1436 ジュニアの冒険:ウォーキングマーメイド
突如勃発した僕vsマーメイドウィッチアカデミアの上澄みお嬢様勢。
マナー講座対決。
まずはテーブルマナー勝負において僕側の圧勝だ。
「何が圧勝ですか!? あんなのズルのズルズルですわ! 私たちが知らない料理を出してきた時点でおかしいのよ!!」
地上の流儀に合わせると同意したのはそちらではないですか。
こっちの出した条件に乗ってきた時点でアナタたちの負けは確定していたんですよ。
紳士の国の人も言っていたじゃないですか『相手の誘いには絶対乗るな』と。
といいうわけで既に大勢は決したのですが、相手が泣きの一回を申し入れてきたので、仕方なしに二回戦を開催します。
「泣いてないわよ!」
ハイハイ。
しかし二回戦目をご所望というからには、こちらも容赦なくさらにハイレベルなマナー勝負を仕掛けさせていただきます。
項目は既に考えてある。
次は……。
「歩き方マナーだ!!」
「あるきかたッ!」
そう、右脚を前に……左脚を前に……の歩き方だ。
そんなん誰でもいつでもやってることでしょう? と思って侮るなかれ。
歩き方ひとつでひとの印象は大きく変わるものです。
一例を挙げれば背筋をピンと伸ばして歩いているか、それともぐんにょり曲げて歩いているか。
それだけでも見え方は全然違う。
もちろん背筋だけではない。
足運び、歩行速度、目線の向き。
それらが総合されてパーティ会場でも注目させる“美しい足運び”が実現されるのだ。
だからマナー講座でも歩き方が重要視されるのは当然のこと。
しかし。
その歩き方の指導がマーメイドウィッチアカデミアではまるでできていないと見た。
何故かって?
それはもちろん、人魚には脚がないからです!!
「ぐぬぅううッ!!」
精神ダメージ四〇〇ポイント!
『脚なんて飾りですよ』とはなりません!
そもそも人魚は『上半身人』『下半身魚』というデザインですが、それゆえに足がない。
つまりは歩行できない。
さすればマナーに則った美しい歩法も習得できない!
サカサマヨコシマ八方塞がりというわけだ!
え? だったら歩法を美しく努めること自体不要じゃないかって?
たしかにそうでした。
かつてまでは。
しかし今の時代は便利になって、人魚が完全な人の姿に変身できるようになりました。
陸人化薬によって。
どっかの天才が開発したこの魔法薬によって、人魚は海と陸とを自由に行き来できるようになったのです。
地上に上がりたい時は陸人化薬を飲んで人間の総身になり、海に戻りたい時は解除薬を飲んで人魚の姿になる。
陸人化薬は、地上の人々との親交に不可欠なものであり、アロワナおじさんを始め多くの重役人魚がこの薬を用いて地上へ上がり、魔国人間国などを表敬訪問しているのです。
ここ、マーメイドウィッチアカデミアで学ぶような淑女人魚たちも、きっと将来様々な式典パーティに出席することになるでしょう。
国交が活発になってきた昨今なら、地用より招かれることもあるだろう。
そうなったとききっとキミたちは陸人化薬を飲み、人魚の尾びれを二本の脚に変えて陸へ上がるはずだ。
そんな時になって……ガニ股の歩き方だったりしたらどうなる?
人魚国のレディはあんなものなのかと世界中から失望されることになるぞ!
「ぐぬッ、ぐはあああああああああッッ!?」
効いたッ。
精神ダメージ一万二〇〇〇ポイント!
「た、たしかにアナタの言う通りだわ、尾びれを翻す優雅で美しい泳ぎ方なら授業で習っているのに……!」
さすがのマーメイドウィッチアカデミアも時代の目まぐるしさに付いていけていない模様ですなあ。
「私、そもそも陸人化薬を飲んで変身したことすらないわ」「いまだに陸へ上がるのは一部のお偉い様だけですし……」「陸って怖いわ、オバケがいらっしゃるんでしょう」「オバケの王様とかいるという噂だわ」
一気に箱入りお嬢様トークと化してしまった。
そうか、今もそれほど陸人化薬は流行っていないんだな。
さてどうかな乙女人魚たち?
キミたちにとって全く未知の領域、そしてゆくゆくは重要になっていくだろう項目でマナー勝負をしてみるかな?
「……くッ、いいでしょう。勝負に背を向けるなどマーメイドウィッチアカデミアの生徒にあるまじき無作法ですわ。受けて立ってみせます!」
リーダー格のシュリンプさんが高らかに言う。
偉い人ほど無謀な勝負には突っかからないものだと思うけれど。
「歩き方は習っておらずとも、淑女人魚に相応しい優雅な泳ぎ方は推骨の髄まで叩き込まれております! 歩き方と泳ぎ方、きっと通じるところがありますわ!」
「そうですわシュリンプ様!」「シュリンプ様ならぶっつけ本番で何とでもなりますわ!」
周囲も無責任に囃し立てている。
いいのかな、本当にそれで?
「……で、受けて立つことにしても問題が一つあってよ」
問題?
何です?
「陸人化薬はどこから用意するの?」
ん? それぐらいどこかの薬局で購入してくれば……道具屋でもいいか?
というとお嬢様ズから露骨に呆れられた。
「アナタねえ。貴重な陸人化薬がその辺で売られているわけないじゃない」
「そうよ、陸人化薬は腕利き魔法薬師でしか調合できない上に、悪用の危険性もあるから取り扱いはチョー厳重になっているのよ」
「値段も法外だから、私たちのお小遣いぐらいじゃ変えないわ」
そうなんですか!?
農場では母さんがホイホイ作っていたからてっきり気軽に入手できるものかと。
じゃあ、どうする?
カープ学園長に言えば貰えるのかな?
「……私、作れるわよ」
へッ?
振り向くとそこにはドミノクラウンさんが、控えめに手を上げていた。
「だから陸人化薬作れる……っていうか持ち合わせもあるわよ」
なんで!?
どうして!?
「どうしてって……これがないとウェーゴの活動に参加できないじゃない。イエローテイルとか他の人魚メンバーにも必要だから私が調合して作ってやらないと供給がおいつかないのよ」
「何言ってますのドミノクラウンさん!? そもそも陸人化薬のレシピはどこで手に入れてきたと言いますの? まさか独自に開発……!?」
お嬢様たちが震える声でツッコミを入れるため、ドミノクラウンさんはこともなげに言った。
「レシピは、エヌ様から授けていただいたわ」
弟ぉ!!
何やってんだノリト!?
「エヌ様は、大抵の魔法薬のレシピは頭の中に入っていて、その中のいくつかは信頼ある人魚族のメンバーに伝授してくださるのよ。陸人化薬なんて重要な魔法薬の製造を任せてくださるなんて、ウェーゴのメンバーとしてとても名誉だわ」
なんでウチの弟はそんなに魔法薬について詳しいんだ!?
「お母様の研究ノートを盗み見たとおっしゃっているわ」
母さんのノートなら、そりゃ有益危険の宝庫だろうな。
いや……それって機密漏洩なんでは?
母さん自身は知っているのかそれ? 多分知らなそう。
「エヌ様はパラパラとページをめくるのを見ただけで瞬間的にすべてを記憶できる特技をお持ちなのよ。その技でお母様の研究データをまるっと秘かに持ち出せたというわ」
やっぱ無断じゃねーかテメエ。
絶対母さんに言いつけてやろう。
「エヌ様は、この特技を『パラ見しあ』と名付けたらしいわ」
また差し障りのあるネーミングをするな。
ととと、……とにかくドミノクラウンさんにお任せしたら陸人化薬は手に入るんだな!?
何とタイムリー、ではお願いいたします!
「お代はこのようになっているわ」
お金とるんですかッ!?
「当たり前じゃない。働きには相応の対価が求められる。ウェーゴの鉄則よ。そもそも陸人化薬は貴重品だって、そこのお嬢様どもも言ってたじゃない。材料費だってかかるのよ。これらの陸人化薬はウェーゴの運営資金で作製されてるんだから、なおさらタダでくれてやるわけにはいかないのよ」
考えのしっかりしているお嬢さんだ……!
やっぱ校外で活動していると、こうした社会的な考え方が身につくのだろうか。
大切だな社会勉強!
てなわけで陸人化薬の費用は僕のポケットマネーからねん出しました。
冒険者として稼いだ資金が僕にはある。
驕るなノリトよ。
兄弟の中で経済活動を行っているのはお前だけだと思うなよ!!






