1441 ジュニアの冒険:ベテラン新魔女登場
はい、僕ジュニアです。
ついにこの日が来てしまった。
海下一魔女武闘祭、その開催日が。
そしてここは開催会場。
まさにイベントのど真ん中というわけだ。
そんな巻き込まれ体質ナンバーワンな僕の回りに、たくさんの人々が集まっている。
「やりますわ! 勝ちますわ! パクパクですわ! この大会何が何でも優勝してやりますわあああッッ!!」
まずお嬢様チーム代表シュリンプさんがお嬢様らしく燃えていた。
……お嬢様らしくって、これでいいのか?
「頑張ってくださいシュリンプ様!」
「私たちも応援席で勝利を記念しておりますわ!」
「声も出しますわ! かっとばせー!」
そして取り巻きお嬢様方も、リーダーの応援に全力を尽くしている。
なんやかんやで絆は深いんだよな、このグループ。
「ありがとうございます! 皆さんの応援を背に受けて必ず優勝し、魔女様から指導をいただく機会をゲットしてみせますわ!」
シュリンプさんも素直に感謝しているし……いい子か?
これが流行りの悪役令嬢(善人)というヤツか?
それともう一人。
「…………」
マーメイドウィッチアカデミアからの代表として選ばれたドミノクラウンさん。
こちらはいつもの仏頂面。
代表に選ばれた時……というより優勝賞品が判明した時はあんなにも年相応にはしゃいでいたのに。
「あの時は不覚だったわ……私にだって我を忘れるほどときめく瞬間があるのよ。しかし私もエヌ様に仕える高弟の一人、いつでもクールが基本なのよ!」
と今は努めて沈着冷静でいるが、尾びれがブンブン振り回されていますよ。
我慢ができない犬みたいになっている。
マーメイドウィッチアカデミアからは、他にも何人か代表選手が参戦しているが……印象薄い。
もちろんマーメイドウィッチアカデミア以外からも出場者は多数。
どういう出自からの参加かは知らないけれど、それぞれ燃え盛る意欲を持っていそうだ。
さらにそれ以上に多くの観戦者。
数百人はゆうにいる。
人魚族の男女に限らず、観光客らしい地上人たちまで……。
「ママー、ここでお姉ちゃんたちが戦うの?」
「そうよ、静かに観戦しましょうね」
僕が入国した際に見かけた人たちもいる。
これだけ集客性の高いイベントだということか。
「おおジュニア、ちゃんと来ていて偉い偉い」
と言って現れたのはパッファおばさん。
またの名を人魚王妃パッファ。
本日はお招きに預かりクソありがとうございました……とでも言おうかと思ったがその前に。
「パッファ王妃ぃいいいいいいッ!?」
「至近から見るナマパッファ王妃!?」
「眩しいですわ! 目が潰れてしまいますわ!」
「あああぁ~、浄化される……!」
「ダメですわ消えないでくださいまし!!」
居合わせたマーメイドウィッチアカデミアのお嬢様方が悲鳴を上げていた。
やはりパッファおばさんも、全国の若き人魚たちから憧れを一身に受ける尊い立場なのだ。
「むず痒いねえ、今でも慣れないよ、こんなにキャーキャー言われるのは」
と照れながら苦笑するような表情をするパッファおばさん。
「アタイの時代と言えば、魔女なんて災いの先触れ。魔女を見たらまず通報、もしくは逃げろなんて言われていたのにねえ」
とため息を吐く。
「それが今じゃ、皆の憧れの的なんてねえ。時代は移り変わるというけれども、こんな変わりようは予想外さね」
そうは言いますが、そうした価値観の激変にもっとも寄与したのはパッファおばさんでは?
魔女でありながら国王に迎えられて妃となり、魔女の知識で様々な施設や習慣を作り出して文明発展に貢献した。
さらには見た目も抜群に美しく、それに憧れて王宮に仕える侍女が爆増。そんなレディたちに指導を加えて、どこに出しても恥ずかしくない立派なお嫁さんを仕立て上げる。
その傍らで国王との間に十人近くもを自分一人で出産。
お世継ぎ問題も華麗にクリア。
非の打ちどころのない完璧王妃につられて魔女の見方もたちどころに変わっていった……。
「いや、魔女のイメージアップはプラティの影響も大きいだろう。元から王女だったんだよアイツ」
でもそんな母さんも嫁に出てしまって、現役で矢面に立っているのはパッファおばさんですし。
パッファおばさんがここまで国に尽くして、魔女のイメージアップを実現したんですよ!
「……ったく参るねえ、アタイは愛する旦那様に尽くしてきただけなのに」
「きゃああああ、素朴な愛の告白ですわ!」「その自然さが強者感を出しますわ!」
パッファおばさんの発言一つ一つに周囲の方々が沸き上がる。
もはや人魚国のカリスマとして君臨するパッファ人魚王妃おばさんであった。
「あッ、あの……!」
そんなパッファおばさんに突撃してくる人影。
あれはドミノクラウンさん?
「私、あの、パッファ王妃殿下にあこがれ……いや尊敬していまして……なんていうかその、絶対優勝して王妃様の指導を受けます!!」
しどろもどろながらも強烈な宣言。
やっぱり内なるハートの血潮が熱いドミノクラウンさんだった。
「え? アタイは別に指導しないよ?」
そこへ返ってくる無慈悲な返答。
「へッ!?」
「そういや優勝賞品は魔女からの直接指導権だっけ? でもアタイは公務やら自分の侍女の指導やら子育てやら……あと何より旦那の世話で手いっぱいだからねえ。これ以上タスク増やせないんだよ。悪いねえ」
「「「「「ええええぇ~!?」」」」」
これにはドミノクラウンさんだけでなく他の参加者も声を上げる。
でもまあ『魔女からの直接指導』であって、それがパッファおばさんだとは明言されていないからな。
パッファおばさんも魔女ではあるけれども。
けっしてウソをついたことにはならない。
すべてはレギュレーションの範囲内。
「では、別の魔女様が手ほどきしていただけると?」
「一体それは誰……あッ、ゾス・サイラ様!?」
そう人魚宮にはもう一人、『アビスの魔女』を名乗る宰相ゾス・サイラさんがいた!
「いやいや、あの人宰相だよ。フツーにアタイより忙しいよ。今ですら抱える案件減らしてほしいって泣いてるのに増やすのなんて無理無理」
「じゃ一体誰が!?」
「それは……、ちょうどいい本人どもが出てきたよ」
海下一魔女武闘祭、開会式が始まったのかステージに若々しい女性が駆け上がってくる。
「『冷蔵の魔女』ディスカス!」
「『火加減の魔女』ベールテール!!」
「『熟成の魔女』ヘッケリィ!」
「『整頓の魔女』バトラクス!!」
「四」「人」「揃」「って!」
「「「「新星四魔女勢!!」」」」
キメポーズと共に背後で起こる爆発。
何だこのコテコテな登場シーンは?
僕知ってるぞ!
ディスカスおねえさん始め、ベールテールおねえさんとヘッケリィおねえさんとバトラクスおねえさん!
いずれも農場で働いている人たちじゃないか!?
「その通り……」
パッファおばさんが腕組みしながら言う。
「農場でアタイら旧世代魔女からの直接指導を受けて、その奥義を会得したルーキーたち。それからも弛まず研鑽を重ね、今となってはアタイらに引けを取らない真なる魔女!」
そんな魔女たちが農場では漬物作ったり冷凍庫を管理したりしているのか……。
もしかしてウチって規格外?
「優勝者を直接指導するのはあの子らがやるそうだね。あの子らは若いし、何より独身だから、ヒト様を見れる余裕はあるだろうさ」
と状況分析するパッファおばさん。
でも大丈夫なの? 参加者的にはパッファおばさんとかゾス・サイラさんとか、あるいはウチの母さん辺りを想定したのに。
いざ蓋を開けてみたら担当するのは新世代の魔女さん……となったら皆ガッカリしないか?……と。
「きゃあああああああディスカス様ッ!」
「ベールテール様にヘッケリィ様まで!!」
「新世代魔女の揃い踏みよぉ!!」
「バトラクス様ぁ~!!」
えッ!?
お姉さんたちの人気、全然負けていない。
レジェンド世代の旧魔女に負けないほどに。
「そりゃああの子らだって魔女の称号を得て長いからねえ。積み上げた実績ってもんがあるんだよ。アタイとしても初めて手ほどきしてやった子らが立派に第一線張ってて、誇らしいやらむず痒いやら」
教え子の成長ぶりに感無量らしいパッファおばさんだった。
「まあ、まだアイツら全員独身じだけどね!!」
そこをプッシュするなあ。






