表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1405/1417

1403 ジュニアの冒険:ドラゴン婚クエスト

「えええええッ? 何なのこのニンゲン!? これが本当にニンゲン!?」


 いかにも僕は人間だ。

 臆病で弱っちいただの人間だ。


 しかし、ただの人間だからこそできることがある。


「ねえ、あの子自己評価がおかしくないかしら?」

「ご主人様のところは家族全員そんなもんなのだ。あの認識の緩さが世界に平穏を与えてもいるんだぞ」


 観戦者の解説が気にかかる。


 それはそれとして……生まれて初めて人間と対戦するお姫様竜は……。


「私の攻撃が効かない? たかがニンゲンに? ニンゲンなんて、竜の鼻息一つで吹っ飛ばされる脆弱な一族だってお祖父様が……!」


 お若いの、覚えておくといい。

 老人の情報は総じて古いのだと。


『なんで更新前の古い情報を孫娘にインプットしますかねぇ?』

『だだだだって! 孫娘の前ではいいカッコしたくて! それに今でも言うほど間違いじゃねえだろ! 例外中の例外中の例外みたいなサンプル出して常識を否定するな!!』


 そんなこともないぞ。


 さあボウアちゃん試合続行だ。お姫様竜であるキミの攻撃手段は、まさかこれだけじゃあるまい。

 ガンガンしかけていいんだぞ。

 僕からは一切仕掛けない。

 キミからの攻撃をすべていなして見せよう。


 幼い女の子をぶん殴るわけにもいかないからな。


「おのれバカにしてぇ……だったら今度こそわからせてあげる! 種の圧倒的な違いというヤツを!」


 ボウアちゃんは、幼い割には多種多様な属性で僕のことを攻めかけてきた。

 炎属性、氷雪属性、雷属性にモコモコ属性。


 しかし僕の『究極の担い手』は、あらゆる属性を手懐けて、僕を傷つけない方向へ導いていくことができる。

 これが『農場神拳』の極意、マワシウケだ!!


「ウソ……ニンゲンに、私の攻撃がまるで通じないなんて……!?」

『それがニンゲンの恐ろしさだ』


 竜の姿のアードヘッグさんが優しく諭す。

 その手に先代皇帝竜を鷲掴みにしたまま。


『ニンゲンは一見脆弱なようで、ここぞという時に凄まじい力を発揮する。先代ガイザードラゴンもそうやってニンゲンに敗れた』

『待てアードヘッグ! それはおれの黒歴史……ぐげげげげげげげげッ!?』


 当の先代皇帝が握り潰されながら抗議。

 しかし意味はない。


『敗北を恥じるのは致しかたないが事実は事実。潔く受け入れなければ恥の上塗りになりますぞ』

『そうは言うけど……潰れる潰れるッ!? ブシャッと弾ける!?』


 オークボおじさんが、農場とれたてのオレンジ握り潰して果汁100%ジュース作る光景を思い出した。


「えッ!? でもお祖父様を倒したのはお父様だって……ッ!?」

『おれも力を合わせた一人にすぎん。単一では成し遂げられないことも、複数が力を合わせて達成することができる。おれがニンゲンから学んだ大事なことだ』

「そんな……!?」


 父から告げられた事実に驚愕を受けるボウアちゃん。

 一体アル・ゴールさんは、孫娘になんと伝えたんだろう。


「お父様はお祖父様と百年間殴り合って、それで互いを認め合ったという美談は……!?」

『父上? 何を自分に都合の言いように過去を脚色しています?』


 脚色どころか、丸ごと別のエピソードに置き換わってないか?


 そんな話を聞かされ続けていたら、まだ若くまっさらなボウアちゃんも偏見に満ちてしまうのは仕方のないことだ。

 どうしてあんなおじいちゃんを傍に着けた!?


「お父様が、ボウアのことをあまりに可愛がるものだから……! 私もアードヘッグも竜の国の地盤固めに忙しくてついつい……!」

「だからって人選は徹底しておいた方がよかったなー」


 ヴィールの指摘はもっともすぎて反論しようもない。

 世継ぎの教育なんて、それこそ国の命運を左右するものなんだから細心の注意を払わないと。

 カルト思想なんて交じり込んだら即、亡国に流れ込みかねないんだぞ。


「認めない! 私は、認めるもんかぁーッ!!』


 激高するボウアちゃん。

 今まで覚えた全部がデタラメだったら、たしかにショックだよな。面白くないよな。


 それでもドラゴンの姿に戻るくらい感情を激しなくてもいいのでは!?


「なんだアイツ、本気出すのにいちいちドラゴンフォームに戻んなきゃいけねえのか? 未熟だなー」

「そう言ってあげないでよ、アレでも生まれてからまだ十年しか経っていないのよ」


 どちらにしろ、この僕がドラゴンの本気に晒されるという事実なんですかね?


『ニンゲンめ、ドラゴンの本気を目の当たりにしても、まだ余裕でいられるか確かめてあげる! さあ食らいなさい、ドラゴン最終奥義ダークネス・ミーティア!!』


 ボウアちゃんの竜気が暗黒の流星を創り出し、僕目掛けて急転直下で叩き落す。


 うーん、これが終末の風景。


「おッ、あれはマリー姉上の必殺技じゃねえか。ちゃんと継承されてるんだな感心感心」

「まだ全然よ。私なら一度に百以上の暗黒流星を作り出せるけれど、あの子はまだ一個でしょう。必殺技と呼ぶにはまだまだクオリティが及ばないわね」

「一個でもニンゲンの街ぐらい余裕で消滅させられるレベルだろう?」


 その、街一つ消滅できる威力の流星が、僕の頭上に迫ってくるんですが。


 そのことについて心配してくれる人は誰一人いない。

 致し方なし。

 ここでも必殺、『農場神拳』極意、マワシウケ!


 流星があらぬところへ飛んで行った。


『わーッ!? また龍帝城がぁああああッ!?』


 戦う場所ぐらい変えるべきだっただろうか?


『そんな……ダークネス・ミーティアすら通じないなんて……!?』

『これでわかったか、ニンゲンの恐ろしさ……いやニンゲンの強さが』


 舞い降りてくるアードヘッグさん。


「いや確実に全体に当てはめていい基準ではないと思うんだけど」

「上澄みの中の上澄みなのだー」


 茶々を入れるブラッディマリーさんとヴィール。


『かつてドラゴンは、ニンゲンを脆弱と見下してきた。しかし認識は時間とともに移り変わる。ヒトの進化は凄まじく、ドラゴンに追いつく日もそう遠いことではない』

『ええッ!? そうなのッ!?』

『信じられないか? しかしお前も事実を目の前に見たはずだ』


 一旦、ボウアちゃんの視線がこっちに向く。

 違うよー、実例じゃないよー?


『時代の流れに追いつけず、古い認識を改められない老いぼれはニンゲンにもドラゴンにもいる。そんな者たちの偏見に、もっとも若いお前が惑わされてはいけない。それを抜いても我々新世代のドラゴンは、ニンゲンとの密な付き合いを目指していくつもりだ』

『は、はい……!』


 シュンとうなだれるボウアちゃん。

 余程心にきたのか、ドラゴンの翼も力なく垂れさがっている。


『まあ、お前はまだ若い。間違いに気づけて改められたのなら上出来だ。また一つ成長できたなボウアよ』

『……! はい、お父様!』


 そして褒めるのが早い。


「そうよ! さすがは我が娘! 傲慢なドラゴンがしっかり反省できるなんて、アナタだからこそできるのよ! 何しろアードヘッグの娘なのだから! あの人もね、出会った時にはドラゴンらしからぬ優しさで……!」


 さらに母親のブラッディマリーさんこそ親バカ度が激高。

 しかも速やかに惚気に移行する話題の巧みさ、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「ジュニアくんにも重ねて礼を言う。キミのお陰でウチの娘の偏見を、早いうちに矯正することができた」


 はは……! お役に立ったなら何より……!


「竜の国の地盤作りにかまけて、愛娘の教育が疎かになっていたとは。おれもまだまだ未熟な皇帝だな」

「アードヘッグは悪くないわ! すべてはこの、時代が移り変わってもブイブイ言わせていた時期を忘れられない愚かなお父様が悪いのよ!」


 すべての罪は旧世代に帰せられた。


『ぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……!』

『お父様! さすがに擁護の余地もありませんわ!』


 唯一の味方であるシードゥルさんからも散々な言われようだった。


『……お前! いやアナタッ!」


 はいッ!?

 人間形態になって僕に剛速球迫ってきた!?


「アナタの顔は覚えたからね! グラウグリンツェルドラゴンである私に与えられた屈辱は必ず返す! お父様の言う通りニンゲンがものゴッツい種族であっても、敗北の悔しさとは別問題! いつか必ずリベンジしてやるんだから!」


 ええ~?

 なんかまた厄介なお嬢さんに目を付けられた感じ?


「あの敗北からの甦りっぷり、血を感じるわねえ」

「そういやマリー姉上の馴れ初めも、そんな感じだったか? もっとも直接わからせたのはアードヘッグじゃなくておれ様だったがな」

「そういうアナタだって、聖者に完膚なきまでにやられて、それきっかけで嫁入りしようとしたんじゃないの?」

「あったなそんな設定」


 ボウアちゃんが正しく育ってくれたら、竜族の未来も明るいということで僕も万々歳なんだけど。

 その代わり僕が何かにロックオンされた気配が怪しい。


 ドラゴンと人類、これからも仲良くしていきたいね!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bgb65790fgjc6lgv16t64n2s96rv_elf_1d0_1xo_1lufi.jpg.580.jpg
書籍版19巻、8/25発売予定!

g7ct8cpb8s6tfpdz4r6jff2ujd4_bds_1k6_n5_1
↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
あれ?ジュニアの嫁候補になりそうなタイトルだったのに そうじゃないのか。
あったなそんな設定 そういえばヴィール、初期の初期は聖者の嫁になろうとしてたっけか… ジュニアが生まれてからは 「ジュニアに執り憑くやべー奴」 にジョブチェンジしたが…… ヴィールはドコに向かっ…
仲良く(意味深) って、言うかジュニア人族?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ