推しよ!!」
ドミノクラウンさんの推し方が強火。
「あの……ディスカスのクールさは、アタイ譲りなんだけど……?」
「あの四方の指導を受けられるなんて、充分にメチャウマなご褒美だわ! 世界のすべてに匹敵するわ!」
「アタイは……?」
急に相手の評価を羨ましがらないでくださいパッファおばさん。
「では、同じ目標を持つ私たちは敵同士……ということで」
「けっこうだわ、お嬢様に何か負けないわよ」
バチリと火花を散らすシュリンプさんとドミノクラウンさん。
学生らしい健全なライバル意識を発散していた。
いやぁ、こうして傍から見守るだけでも盛り上がっていることがわかる。
パッファおばさんも自分が主催した大会が繁盛して達成感もひとしおじゃないですか?
急に色んな人を巻き込むのは感心できないですけれども。
「あれ? アンタもしや聞いてない?」
とパッファおばさん。
何をです?
「いやぁ……、聞いていないならアタイの口からは憚られる……。でもこれだけは言っておくよ、この大会主催したのはアタイじゃないよ」
えッ? パッファおばさんじゃない?
じゃあ、誰がこんな大規模イベントを?
「それを含めてあの人の計画だろうねえ。きっとアンタを驚かせたいのさ。それじゃあアタイも義理の顔出しは済んだからこれで! 子どもらがアタイの帰りを待っている!!」
ああッ、パッファおばさんがシュタタタタタタッと駆け去っていった。
人魚王妃の退場の仕方じゃない!
その一方でステージ上の若手魔女さんたちはノリノリ。
「強くなりたくば食らえッ!」
「この戦いの先に、食うか食われるかの勝負の先に、新しい自分が待っている!!」
「先輩魔女たちも歩いた道よ!」
「戦って、戦って、戦い抜いて! 富、名声、力すべてを手に入れるのよ!」
「「「「海下一魔女武闘祭、レディファイトーッ!!」」」」
これが開会の辞か……。
かくして、ちょっと不穏ながらも大盛り上がりいい雰囲気から大会はスタートしていった。
* * *
大会は、ごく普通の変哲ないトーナメント方式であった。
各所に用意された闘技場で、腕に自信のある人魚娘たちが魔法薬入り試験管をブン投げて激闘繰り広げる。
「うふふふふ、……この程度の試験管捌きで私を倒そうなどとは片腹痛いですわね」
ここはお嬢様代表シュリンプさんのリング。
対戦相手が放つ魔法薬入り試験管を巧みにかわしながら、水中を泳いで接近していく。
ちなみにこの大会の闘技場というのは、巨大なシャボンいっぱいに満たされた海水の中で外見には金魚鉢のようだ。
観戦者はシャボンの被膜越しに戦いの様子を見守る仕組み。
「ただ投げつけるだけが魔法薬入り試験管の使い方ではありませんわよ」
そう言ってシュリンプさんはみずからの試験管の蓋を開け、中身を周囲にまき散らす。
海水と溶け合った魔法薬は、その化学反応によってか凄まじい海流を作り……。
「うわああッ!?」
その海流に乗って超スピードで相手に迫るシュリンプさん。
「捕まえましたわ」
相手を掴むと同時にアームロックを決める。
「あだだだだだだだだ! ギブ! ギバーップ!」
「関節技もレディの嗜みですわ」
意外と力技で勝つシュリンプさん。
一方でドミノクラウンさんはさらに一方的だった。
「うわああああああッ!? 目がッ!? 目が見えないッ!?」
「降参しないなら次は聴覚を潰すよ、どうする?」
あれは、僕の農場六聖拳との戦いで見せた感覚を封じる魔法薬。
僕もこの身にやられたのでヤバさが実感できる。
そう僕と彼女との出会いは戦いの場だった。
正体不明の難敵・農場六聖拳の一人であったのがドミノクラウンさんだ。
六聖拳は僕の能力『究極の担い手』を無力化する方法をあの手この手で実践してきた難敵であったが、あのドミノクラウンさんは『感覚を潰す』という方法論で『究極の担い手』を封じようとしてきた。
触れたもののポテンシャルを限界以上に引き出す『究極の担い手』なら、触れたことを感じさせなくすれば能力も発動しない。
……という論法だったな。
しかしそんなアンチ『究極の担い手』を目指した戦法だが、『究極の担い手』以外を相手にしても滅法強い。
そりゃそうだ『見る』『聞く』を封じられたら、誰であっても大抵その時点で戦闘不可能になる。
それに加えてドミノクラウンさんは嗅覚味覚触覚も漏れなく封じてくる。
元々がアンチ『究極の担い手』戦法なので触覚に対しては念入りだ。
相手は有効な対処法も見いだせないまま一方的に蹂躙されていくのだった。
「封じられた感覚は、時間と共に薬が抜けていけば回復するから安心なさい」
「凄いですわドミノクラウンさん……!? そんな魔法薬、学園で教わりまして?」
お互い試合終了してリング袖で合流するシュリンプさん、素直な驚嘆を現す。
ましやこの子、思ったより大分いい子なのでは……?
「当然よ、これはエヌ様より授かったオリジナル魔法薬、その辺の凡人には到底真似できないわ」
それ遠回りに自分の学校の教師のことを凡人呼ばわりしていない?
大丈夫?
「シュリンプ様ー!」
「見事な勝利でしたわーッ!」
シュリンプさんの回りには、いつも一緒の友だちお嬢様が駆け寄ってくる。
対してドミノクラウンさんは一人。
仕方ない、あんなボッチムーブをかましていれば……。
「別にいいわよ。私の心の中にはいつもウェーゴの仲間が……」
「「「「頑張れドミノクラウンーッ!!」」」」
んッ? なんだ!?
観客席から野太い応援が……? 声のする方へ視線を向けてみれば、なんか知ってる人たちがいるぅううッ!?
「リルレイ!? ザーガ!? イエローテイル!? シブア!?……農場六聖拳の仲間と他にもたくさん……!」
あれは秘密組織ウェーゴのメンバー!?
同組織の仲間ドミノクラウンさんのために大挙して応援に詰めかけたってこと!?
そしてその先頭にはもちろん……。
「ノリトッ!?」
「エヌ様ッ!?」
同一人物です。
弟が、仲間の応援のために組織総出で駆け付けている!?
「もちろんだ! ドミノクラウンの戦場にオレたちウェーゴの仲間が駆けつけないわけないだろ!」
「頑張れお前の背には我らが控えているぞ!」
「農場六聖拳の意地を見せろ!!」
惜しみない応援の嵐。
それを見てシュリンプさんが……。
「あらあらドミノクラウンさんにもあんなにたくさんお友だちがいらしたのね」
「ふぐぅッ!?」
初めて出会った時の印象よりだいぶあったけえではあるウェーゴ。
しかし、シュリンプさんドミノクラウンさんを始めマーメイドウィッチアカデミアの在学生たちは安定して勝ち進んでいるなあ。
やはり名門校、その英才教育で仕上がった生徒の総合能力は高い。
他の参戦者たちがどんな出自か把握していないが、それらの人たちとは明らかに一線を画す。
これなら優勝者は、マーメイドウィッチアカデミアの生徒の中の誰かに決まりだな。
そう思った矢先だ。
「うわーラミレジィ様が!?」
「マーメイドウィッチアカデミアのラミレジィ様がッ!?」
マーメイドウィッチアカデミア生が敗北!?
シュリンプさんやドミノクラウンさんとは別で参加している人たちの中の一人のようだ。
それでも総勢数百名の中から選抜されたんだから、きっと手錬の優等生だろうに。
それを下したのは誰だ?
「フフフフフ……マーメイドウィッチアカデミア恐るるに足らず。これからは私たちの時代だ。私たち……乙女塾のな!!」






