1439 ジュニアの冒険:海下一への誘い
「……あ、そうそう他に用件があったのです」
とカープ学園長。
急にまともになるな。
母さんの件であれほど縋りついてきたというのに。
もしやカープ学園長が唯一まともでなくなるスイッチが母さんだったりする?
「まずシュリンプさん……そこにいますね」
「はい」
母さんのことで会話に交じってきた本人でもありますしねシュリンプさん。
お嬢様グループの首魁だし、現況一番の生徒だって言っていたから学園長からの覚えめでたいのか。
「それから……ここにいる中ではドミノクラウンさん」
「はい?」
「アナタが人の輪に加わっているなんて珍しいですね。いつもは孤高と孤独を愛するアナタが」
「いや、別にそんなことは……!」
「ジュニア様に引き寄せられたということですか?」
ドミノクラウンさんまで学園長からピックアップされるとは。
たしかにただ者でない雰囲気は出しているけれど。
「ご存じないのですか? ドミノクラウンさんは在校生の中で五本の指に入るぐらいの名家のお嬢様なんですよ」
「……!」
えッ、そうなんですか?
でもそれ大っぴらに言っちゃっていいんですか、当人が今ピクリと震えましたよ?
「別に隠すようなことじゃないでしょう。恥じるどころか誇れるものですよアナタの出自は。まあそうは言っても思春期は複雑ですからねえ……」
とカープ学園長はデリカシーがあるのかないのかよくわからないコメントをする。
「生まれの高貴さを置いておいてもドミノクラウンさんは優れた生徒ですよ。マナー学科で後れを取っていますが魔法薬の腕前は間違いなく我が校トップクラスです。あとは協調性があれば申し分ない優等生なのですが」
「……」
ほら、ドミノクラウンさん押し黙っちゃった。
大丈夫ですよ。協調性についてはウェーゴの方で遺憾なく発揮してますから。
つまりドミノクラウンさんはプライベートで自分をさらけ出せる人!
とまあ、そんな優等生代表と、問題児代表みたいな二人を並べて学園長は言う。
「シュリンプさんとドミノクラウンさん、我が校で好成績を上げる優等生のお二人に申し伝えることがあります」
「はい」「はい……?」
何事かと周囲の女生徒たちもざわつく。
頭に本を載せながら。
「先ほど人魚宮から連絡があり、特別な式典を開催するとのことです。アナタたちにはその参加資格が与えられます」
特別な式典?
なんだまた藪から棒に?
「どうやらジュニア様が来訪されたことで急遽企画されたようですね。我らが人魚国の素晴らしさをアピールしようという目論見でしょう」
「それに……私たちが参加すると?」
「そうですね、我がマーメイドウィッチアカデミアからも五~六名ほどの成績優秀者を選抜することになりました。その中にアナタたち二人も含まれた……という流れです」
「まあ、それは光栄ですわ!!」
素直に喜びをあらわにするシュリンプさんと、有難迷惑と言わんばかりなドミノクラウンさん。
あれはもう『辞退していいですか?』と言い出す三秒前だな。
「辞退するかどうかは、内容を詳しく聞いてからでもよいでしょう。まず式典の名称を発表すべきですね」
そういやそうだ。
「その名は……海下一魔女武闘祭!」
「「海下一魔女武闘祭!?」」
なんだその名称は?
「人魚宮からの通達をそのまま言うと、魔法薬師の能力を競い合い海上海下に轟き知らしめるための式典だそうですね。腕に覚えのある魔法薬師たちを集め、戦わせて、戦わせて、最後の一人になるまで戦わせるのだそうです」
聞けば聞くほど物騒な大会だなと思った。
それ本当に僕がきっかけで開催されるんですか?
本人としてはもっと和やかに進む会の方がいいんですけれど。なんでそんな血生臭い大会になっちゃっているんですか?
「それをわたくしから言わせますか? 不敬なことは申し上げたくないのですが」
あ、ハイ。
やっぱりいいです。
「やはり王宮にゾス・サイラ、シーラお姉さま、パッファ王妃と揃えば荒れた風潮になるのは致し方なし、ということですか」
やっぱりいいって言っただろうがよぉ!!
むしろアナタ自身が不敬なこと言いたいんじゃないですか!? あとあと僕が言わせたみたいにしないでしょうね!?
「とまあ、そんな感じの大会です。シュリンプさん、ドミノクラウンさん、質問はありますか?」
「問題ありません! この私が必ずや優勝し、マーメイドウィッチアカデミアの威光を示してみせますわ!」
模範的にノリノリなシュリンプさんと対照的にドミノクラウンさんはまだ元気がない。
その気持ちはよくわかると、僕も注目を受けたくない族なので共感してみる。
「では、この情報を聞けばどうでしょうか?」
さらに説明を続けるカープ学園長。
「こうした最強を競い合う大会ですので、最後まで生き残った優勝者には賞品が与えられます」
「賞品……?」
そりゃあ、そんな生死を懸けて争うような催しなら、最高の成績叩き出したヤツに何らかご褒美がないのはおかしい。
名誉ややり甲斐だけじゃ飢えは満たされないのですよ。
というわけでどんな賞品があるんだ?
……まさか僕とお付き合いする権利……とかじゃないよな?
人魚宮でのパッファおばさんのやり口からして充分ありそうなのが嫌だ。もし本当にそうなら全力で逃げ……止めなければ。
「この大会名が“海下一魔女武闘祭”となっていること気になりませんか?」
「はい?」「それは……?」
「魔女とは、その知性能力が飛び抜けて卓越した魔法薬師に許された称号。その名を冠し、若手最強の魔法薬師が集い戦う大会に勝ち抜いた乙女は、まさしく魔女と呼ばれるに相応しいでしょう」
現状この世界に、魔女と呼ばれる女性は何人かいる。
ウチの母さん始め、パッファおばさん、ゾス・サイラさん、他にも色々……。
総勢十人以上はいるが、それでも魔法薬を扱える女人魚さん総人口と比すればメチャクチャ小さな割合だ。
それぐらいの厳選に厳選を重ねた、一握りの中の一握りの中からさらに一握りを絞り抜いた頂点の結晶。
それが魔女と呼ばれる女性たちなのだ。
「この大会は、次世代の魔女を育むためのものでもあるのでしょう。……さて、前振りが長くなりましたが、ここで優勝者に与えられる賞品は……」
溜めるな、溜めるな。
「現魔女から直接指導を受ける権利です」
「やりまぁああああああああっすッッ!!
ドミノクラウンさんが物凄い勢いで食いついた!
そんなに魅力的なのか、魔女指導!?
「あの、魔女指導とは具体的にどなたから?」
「そこは明言されておりませんが、まあ言い出しっぺであるからにはパッファ王妃やゾス・サイラ辺りになるんじゃないでしょうかね?」
特に関心もなく所見を述べるカープ学園長。
しかし、ここまで塩対応だったドミノクラウンさんに火をつけるには充分だった。
「パッファ王妃!? ゾス・サイラ宰相!? あんな伝説的魔女から教えを受けるなんて一生ないかもしれないチャンス! 絶対に絶対に絶対に! 親の仇になってでも優勝するぁあああああああッッ!!」
「うひぃッ!? こんなドミノクラウンさん初めてですわ!?」
隣で戦慄するシュリンプさん。
ひとまず僕が巻き込まれる形の大会でなくてよかった。
しかしこのような大会を開く人魚王族の思惑は一体……?
何やらきな臭い匂いがしてきた。
僕も一旦人魚宮に戻って真意を問いただすべきか。
それとも逃げ……。
「そういえばジュニア様」
「はい!?」
「アナタ宛てに私信が来ていますよ。シーラお姉さまからです」
シーラおばあちゃんから!?
何とも戦慄するものを感じながら、僕はその私信を受け取った。
その内容は……。
――『ジュニアちゃんも是非観戦しにきてね』
逃げ道は既に塞がれていた。
いや『参加しろ』と言われなかっただけ助かったと思うべきなのか。
どちらにしろ、僕もまたこの狂乱の祭りに無関係とはいられず、巻き込まれていくことになる。
それはそれとして……。
そろそろお嬢様たちの地上人化を解いてやらないとな。
そのためには地上人化の解除薬を服用させないといけないんだが。
それを持っているのはドミノクラウンさん。
でも対外的には僕が薬用意したことになっているからな。カープ学園長の前で渡しにくいな。
……早く帰ってくれないかな。






