1433 ジュニアの冒険:六聖拳再び
僕ジュニア、現在マーメイドウィッチアカデミアで用務員生活を満喫中。
身分を偽っての秘密見学という体で。
しかし何故だろう?
女生徒からの注目がやけに集まっているのは?
「あれが……ヒソヒソ……」
「新人らしいわ……ヒソヒソ……」
「人魚王だって殴ってやらあ……ヒソヒソ……」
通りすがりにチラチラ視線が送られてくるのはまだいい。
中には僕が仕事していると、明らかにこっちへ向かって近づいてきて、一定までで接近したらキャーキャー言って走り去っていくのは明らかに僕を目当てに来ているのか?
何故?
いくら人魚国で、地上人の用務員がいるからってそこまで珍しがるものではないだろう?
ホントにわけがわからない。
「あッ、アナタは……!?」
んッ?
今度現れたマーメイドウィッチアカデミアの女生徒は、僕が気づいても走り去ることなく間近で立ち尽くしていた。
しかも震える指先をこっちに差して。
なんですか、ヒトを指さしちゃいけないって学校で習わなかったのですか?
そう思って顔をよく見返すと、僕もまた驚き固まった。
その見覚えのある顔に。
そりゃ父親経由の縁で色んなところに顔見知りのいる僕だけれど、さすがに女子校生の知り合いはいないだろうとタカを括っていた。
そんな自分の認識は甘かった。
「キミは……あの、ええと……なんだっけ……!?」
その見覚えのある顔に!
「いまいち思い出せてないじゃないのよ」
いや、誰かはわかるんだ!
ノリトの友だちでしょう!?
農場六聖拳とか言って、ヤツのアジトで一度戦った……!
「そう! 私こそエヌ様の忠実な部下! 秘密組織ウェーゴ最高幹部の一人、農場六聖拳のドミノクラウンよ!」
ビシシッ、とポーズを決める人魚女子校生。
しかしそれも淑やかなマーメイドウィッチアカデミアの制服に身を包んでのことなのでいまいち圧倒感がない。
しかし、意外なところで意外な人物に出会うものだ。
人脈ツリーが、父親ルート以外のところからも着実に伸びつつある。
人魚族であることは初遭遇の時から察せていたが、まさか名門マーメイドウィッチアカデミアの生徒であったとは。
「フッ、意外だったかしら? 私のようながさつな根暗女がお嬢様学校にいるなんて……!?」
いや、そこまでは言っていない。
「私だって好きで名門貴族の家に生まれてきたわけじゃないわ。しかし人魚族の一定以上の家柄で女に生まれればマーメイドウィッチアカデミアに入学することは避けて通れない道なのよ。どんなに性に合っていなくてもね」
まあたしかに。
彼女の印象は、最初に戦った時のことも含めて“深窓の令嬢”には程遠いが……?
「それでも全部をぶち壊して退学届叩きつけるようなプラティ様みたいなマネができるほど、剛毅でもない。強さも弱さも中途半端な私は、悶々とこの学生時代を凌いでいくしかない、そう思った時だったわエヌ様と出会ったのは!!」
ノリトか……!
アイツどこでも出会わされてるな。
「息苦しさを我慢するだけの私はその時終わった! あの方は、私が自由に振る舞える環境と、私を強くする術を用意してくださった! それでいてあの御方は少しも恩に着せる風もない! まさしくあの御方こそ我が主に相応しい! あの御方のためなら人魚王だって殴って見せるわ!」
全体的に流行ってるのそのフレーズ?
やめて、弟のためにアロワナおじさん殴らないで。アイツにとっても伯父なんです。
というかノリトの人脈ネットワークどうなってるんだ?
魔国もそうだが人魚国にまで広がっているし敬愛のされ方がハンパではない。
こうして世界中を旅している僕よりも、世界中の人脈構築に着手している弟嫌だなぁと素直に思った。
「それで話が逸れちゃったけれど、アナタこそここで何をしているわけ? 陸人が用務員勤めているなんて、人魚の私がここにいるより異常じゃない?」
それを言われるとまったくその通りなのですが。
致し方ない、既に面の割れている彼女ことドミノクラウンさんには隠し通せないということで、ここまでの経緯をかいつまんで説明することにした。
……他の人たちにはまだ内緒だよ?
「なるほどアナタも酔狂なことをなさるわね。そういう一見意味のわからないことをするのはエヌ様の兄ってところかしら?」
やめてください!
あの弟との共通点を見つけ出すのは!
僕はアイツよりも常識的なつもりですよ!
あ、ところでせっかくだから聞きたいんだけれども。
僕がさっきから注目されているのはどうしてだか、ドミノクラウンさんの視点から見てわかります?
たしかに地上人がマーメイドウィッチアカデミアで用務員やっているのは珍しいだろうが、それだけでここまで注目が集まるとは思えないんですよね。
「……やれやれだわ、これだから特別な人種はムカつくというものよ」
なんです!?
ヒトをそんな『オレ何かやりました?』系人種みたいな扱い方して!?
「まあたしかに人魚国で陸人がいたら珍しいでしょうよ。しかしそれ以上にアナタが、注目を受けるのは……。アナタがイケメンだからよ!!」
な、何!?
ラーメンつけ麺、僕イケメン!?
「アナタのそのプラティ様譲りの甘いマスクで学園内を闊歩してたら、年頃の乙女どもが小魚のごとく群がってくるに決まっているでしょう! ここは乙女率100%の純粋空間なのよ! そこにイケメン一人放り込むなんてピラニアの水槽にブロック肉投げ込むようなものでしょう!」
怖い例えやめて。
しかし待て、僕そんなにハンサムである自覚ないんですが。顔つきだって父さん似のそこまで抑揚のないフツメンだとばかり思っていたけれど。
ちょっと想像力を働かせて、僕の心の中の父さんに尋ねてみよう。
父さん、僕はそんなにハンサムなのか?
用務員やってて、そんなに目立つものなのか?
父さん……。
――『チンピラ役のキムタクみたいになってるじゃん』
「父さんッ!?」
「うわビックリしたッ。急に大声出さないでよ」
すみませんッ、イマジナリー父さんの発言が衝撃だったもので。
「心の中の会話でエキサイトしないでよ。まったくそういうところはエヌ様とは違うわね。あの方は断然クールよ」
やめて、あの弟と比較しないで!
兄より優れた弟はいないんですよ!!
と、ドミノクラウンさんとの言い合いがいよいよ怪しくなってきた時……。
「……ちょっとよろしくて?」
また違う人たちから声をかけられた。
やはりマーメイドウィッチアカデミアの女学生で、しかも一団だった。
五~七人程度の女子群で、『あッ、これはお嬢様』と見た目からしてわかる一団だった。
皆、まつ毛バツバツだし髪の毛縦ロールだ。
「うッ、シュリンプ様……!?」
一目見た途端ドミノクラウンさんが委縮する。
どういう関係性だ。
「めずらしいですわね、いつも教室では静かなアナタがこんなに元気にはしゃいでいるなんて」
「いえ、……別に、そんなことは……」
「男の人の前だとそうなのかしら? だとしたらたしかにマーメイドウィッチアカデミアではお目にかかれないシーンですわね」
なんだろう、この……。
優等生が劣等生に詰め寄る……あるいはスクールカースト上位が下位に絡んでくるような。
学校でしか見られなさそうな独特の雰囲気。
ただドミノクラウンさんピンチの巻というのは見ていて間違いない。
弟の大切な友人が困っているところを見過ごしては男がすたる。義を見てせざるはYOUなきなり!
「違います! 彼女は……!」
まず僕との関係性を明確にしなければ。
やましいところなど何一つないと。
「彼女は僕の弟の彼女です!」
「このバカぁああああああああああッッ!!」
ぶん殴られる僕!
グーでもらった、女の子から!?
なんですか僕、女の子がグーパンで殴ってくるほどやらかしましたか!?
「何てこと言い出すのよアナタは!! 私と……エヌ様がそんな仲だとは恐れ多い! あの御方はもっと孤高で気高く、色恋とはもっとも遠いところにいるのよ!!」
そんな、じゃあノリトは一生彼女なし?
いくらノリトだからってそれは悲しすぎるんじゃ……?
「そそそそそ、そんなことないわよ! あの御方ほどの魅力と人徳があれば、そのうち相応しい最高のお相手が見つかることでしょうよ、アナタと違ってね!」
それはそれで酷くない僕に対して!
「なんなのよ……この人たち……?」
僕らがギャーギャー騒ぎ合う傍らで、当初やってきたお嬢様人魚たちが困惑の顔になっていた。






