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1400 ジュニアの冒険:ドラゴンキングダム

 竜の国が……眼前に広がっている。


 それは想像を絶した光景だった。

 空の上に浮かぶ島……というか大陸といっていいぐらいだ。

 だって浮島の向こう側が地平線になって見えないぐらいだから。


 しかしこの浮島というか……浮大陸がある空間は?


 見下ろしてみてもそこがない。果てしなく空の上という感じだ。

 僕たちの住んでいる地上からは距離とか関係なしに、次元で隔てられている空間だ。


 完全なる別の世界。


『アードヘッグのヤツが創り出した異空間だな』


 ヴィールがドラゴン姿のままで解説する。


『ヤツのガイザードラゴンとしての竜気が、次元を歪めヤツだけの領域を創り出したのだ。かつての龍帝城と同じようなもんだな』


 りゅうていじょう?

 何それ?


『そっかー、ジュニアが生まれる前のことだから知らねえよなー』


 ヴィールの解説を聞くところ、龍帝城は歴代ガイザードラゴンが居城として創り上げてきたダンジョンらしい。

 普通なら自然マナの淀みによって生み出されるダンジョンも、全ドラゴンの頂点に立つドラゴンなら自力で作為的に生み出せる。


『アードヘッグは、それほどのマナを竜の国の創造のために使ったわけだな。しかし規模的には龍帝城より遥かにでっけぇ』


 アードヘッグさんは皇帝竜として、竜が健やかに暮らすための国土づくりに力を注いだんだな。


 あまりのスケールのデカさに呆然としていると、大陸の方からバッサバッサと翼をはためかせて接近してくる。


『侵入者を確認、侵入者を確認!』

『一体はドラゴンで……もう一体はニンゲンだと?』


 ドラゴンが二体、こちらに迫ってくる。

 雰囲気的に、異常を察知して確認しにきた衛兵といった感じだ。


『おれ様はグリンツェルドラゴンのヴィール! アードヘッグからの用を済ませに来たのだ!』

『ヴぃ、ヴィール様!?』『あの伝説の!?』


 竜の国でも名が轟いているヴィール。

 いい意味でなのか、悪い意味でなのか、そこが問題だ。


『アードヘッグは、このジュニアと会うことを所望だ。通達を聞いてねーのか? 速やかにおれたちをアードヘッグのところまで案内しやがれ!?』

『んなこと言ってるけど……大丈夫なのか?』『おれなんも聞いてない』


 どうやら報連相が上手く機能していないようだ。


『でも相手がヴィール様なら、おれたちが束になっても止められないぞ!?』

『仕方ないから連行……いやご案内しよう。竜皇様に直接確認して、ウソだったら竜皇様に直接何とかしてもらおうぜ』


 それでいいんかキミら?

 衛兵としての役割を果たせていないような……!?


『そんなもんだ、竜の国って言ってもまだまだニンゲンほどに法の意識がしっかりしていないからなー。形ばかりの国を作ったところで意識が追いつくわけがないのだ』


 そういうものか?


『元々ドラゴンは自由な生き物だ。ドラゴンは自由であり、自由がドラゴンみてーなところがあるからな。俄かでニンゲンの真似なんかしても収まるわけがねーのだ』


 言ってることの意味のわからなさもドラゴンの自由さだった。


『ドラゴンは法にも国にも囚われねえ。アードヘッグがこうして国土を拵えもしたが、別に現存する竜全員に「ここに住め」と強制しているわけじゃないしな。おれだって普段は農場にいるのだ』


 たしかに。

 そんなヴィールに要請して僕を招待して、何の軋轢もなしにヴィールは訪れ、向こうもそれを容認している。


 この対応の緩さがいかにもドラゴンということなのか。


 僕らは飛行しながら、竜国の領域内へと進んでいく。

 異空間の中に浮かぶ大陸は豊かな自然が広がり、深い森、透明な川、純白の雪をかぶった山脈などが、見るも美しく並んでいた。


 肝心の竜の姿はなかなか見当たらなかったが、それでも時折、気楽そうに飛び交うのをすれ違いざまに見かける。


 国土に対する住人の密度が物凄く低そうだ。


『そりゃそうだー、ギチギチに押し込められて暮らすなんて息がつまるからなー』


 ……それは、我々人類への皮肉でしょうか?


『これから竜も数が増えてくるから、それを見越しての広さなのかもしれねーがな』


 などと話しているうちに、なんか目的地っぽいものが見えてきた。

 自然豊かな大陸の奥に、明らかに人工物らしい意匠が聳え立っている。


「うわー、城だー」

『アレがアードヘッグの住んでいる龍帝城lightだな。大部分の竜気を大陸の構成に使ってる分、城の規模はショボいのだ』


 ショボいって……それでも充分大きすぎると思いますが。


 人間国の王城や、魔国の魔王城よりもデカい。

 実際見てきた僕が言うんだから間違いない。


 この竜の国そのものを形成しながら、余力であんなお城まで作れるアードヘッグさんもなかなか凄い人(?)なのでは?


『…………』


 どうしたのヴィール、黙り込んじゃって?


『……いや、言われてみれば確かに異様だな、と思ったのだ』


 というと?


『今まで特に気にしないんで気づきもしなかったが、この大陸の規模、異空間のデカさ。歴代ガイザードラゴンが創ってきた龍帝城を遥かに越してるのだ。アードヘッグって今までの皇帝竜の中でも弱い方だと思っていたが、実は違うんじゃないか?』


 弱そうなヤツが実は最強だったパターン?

 燃えるヤツじゃん!


『まあ、どう転んでもアレキサンダー兄上の方が強いんだがな。さあ、愚にもつかないことを喋っているうちに着いたのだー』


 とても豪華なお城へ降りたち、内部へと進んでいく。


『じゃあ、我々はここらでー』

『おつかれっしたー』


 同行していた衛兵役の竜たちは戻っていった。

 これから竜のトップと会うのに、何者か確信が取れない不審者が会うのに、やっぱり竜って自由だな。


 城内はとてつもなく広い……というか大きい。

 何せ通路からして大きいんだ。ヴィールが人間形態にならずドラゴンのまま進めるぐらい。


 その点だけでも人類の建造物を常識からして凌駕していることがわかる。


 ただデカい分、通路も長い。

 だから進んでも進んでも目的地に着かずに……飽きてきた。


『だりーな……、おいジュニア、おれにしがみ付け』


 ……はい。

 僕がヴィールの竜体にしがみつくと、すぐさま光の速さで駆け抜ける。


 メッセージスキップみたいなものだ。

 面倒なものは一気に飛ばす。


 そうして着いた先に、満を持しての竜皇が待ち受けていた。


「ようこそ、我が皇国へ」


 高き玉座に座るのが、皇帝としての威厳溢れる美男。


 人間の姿でいるが、その正体はすべての竜の頂点に立つ(制度上そうなっている)皇帝竜。

 ガイザードラゴンのアードヘッグさんだった。


「こちらから呼びつけておきながら出迎えもせずに申し訳ない。皇帝竜という立場上、軽率に動くこともできなくてな」


 いえいえ、おかまいなく。

 こちらに合わせて人間形態で迎えてくださって、歓迎の意思は伝わっています。


「気取りやがってー。だったらおれも人間形態なのだ」


 ヴィールも変身した。


 ここ玉座の間には、訪問客である僕とヴィール、それを迎えるアードヘッグさんの他にもう一人。

 アードヘッグさんの隣に用意されたもう一つの玉座に座る皇妃竜ブラッディマリーさんがいた。


 皇妃の肩書きに相応しい優美な顔つきで、淑やかに座っている。


「皇帝竜を前に頭が高いわよ。跪きなさい」


 あ、はーい。

 失礼しました。


「こんなヤツらに三跪九叩する必要などないのだ。こちとらジュニア様だぞ、テメーらこそ頭が高いのだー!」


 いや、そこまでへりくだるつもりはない……。

 それにアードヘッグさんたちとは友だちみたいなもんだし、対等でいいでしょう?


「その通りだ。ジュニアくんの御父上聖者殿には大変世話になった。その息子たるキミが、我が竜の国を訪ねてきてもらって大変喜ばしく思う」


 アードヘッグさんは、以前に合った何年か前の比べても遥かに威厳が増し、皇帝の名に相応しくなっている。


 一体この竜の国でどれだけの経験を積んできたのであろうか?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
ドラゴン・ラグーンってか。 アレキサンダー封じられてそう。
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