1434 ジュニアの冒険:お嬢様の襲来
「と、とにかく……!」
僕とドミノクラウンさんが互いに消耗して言い淀んだのを好機と、口を挟むお嬢様人魚。
その会話の流れを読む上手さは、育ちのよさを窺わせる。
「ここ最近マーメイドウィッチアカデミアのキャンパス内で噂になっていますのよ。陸人の用務員が働いていると」
きゃん、ぱす……?
「わたくしたちのような箱入り娘にとって陸人というのは、どうしても遥か遠いもの。一度も見たことがないという方もおりますわ。だから機会があるなら一目見ておきたくなるものです」
そうなの? とドミノクラウンさんに尋ねる。
「そうでもないわよ。ここ最近は観光客もよく訪れるし、位の高い家の子ほどパーティとかで見かけることもあるはずよ。この歳まで一度も陸人を見たことがないなんて、それこそ社交を断ってるか、絶対外に出されない鋼鉄の箱入り娘ぐらいよ」
そして人種問わない秘密組織に参加している女子学生もいるしね、目の前に。
……えッ、じゃあこの目の前のお嬢様しょうもないウソをついているってこと?
一体何故そのようなことを?
あッ、そうか学園内で噂になっている地上人用務員を一目見てみたいが、野次馬根性だと思われるのははしたない。
そこでもっともらしい理由をつけたってことか。
「ちょっと! あてずっぽうの推測で決めつけないでくださる!」
お嬢様が吠えた。
この用務員の前に詰めかけたお嬢様たち。この一団は一名のリーダー格を中心として構成されているようだ。
そしてその中核お嬢様が、先ほどシュリンプと呼ばれていた縦ロール人魚……。
「シュリンプさんは、現況マーメイドウィッチアカデミアでトップクラスのお嬢様よ」
ドミノクラウンさんが秘かに耳打ちしてくる。
「人魚国の中でも五本ヒレに入るぐらいの高位貴族の娘で、アレに勝てる家格といったらもう王族ぐらいしかいないわ。そして今在校生に王族はいないから彼女が一番位が高いの」
ほうほう?
「その上で成績もいいから完全に生徒たちを掌握していてね。学園の女王と言っても過言じゃないわ。今、マーメイドウィッチアカデミアでシュリンプさんに逆らえる生徒はいない。敵とみなされたら全生徒から無視されて孤立無援よ。この私のように」
アナタが村八分くらっとるんやんけ!?
大丈夫? 先生に相談した!?
「大丈夫よ、私にはエヌ様とウェーゴの仲間たちがいるのだから!」
弟の作った秘密組織がマジで一人の少女の心を救っていた。
もしかしたら他の農場六聖拳のメンバーもそうなんだろうか。その可能性が濃厚だな。
……コラ、そこのお嬢様! ドミノクラウンさんを仲間外れにするなよ!
「アナタに言われる筋合いはなくてよ?」
「そうよ、そもそもシュリンプ様主催のお茶会に参加しないのが悪いんじゃなくて! せっかくシュリンプ様直々の招待状を渡されたのに!」
本人は騒がずに周囲の取り巻きたちが騒ぎ出した。
「いや、参加はしたけど最初の一回……」
「一回だけでしょう! お茶会は週三回開かれてるんだから参加するのはマーメイドウィッチアカデミア学生の義務よ!」
週三って……。
ただでさえウェーゴの幹部として活動慌ただしいのにドミノクラウンさんにそんな余裕あるのか?
「まあ、いいではありませんの。参加するしないは当人の自由ですわ」
取り巻きを抑える様子のシュリンプさんとやら。
しかし演劇めいた全体によるベクトルを感じる。
「ドミノクラウンさん、アナタには自由意思がおありですものね。その自由意思で、わたくしの好意を拒絶した。……ただそれだけのことですわ」
……怖い。
これが女子校のグループ争い。
彼女らにとって友だちではなら敵以外はあり得ないのか。
「そんなアナタと、この用務員が知り合いというのは驚きでした。やはり社交を疎かにする人は、下賤な方々との面識が広いのですね」
言い方ぁ。
うーん、恐らくこの子たちも僕(地上人)が珍しくて見物に来ただけなのに、そこへドミノクラウンさんがテンポよく会話しているものだから、絶好の絡みどころと踏んだわけか。
だとしたら、ドミノクラウンさんにいい迷惑をかけているのは僕の落ち度ということになるな。
ここはその穴埋めをしておかなければ、弟の友だちに申し訳がたたない。
「お言葉ながら」
ズイと踏み出す僕。
そして調度、向こうからドミノクラウンさんを遮るような位置に立つ。
「そんな風にネチネチと批判するのがマーメイドウィッチアカデミアの……いや人魚族の作法なんですか? だとしたら幻滅だな」
「なんですって?」
たかが一用務員から反論されるとも思っていなかったお嬢様軍団。一斉に騒ぎ出す。
「なんですのコイツ! 用務員の分際で!」
「目の前にいる御方がどれだけ高貴かわかていませんの!」
「学園長に抗議してクビにしていただきましょう!」
「そうですわ! 私たちを侮ったこと後悔させてやるんですわ!」
口々に騒ぎ立てる周囲とは裏腹に、中心の一人だけは静かに無言だった。
彼女、自分は率先することなく周りに騒がせて威圧するのが手口だな。
みずからの手を汚さない……いかにもお嬢様なタイプ。
ならば、こっちも攻め方を調節しましょうか。
「そんなにいいとこのお嬢様なら、さぞかし振る舞いもいいんでしょうね」
「どういうことかしら?」
僕の挑発めいた呼びかけに相手は乗ってきた。
自分こそが世界でもっとも高貴と思って自信満々だからこそ、一庶民からの挑発に黙ってはいられないのだ。
「貴族は、ただ地位とお金があれば偉いんじゃないでしょう? 他にもたくさんの必要なものがアナタ自身に備わっていなければいけない。たとえば品位とか、礼節とか」
あと情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さとか……。
売り言葉に買い言葉で、シュリンプお嬢様が直接応える。
「随分と無礼な物言いをしてきますのね。わたくしにそれらが足りない、とでも言いたいのかしら?」
「ご学友にネチネチ絡んでくるご気性を見たら、ひょっとしてそうかもと思いまして」
国内屈指のお嬢様学校で、何の変哲もない一職員が、生徒とはいえ最高ランクのお家お娘に暴言吐いたら即刻自主的でない自主退職ものだろう。
そんな状況で迷いもなく突き進むからこそ、こちらの異様さが伝わるというものだ。
「ぐッ……」
「なんなんですのコイツ……!?」
取り巻きお嬢様まで圧倒されて、息詰まっている。
よし、流れは僕が掴んでいるな。
このまま思った通りの展開へ押し流させてもらう。
「そこで、確認させていただけませんか? 高貴なお嬢様の、高貴なお嬢様たる確証をね」
「陸人というのは大それた方ですのね? その発言、自分の立場を危うくするものと理解しているのかしら?」
おお、リーダーお嬢様はこっちを脅し返すほどの余力があるのか。伊達に威張り散らしているわけじゃなさそうだ。
「もちろん、僕の主張が間違っていたと証明されれば、その落とし前としてこの学園から去りましょう」
最初から用務員として働くのは一時的なものなので実質ダメージはない。
どっちに転んでも損がない展開にもっていく、抜け目のない僕。
「よろしいでしょう、稚魚にも五分の魂と申しますわ。みずからの進退もいとわぬ志に免じて、その勝負受けて差し上げます」
「さすがシュリンプ様、強者の貫録ですわ!」
きゃあきゃあと騒ぎ立てる取り巻きたち。
その一方で僕は、獲物が罠にかかったことを確認した狩人の笑みを浮かべ、さらにその一方でドミノクラウンさんが『あー、型にハマったわ』と諦観の表情を浮かべた。
さすがノリトの舎弟さんは理解が早い。
「それで、どのような勝負を仕掛けてくださるのかしら? 陸人の思いつくことは不慣れですから楽しみでもありますわ」
ハイ、人魚族のお嬢様にどれだけの礼儀作法が備わって確認させていただきます。
マーメイドウィッチアカデミアでトップクラスの生徒と言えば、自国だけでなく他国のマナーにも精通していることでしょう。
国際化が謳われる昨今、他国との交流も上流階級に課せられたマナーですからね。
なので、このような試みはいかがでしょう。
これから地上で流行りの料理を出しますので、それをマナー的に百点満点の方法で食せるか。
それを一流の意お嬢様方にチャレンジしていただくのです。
「まあ、それは面白そうね」
お嬢様は乗ってきた。
「いいでしょう、マーメイドウィッチアカデミアの生徒たるもの、礼儀作法も世界に通用するものでなくてはいけません。それを実証して御覧にいれますわ。それに陸の流行りの料理というものも興味がありますわ。わたくしたち上流人魚の口に合うものかどうか、こちらが逆に試してもよくてよ?」
「シュリンプ様、素敵ですわ!」「その高貴さで愚かな陸人を跪かせてくださいませ!!」
威勢のいいことで。
しかしあまりに突飛な料理では人魚お嬢様たちも面食らうでしょうから、ここは海の幸を使用した料理に限定しましょう。
自分たちに馴染みのある食材なら料理と実感できるでしょうし、それを正しくマナーに沿って食べられなかったとなると敗北感も増すでしょうからね。
では料理を用意しましょう。
出てくるのは……。
……たこ焼きです!
年内の更新はここまでです。
今年も異世界農場にお付き合いいただきありがとうございました。
来年も是非ともよろしくお願いいたします。






