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140 ミシン

 神々が去って、やっと我が農場に平穏が戻ってきた。

 随分久しぶりな気がする。


 神たちは出すメニュー片っ端からドカ食いして、食糧庫が空になるかとハラハラしたぐらいだが、意外にも蓄えはそれほど減っていなかった。

 これなら神々が与えてくれた恩恵で充分に黒字。


 ハイパー魚肥で成長が速まった作物はガンガン補給できるし、減った分はすぐさま元通りになるだろう。


 さて。

 こうした神々とのゴタゴタも一段落して、本来の農場生活に戻ろうではないか。


 実は冬の間から進めている計画が一つあるのだ。


『まだ完成していない計画がいくつもあるのに、思い付きで新たに始めるのはやめなさい!』とプラティから怒られるのだが、思いついたものは仕方ない。


 思いついた傍から始めるしかない!


 各計画は達成までに時間がかかるし、いくつも並行して進めないと一生のうちに全部終わらないんだもん!


 というわけで俺が新たにとりかかった企画。


 ミシン作りだ。


              *    *    *


 衣食住と言えば、生活の基本単位とされる重要なもの。


 俺もこの農場生活で改めて実感させられるが、食うもの住む場所、着る服。どれも本当に大事だ。


 その中で、我が農場の『衣』をたった一人で支えている人物がいる。


 魔族娘の一方バティ。


 彼女が元々服屋の生まれで、魔王軍退役後は年金を元手に自分の服屋を開きたいという夢を持っていたのが、我が農場の需要と一致。


 彼女は毎日、農場の住人たちのために服を縫っている。


 ただ、少人数で小さくまとまっていた昔と比べ、今は随分人数が増えてきた。

 手先の器用なエルフに時折応援を頼んではいるものの、バティの負担はかなり重くなっているはずだ。


 そんな彼女の負担を少しでも和らげるために、彼女の作業をサポートする道具を。


 それがミシンですよ!


 前の世界、テレビなんかで見た。

 ミシンでガガガッて縫えば、手作業で数時間かかる裁縫が数分で終わる!

 ミシンをプレゼントして、バティにさらなる楽しい被服ライフを!


 …………という風に思いついた。


 ただ、ミシンといえば電化製品。

 さすがに異世界とは合わなすぎるんじゃないだろうか、という危惧があった。


「電化はなー。さすがに文明の匂いがキツすぎてなー」


 ファンタジー異世界でオール電化とかムードもクソもあったもんじゃない。

 そもそも可能不可能の問題で不可能なんだけど、あえて不可能に挑戦する気も起きない。


 じゃあ、やっぱりミシン開発計画は頓挫? と一時なりかけたが、その時俺はあることを思い出した。


 これもテレビで見たことだが、前の世界でも電気がなかった時代、それ以外の動力で動くミシンがあったはずだ。


 人力ミシンだ。


 たしか机と一体になっている型で、足元にあるペダルを踏むことで針を動かす仕組みだったはず。

 これなら中世程度の文明水準であるこちらの世界でも作り出せそうだし、世界観をブチ壊さない!


 よし、足踏みミシン、開発計画スタートだ!!


              *    *    *


 ……と思いついたのが冬が訪れる前。

 そして冬が去った今でも足踏みミシンは完成していない。


 目の前には、歯車やらシャフトやらの失敗作や金属クズの山が。


「機械工作舐めてた……!」


 始めた頃は『ペダル踏む動きが針にまで伝わればいいんだろ』と余裕ブッこいていたのが、そんな簡単ではないということが始めてみればすぐわかった。


 異世界製足踏みミシンの基本素材は、毎度お馴染みマナメタル。


 こちらの世界で最高らしい金属をまたふんだんに使い、ハンマーで伸ばしたり聖剣で削ったりして形を整えるものの、これがまったく上手く行かない。


 そもそもテレビで外見だけ見かけた俺が内部構造を正確に把握していたわけがなく、完全にお手上げ状態だった。


「さすがに思い付きで突っ走りすぎたか……!」


 神々の宴が終わって一段落着いたので作業再開したのだが。改めて不可能ということを突き付けられた感じだ。


 ここは何か斬新な解決法を考え出さないと進展しなさそうだ。


 農場の住人たちが神様から色んな恩恵を受け取っていたが、その中でうまく助けになれる能力でもないものか?


「いや……」


 俺は既にヘパイストス神からギフトを貰っている。

 ここは一貫してヘパイストス神に助けを乞うべきじゃないか。


「鍛冶の神様だしなあ……」


 こういう問題では真っ先に縋るべき神様な気もする。


 俺は屋敷にある神棚にパンパンと手を合わせて祈ってみた。


「ヘパイストスの神様……! ミシンという機械があります。縫い物が速くできる道具です。その開発にどうかご協力ください。せめてヒントなりとも……!」


 そして俺は、いつものお供え物のおにぎりを神棚に捧げる。

 何故か知らないけどヘパイストス神は、おにぎりが大好きな気がするからだ。


 しかも今日はただのおむすびではない。

 厚かましくもお願い事をした引き換えというか奮発してみた。


 こないだポセイドン神への捧げものとして開発した明太子を、おにぎりに入れてみた。

 今や明太子はおにぎりの具としてもスタンダード。


 ちょっと奮発してみましたという感じだが、これが功を奏した……、のか?

 明太子おにぎりを捧げた途端。

 神棚が光り出し……。


『ぼ、ぼ、ボクはおにぎりが大好きなんだな……!』


 光と共に、俺へ向けて舞い降りる一枚の紙片。

 これが凄く大きい。

 新聞紙一枚に匹敵する大きさだ。


 そこに書かれていたのは……!


「ミシンの設計図!?」


 ヒントどころか答えが丸ごと来た!?


「これが明太子おにぎりの報酬とでも!? いいですかこんなに奮発して!? ちょっと神!?」


 しかしこんな機械構造にも精通しているなんて、さすが造形神。

 一気に進展したぞ!


              *    *    *


 あとで調べたところ、捧げ物に対する報酬は、神々の間で交わされた約束の『一人の人間に一つ以上の贈り物をしてはいけない』に引っかからないらしい。


 贈り物と報酬はまた別物で、約束の意図たる『神によって地上のパワーバランスが崩されるのを防ぐ』ことが達成されていれば問題なし。

「人間ごときが捧げたものと等価交換の奇跡で世界のバランスが崩れるものか」という見解らしい。


 とにかく優しいヘパイストス神のくれた設計図で。

 いよいよ本格的にミシン開発だ!

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