1435 ジュニアの冒険:白い珊瑚の宝玉
本年初更新です。
今年も異世界農場をよろしくお願いします。
これは、お嬢様方にお出しするための料理を作っている時のこと。in家庭科室。
「助けてもらったなんて思っていないわ」
背後からドミノクラウンさんに言われる。
「あんな世間知らずの小娘ぐらい、私一人でどうとでもいなせたわ。どうせアイツらが粋がれるのは、身分と校則で守られたマーメイドウィッチアカデミアの中だけ」
まあ、言われてみればその通りだ。
さらに言えば彼女と僕がキャンキャン言い合っていたことが、お嬢様たちに付け入られる好きになったと考えれば、僕さえいなければ余計な迷惑を被らなかったともいえる。
だから僕が恩に着せる謂れも全然ないのだ。
「私にはエヌ様や仲間たちがいる、私が本当に耐えられなかったら彼らはこんな海の底にでも助けに来てくれて、相手が人魚国全体であろうとも臆さず戦う。でも実際そうなっていないのは、この程度のトラブル私一人で何とかできると、皆が私を信じてくれているから。アナタがしたことは大きなお世話よ」
「ハイ……」
「でも、事実には助けられたこといなるからお礼だけは言っておくわ」
それだけ言ってドミノクラウンさんは去っていった。
……ノリトとその仲間の絆、ビビるほど固い。
なんなのアイツら、素直に怖い。
いつかまたコイツらと再戦することになるのかなノリトが僕をライバル視している限り。
その日が来るのがすごく怖いんだけれど今は料理に集中しよう。
もうすぐできるぞ。
ドンッ。
* * *
「たこ焼きだ!」
お皿に並べられたホカホカの球体。
その上からドロリと黒いソース、青のりをかけてお好みでマヨネーズ。
さらに紅しょうがを載せた究極完成形。
そのタコ焼きを前にして、お嬢様軍団は固まった。
「な、なんですのコレ……!?」
「どんなお料理か皆目見当がつきませんわ!?」
「陸人は、本当にこんなものを日夜食べていますの?」
たこ焼きは、リーダー格のシュリンプさん始め取り巻きお嬢様たちにも行き渡っているので、全員が戦慄によって硬直していた。
さあ、このたこ焼きをマナーに則って、優雅に洗練された食べ方で平らげてもらいましょうか。
「これは……これは……!?」
リーダー格のシュリンプさんも、未知の料理を前にして困惑する。
ナイフとフォークを持った手を微動だにすることもできない。
そうだろう、だってマナーに則ったたこ焼きの食べ方なんて存在しないんだから。
たこ焼きなんて自宅でわいわいしながら食べるのが美味しいパーティーメニュー。それをナイフは外からだの、音を立てるなだの肩肘張って美味く食べられるはずがない。
備え付けの串で突き刺して食べるのが一番美味しいのさ!
しかしそれを……そもそもたこ焼きという料理の存在自体知らなかった彼女らが気づけるはずもない。
八方塞がりの状況なのだよ!
「うわぁ……鬼畜……!」
後方から見守っているドミノクラウンさんが呆れているが、こちらは全然恥じるところはない。
そもそも勝負の概要をじっくり吟味することもなく軽率に乗った、彼女らが悪いのだから。
勝負とはリングに上がる前から始まっている。
相手が万全の細工を施したリングに踏み込んでしまったのは、間違いなく彼女らの落ち度なんだ。
その結果としての敗北は受け入れねば。
しかしお嬢様たちは、自分たちが既にジリ貧へと追い込まれていることに気づいてすらいない。
「シュリンプ様、これは……」
「慌ててはダメよ、マーメイドウィッチアカデミアの人魚乙女は慌てないのよ」
とまだ勝ち筋を探っておられる。
「……小さく分けられた料理、これは切り分ける必要はないわね。だったらナイフも不用。……フフフ、危うく騙されるところだったわ。この程度のペテンに上流人魚乙女の私が引っかかるなどと、目論見が甘いわね。これは量的にもメインディッシュにはなりえない前菜の料理。さすれば気軽に、リーズナブルに、フォークで突き刺して口に運ぶのが正解と見た! ふぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
シュリンプさん、もはや勢いに任せてたこ焼きの一つにフォークを突き刺す。
上手いこと中身のタコを貫いたようだ。そうすれば刺し具合は安定して途中でずり落ちていくこともない。
そしてそのまま……。
口に入れた……!!
「あっづづづづぅうううううううううううううううううううううううううううううッッ!?!?!?!?!?!?」
「「「「「「シュリンプ様ぁああああああッッ!?」」」」」」
まあ、アツアツのタコ焼きをふーふーもせず口の中に放り込めばそうなる。
しかも一個丸々。
熱さに口内が耐えきれないだろう。
せめて細かく切り分ければ表面積も増えて空気に触れる部分も広がり、早めに適温に冷めるだろうに。
考えを巡らせ、セオリーに乗っかろうとしたことが却って仇となったな。
口内を火傷する前にこの水を飲みなさい!
「ゴグッ、ゴグッ、ゴグゴグゴグゴグゴグゴグ……プハァッ!!」
「シュリンプ様があんなに慌てふためいて……、必死の形相で……」「優雅さの欠片もありませんわ……」
まあ口の中に灼熱の塊を放り込まれたら、そりゃあ優雅ではいられないでしょうがね。
幾たびかむせ返って、やっと落ち着きを取り戻したシュリンプさんが言う。
「……アナタ、卑怯よ!」
へえ、何が?
「こんなアツアツな食べ物を出してきて、落ち着いて食べられるはずがないじゃない! これは料理の暑さに悶絶する私を嘲笑おうという策略でしょう! 庶民らしい浅はかな考えだわ!」
「そうよそうよ!」「騙し打ちよ!」「卑怯卑怯! 表裏ヒキョーの者だわ!!」
とお嬢様チームからブーイングの嵐。
しかし言いがかりですな。
熱さに悶絶したくなければやりようはいくらでもある。先ほど言ったように細かく切り分けるなどな。
出来立てアツアツのたこ焼きを一個丸ごと放り込むなんて自爆としか思えない。
認めるしかないな。
キミは自爆したんだ。
「そんな認められないわ! ああする以外にあの料理を美味しく食べる手段は……!」
そこへ……。
ドミノクラウンさんがたこ焼きを皿にのせてやってきた。
まだソースをかけていない真っ白なたこ焼き。
それを、小鉢で別に溜めておいた出汁の中に……ドボン!
こ、これは……!
明石焼き!?
たこ焼きをソースではなく、昆布あるいはカツオのだし汁につけて食すものッ!?
「出汁で適温まで冷ませば、丸ごと口に入れても問題ない」
出汁の温冷はお好みで選んでください!!
というかドミノクラウンさんッ、まさか明石焼きを実践するとは……。
一体どこでやり方を知って……!?
「エヌ様から教わったわ」
だよなあ。
情報源ノリトぐらいしか思い浮かばんよなあ。
「ウェーゴでタコパしている時に、味変の一つとしてエヌ様がご教授くださったの。あそこのアホ嬢様みたいに猫舌でアツアツ食べれない人とか、あっさり味が好みの人には好評だったわ」
「誰がアホ嬢様ですって!?」
まあたしかに口内の熱さに悶絶転げまわる様はアホのようではあるが。
しかしノリトめ……タコパの変化球として明石焼きを用意してくるとはさすがは我が弟。
こちらもしっかり能力を磨いておかなければ、油断していると足元を掬われる……!
未来のことは一度置いておくとして、今は目前のことをスッパリ片付けるか。
「さあ、いかがでしょうか。今の一連の流れは果たして上流人魚に相応しいものだったでしょうか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」
見事たこ焼きに翻弄された哀れな乙女よ。
世間の広さを知れたかな?
「まだよ、まだだわ!」
しかしお嬢様は挫けない。折れない、止めない、諦めない。
「こんな一事だけでマーメイドウィッチアカデミアの教育が計りきれると思ったら大間違いよ! 次の勝負で大逆転して見せるわ!」
「さすがシュリンプ様!」「決して折れない心が素晴らしい!」
周囲からの歓声を受けて自己肯定感を回復させていく。
あの取り巻きにそういうバフ効果があったとは。
仕方がない、それでは第二回戦と洒落込もうではないですか!






