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1409 ジュニアの冒険:焼肉鉄板地獄

 開催! 冥界裁判所焼肉大会!


 厳正なる裁きの庭では、肉を焼くジューシーな香りが充満している。


『うんめぇえええええ! やっぱ焼き肉うめえ! 肉ならやっぱりミノタウロスのお肉!』

『ミノミノミノミノミノミノミノ!! やっぱ焼き肉はミノッス!』

『肉汁とタレが絡んだ白米うんめぇえええええッ!』


 と三者三様焼肉に舌鼓の打つ中、一人だけ誰だかわかる独特な鳴き声のヤツいる。


『あの……私たちも……』


 裁決を受ける魂たちまで焼けるお肉にヨダレを垂らす。

 もはや肉体も失って唾液腺すら残っていないというのに。


『おお、最高級のミノタウロス牛……! 死ぬまでに一度は食べたいと思っていたのに……!』

『まさか死んでから食べることになるとは……!』

『あの世いいとこ、一度はおいで……!!』


 大丈夫? こんな生前の総決算が控えてる最中で?

 暴食の罪とか追加されない?


 裁判官自身が率先して貪っているんだから、まあ大丈夫か。


 ……え焼き肉の材料なんてどこから調達したのかって?

 なんか冥界の方々が普通に出してきた。


『以前、聖者から献上された肉を保存しておいた』

『我々では上手く調理できるかわからなかったからな。下手に手を出して台無しになったら大変だ』

『コキュートスで冷凍保存しておいたから品質に問題はナシ!!』


 左様か。


 調理器具一式はその辺の鉱石から僕が『究極の担い手』で作った。


 冥府の裁判は一時休廷し、焼肉パーティのたけなわだ!


『むふぉぉおおおおおおッ!! 美味い美味い美味い美味いうーッ!!』


 ウェルギリウスさんも一心不乱に肉肉野菜肉野菜と掻き込んでいた。


『これ、企画的にもいいんじゃないですか!? 裁判所で焼き肉パーティ。冥府ツアーの目玉になるでしょう!』


 そんなヘルズアイあってたまるか。


 厳正な裁判所で、法廷侮辱罪待ったなしじゃないか。

 いつか本当の意味でこの冥界裁判所の被告席に立つ時のためにも薄めのカルマを保ちたい。


『あー、食った食った。やっぱり一番上手いのはミノッス!』

『ミノスさん、焼肉の時その持ちネタ擦りすぎなんよ』

『バッカスの持ちネタより汎用性低いしな』


 ひとしきり満足してくれたらしい。

 さすがに冷凍保存されたお肉も切れかけていたから助かった。


『私の胃がグレイテストコーション!』

『私の胃もギャラクティカイリュージョン!!』

『私の胃はコズミックマリオネーション!!』


 黙れ。

 焼き肉の美味さで情緒がおかしくなっている。


 この状態で審議再開してトンデモ判決下しそうだからもう少し時間を置いてほしいものだ。

 そして冷静さを取り戻してくれ。


『……やっぱり、この仕事しているとたまには報われたくなるなるよなー』

『神々の中で一番働いてるんじゃと思う時がある』

『そりゃ四八億の個人的な憂鬱を、たった三神で仕分けしていりゃなー』


 神々が愚痴っている。


 そりゃそうか。本神たちも言う通り全人類の魂の行く末を決めるなんて尋常なことじゃない。


 ふと思うが何故全人類なんだ?

 冥界神は魔族を生み出して魔族を守護してるんだから死後の導きも魔族に対してだけやってればいいのでは?


 何故そこに人族と人魚族も入る?


『……』

『……』

『…………』


 途端に無言となる冥界の三長官。

 別に肉の食いすぎで胸焼けしている……とかじゃないよな?


『だって……』

『誰もしないから……』

『じゃあ仕方ねえじゃん……って……!』


 聞いてて思った。

 やっぱり神々の中で一番善良なのは冥界神なんじゃないのかと。


『しかし、分担できるのが三神で本当によかった……!』

『三大種族でキレイに分担できるからなー』

『でも閻魔くんところじゃ同権力の裁判官が十人いるらしいよ?』


 食後の愚痴り大会は続く。


『魔族、人族、人魚族で法も微妙に違うから、それに応じて善悪も変わってくるし。法改正にも対応しないといけないから益々大変……』

『特に人族なんかは国が替わったから法律も作り直しで……。あの時のミノスは大変だったよなあ』

『やめて! もう思い出したくない! 施行された新法が次の日廃止されたの何!?』


 それ多分、人間国の腐敗勢力が改革を邪魔したんじゃないかと。

 リテセウスお兄ちゃんブチギレ案件。


『ホント地上も色々あるよな』

『そう、色々あって、それぞれの人生をまっとうして、ここに来ているんだよ』

『それを誰かが評価してやらないと先に進めないもんなー。ここ冥府で罪を洗い流して徳だけにして来世へ旅立って』

『また徳も罪も積んで死んで生まれ変わってを繰り返して……』

『そうして魂というものは高次化していくのだから』

『そしていつの日か、神を超える』


 ラダマンティス神とアイアコス神とミノス神が、揃って大きく息をついた。


 さらにまったく同時に立ち上がる。


『いい休憩になったな。腹も膨れたし頭の巡りもよくなった!』

『知ってるか? 牛肉を食べると血が濃くなるらしいぞ、知らんけど!』

『知ってるのか知らんのかどっちだ!?』


 冥府の三長官たちの表情が晴れやかだ。

 焼き肉パーティでリフレッシュできたか。


 しかし待ってください。

 アナタ方の食べ散らかした食器やら食べ残しやらを片付けてください。


 あと火の始末も大変重要。


 後片付けまでがパーティですよ。


『『『はい……!』』』


 見事なオチに、裁判所に魂たちの拍手喝さいが響いた。


 ウェルギリウスさんも大興奮し……。


『見事です! ただ言い回しとかもっとケレン味を加えることもできたと思います! 私が台本を起こしてもいいでしょうか!?』


 定例イベント化させようとしている!?

 やめて三長官たちに何回もあんなくっさいセリフ言わせようとしているわけ!?

 ゴメンナサイすみません、くさくありません!


『えぇ~? 目玉になると思ったのですが、冥府ツアーの』


 だからそんなデビルズアイはいらん!

 ほら、三長官一気にシラフになったじゃないか!!


『さあ、仕事の精を出すかな』

『食べた分だけ働かないと……』

『人間国の法改正チェック表持ってきてー、誰かー』


 さて、これ以上ここにいても気まずいし次の見学地に向かいますか。

 時間も随分押しているでしょう。


『そうですな、時間厳守がツアーの基本! 予定外の焼肉パーティーまで入りましたからな! 疾く出発いたしましょう!』


 忙しい人だ。

 そして今日も、冥府の裁判所では死後の魂を裁く厳しい声が飛び交うのだった。


   *   *   *


 そして冥府の見学ツアーは続いていく。

 とは言っても裁判所から先は、実際に罪を犯した魂を責め苦で浄化する地獄ゾーンだ。


 愛欲に溺れた者が木っ端のように飛ばされる暴風域。

 たくさん食べすぎた者が地獄の番犬ケルベロスに追い立てられる沼地。


 うーん、犬ちゃん犬ちゃん。


 さらにケチの浪費家が陥る金銭地獄。

 ん? ケチで浪費家? 矛盾してない?


 さらにetc.etc.etc……。


 そして新たにたどり着いた場所で……。


 出会った者たちがいた。


「ウェルギリウスさん、アレは……!?」


 いやアレっていうか。

 あの方たちというか……!?


『ああ、ご存じありませんか? そうですねえお客様が生まれた頃には絶滅していましたからねえ』


 絶滅した生物。


『あれこそはかつて賢者猛者と讃えられた半人半馬の怪物ケンタウロスです。気を付けてくださいね。彼らは極めて理知的か極めて狂暴のどちらかですから』

「両極端!?」


 未知との遭遇が始まる。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
ケチで浪費家、は矛盾しないよん。 使うところでバリバリ使ってそれ以外をケチにして貯めるって人は多いし(そういう人は得てして貯める)、その使い先が客観的に見て浪費なら「ケチな浪費家」の出来上がりでござい…
なんか冥闘士が混じってない?
聖闘士が紛れ込んでるの?
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