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142 ファッション革命

 バティにミシンをプレゼントしてから数日後。


 たった数日で我が農場が急に華やかになった……、気がする。

 その理由は何だろう、と念入りに観察してみると、わかった。


 住人たちが、それぞれにファッショナブルになっておる!


「プラティ……、その格好は……!?」


 まずは農場最古参にして我が妻プラティが、動きやすそうな服を着ていた。

 下半身などピッチリとタイトで尻から太ももにかけてのラインがくっきり浮き出ている。


「これ? バティがアタシ用だって作ってくれたのよ。フフ、似合う?」


 女性というのは綺麗な服を着ると盛り上がるらしく、プラティも御多分に漏れず、俺に向かってポーズを決めた。


 まだ、この農場が荒野の開拓地だった時代。

 その初期を共に過ごしたプラティは、人魚ゆえに人間に変身して下半身スッポンポンだったのを、俺のズボンを無理やり穿かせることで破滅を防いだ。


 あの時プラティは、人間国の一般階級で流通する麻ズボンを「ダサいから穿きたくない!」と散々ゴネたものが、結局は俺に従って我慢してくれたものだ。


 そんなプラティが今やファッション性たっぷりなタイトズボンを着こなして、お尻プリップリにしている。

 当時のナイナイ尽くしだった頃からここまで来れたかと、感動で涙がこぼれるぜ。


「……や、やだ! いくら自分の奥さんが綺麗だからって泣くほど喜ばなくてもいいじゃない……!」


 プラティは勘違いしていたが、強いて訂正する類のものでもないので勘違いさせておいた。

 彼女は一日上機嫌だった。


              *    *    *


 ……という風に唐突なドレスアップを果たしたのは、プラティだけではない。


 ちょうどダンジョンへ狩りにいく一団を見かけたので寄ってみると、完全な討伐騎士団だった。

 装備が壮麗。


「おっ、聖者様」

「聖者様! 見送り恐れ入ります!」


 ダンジョンに向かうのは、エルフとモンスターたちの混成編成だった。


 まずエルフだが、弓矢での中遠距離メインで戦う彼女たちは基本軽装なれど、今回着ている革鎧が凄く綺麗。


「バティさんが新調してくれたレザーアーマーです!!」


 モンスターから剥いだ皮をなめして革に変えるのはエルフたちの仕事だが、それを素材に着るものを作り出すのは被服担当バティの仕事だ。

 しかし鎧まで作成しているとは。


「エルフは素早さが命だから重い鎧なんて論外なんですけど、バティさんの鎧は問題ないぐらい軽いです!」

「可動部分も研究されて弓引くのにまったく邪魔にならないし! その上で防御力も高い! 匠の技です!」


 と大好評だ。

 バティ謹製という革鎧は、機能性もさることながらデザインも洗練されて、ファッション職人であるバティのこだわりが見て取れる。

 素早さ重視の軽装化を言いわけにして、鎧ながら意外な部分が大胆に開いており、思わぬ隙間から垣間見えるエルフたちの脇やら、太ももやらの素肌……。


「…………」


 いかんいかん。


 エルフたちの他に目についたのが、人魚族のランプアイ。

 人魚国で近衛兵をしていた彼女は、その経歴ゆえか他の人魚のように醸造蔵に篭らず、ダンジョン探索に出ることが多い。


 エルフたちよりやや重装の鎧を着ているものの、これもバティ製?


「聖者様、これを見てください」


 何やら新しいオモチャでも自慢するようなはしゃぎぶり。

 ランプアイはみずからの左腕を示したが、そこに装着されたガントレットはやたらごつくてゴテゴテしていた。


「見ていてくださいね……!」


 ランプアイは、その手甲を何もない広い場所に向けると、右手で左の手首を掴み、スイッチを入れるような動作を。

 すると手甲の隙間から、猛然と炎が噴き出した!?


「火炎放射器ッ!?」

「ガントレットの内側に、爆炎魔法薬を噴射する仕組みを組み込んであるのです!」


 これもバティの独創性なの!?

 もうファッションの型から飛び出してない!?


 そして極め付けがやって来た。


 今回のダンジョン攻略班を率いるオークのリーダー、オークボ。


 こないだゾス・サイラから贈ってもらった重装甲ホムンクルス馬に跨り、マナメタルの斧を携えた彼は……。

 凄く豪勢な鎧装束だった。


「あれも、バティが作ったの……!?」


 なんでもアリではないか。

 名馬、轟斧ときて、華美な鎧まで着けたら、完全にどこからどう見てもただの将軍じゃないか!


 ただダンジョンに行って適当にモンスター狩って帰ってくるだけの一団が、遠征軍みたいな堂々たる雰囲気を出してるのはコイツのせいだよ!

 オークボが将軍の風格ありすぎるよ!

 どこの国を攻め落としてくるつもりだ!?


「……我が君みずからのお見送り、恐悦の極み」


 なんか口調まで厳かになってるよ。


「最大の成果を、土産に持ち帰りましょう」


 だからただダンジョンに狩りにいくだけでしょう!? 『蛮国を征服し、新領土を国王に捧げます』みたいな調子で言われても!?


 あ、わかった!


 オークボ、鎧に着られてる!

 周りの雰囲気に著しく影響を受けるタイプだったのかコイツ!?


              *    *    *


 こんな風にバティが様々な服を作り出したのは、やはり足踏みミシンの影響が強い。

 ミシンの縫製速度で、作業時間が格段に短縮できた分、空いた時間で自分の趣味全開の服を作れるようになったようだ。


「私、今輝いていますよ!!」


 被服室を訪ねると、バティが快活にミシンを動かしていた。

 実に溌剌な表情だ。


「自分の好きなものを好きなように作るのって、こんなに楽しかったんですね! 久しく忘れていた感覚です!!」


 こないだまでのやさぐれた様子は、量産品の作業着を延々作るストレスによるものだったか。

 独創性を開放できるのはいいことだが。

 だからと言ってあのガントレット型火炎放射器やジェネラルアーマーは被服の枠を超えてると思うけど……。


「これも聖者様がくださったミシンのお陰です! お礼と言っては何ですが、どんどん新しい服を作って農場に貢献していきますよーッ!」


 と宣言する間もダダダダダッ、とミシンを動かし、手が留まる様子がない。

 ミシンで縫ってるということは……。


「今作ってるのは、作業用の量産着?」

「何を仰います! 今縫ってる服は、私の最高傑作になる予定です!!」


 あれ!?

 ミシンというか機械で縫うんじゃ手造りの温もりが感じられないから駄目なんじゃないの!?


「ミシンの方が縫い目が綺麗ですし、品質もあがりますから」


 バティ、速攻でミシンには勝てなかったよ……!

 こうやって機械化の波は、市場を蹂躙していくんだな。


「今縫っているのは、聖者様のための服です!」

「え?」

「農場の主に相応しい豪勢な造りにしますので、期待していてくださいね! 何か隠し機能も付けましょうか!?」


 王様みたいな服が出てきそうで、不安が満載だった。


 バティよ。キミの職人気質は留まるところを知らないんだね……!


             *    *    *


 最後に。

 エルフの革製品製作班の班長、マエルガから直談判があった。


「ウチにもミシンを配備してください」

「えー?」


 バティを見て羨ましくなったんだそうな。


「我が班でも、革製のカバンや袋、ベルト作りで縫製する機会が多いです。ミシンが凄く欲しいです!」

「バティさんばっかりズルいです! 私たちよりここでの暮らしが長いからって、いいものを優先的に!」

「私たちにも恩恵を!」


 他の革造り班員まで一緒になって俺に迫ってくる。


 ……いやでも、あれ作るのけっこう大変なんだよ?

 金属を叩いたり削ったり、ミリ単位の正確さが要求されるし。

 目も疲れて指先も痺れて、しばらくはあの作業に戻りたくないんですけど。


「聖者様ー」


 そこへバティもやって来た。


「お願いがあるんですけど、ミシンもう一個作ってくれませんか? 予備があった方が安心だし、手伝いに来てくれる人の分もあった方がいいですから」


 そんな簡単に言われても!?


 キミらは機械化で作業が楽になるのはいいでしょうけど!

 俺がミシンを作るのは!

 いまだに手作業なんですからね!!

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