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1397 ジュニアの冒険:完璧なる夫人

 はあ……、レタスレートおねえさんのところではえらい目に遭った。

 今後彼女がこの世界の政財界を数十年は牛耳るかと思うと気が重くなってくるぜ。


 しかしいつまでも憂いていても仕方がない。気を取り直して前へと進もう。


 今日は、魔都にて果しておくべきもう一つの用事があって、ある人のところへ訪ねにいく。


 それがここだ。


 デカいお屋敷だなあ。

 いかにも偉い人が住んでそうな場所だ。


 これ普通に正面から入ろうとして大丈夫かなあ?

 いつぞやの人間国の時みたいに、門前払いとかにされない?


 こんなことなら魔王さんにでも同伴してもらえばよかったかな。

 それなら魔国中どこにいっても立ち入り放題だ。


「あらジュニアくん、いらっしゃい」


 杞憂だった。

 玄関ドアを開けて、見知った顔の女性が顔を出す。


「時間通り、さすがジュニアくんは几帳面ね。なんかここに来てからもドタバタしてたんでしょう? 悪いわね、忙しい合間を縫って来てもらって」


 いえいえいえいえいえいえいえ!

 そんなそんなそんな!


 バティさんみずからお出迎えしていただくとは!!

 彼女には日ごろからお世話になっていますから、招待にはいくらでも応じさせていただきます!


 ここらで説明させていただこう。


 こちらはバティさん。

 かつて農場で暮らしていた住人の一人だ。


 出身は魔族。

 元々は魔王軍の一員として農場に関わっていたが、なんやかんやあって農場に定住したらしい。


 そのなんやかんやは僕の生まれる前のことなので不詳。


 やがて時が流れて結婚して、農場から離れた。

 今はこの魔都で暮らしているらしい。


「ジュニアくんにもしばらく会っていなかったけれど、大きくなったわねえ。彼女できた?」


 親戚のおばさんみたいに聞いてくる。


「ははは、ボチボチです」


 最強の汎用呪文で応戦する。


「ジュニアくんは早めに決めておいた方がいいわよ。地位も実力もあるんだから、そのうちたくさんの女が群がってくるでしょう。今のうちにしっかりと吟味して選んでおかないと財産目当ての銭ゲバ女なんか掴まされちゃうわよ」


 たははははははは……!


「まあプラティ様がいればそんな女は寄り付かないだろうけれど……。あらやだ、こんな話をするために来てくれたんじゃないわよね、ごめんなさい」

「いえいえ」


 バティさんは、農場を離れたきっかけは結婚であったが、そのお相手はやはり魔王軍の軍人さんで、しかもけっこうなご身分の貴族らしい。


 道理で豪華なお屋敷に住んでいるわけだ。


「旦那さんはお仕事ですか?」

「もちろん、やはり四天王に就任してから大分忙しくなってね。しかも最近別の四天王が代替わりすることになって、そのサポートでも大忙しだわ。ここ数日帰っていないからまた着替えを届けてあげないと……」


 バティさんの旦那さん、魔王軍四天王だったのか。

 すげぇ。

 エリートだってことは知っていたけどほぼ出世コースの頂に登っている。

 それより上は精々魔軍司令ぐらいだろう。


 そんな旦那さんの出世に、妻となったバティさんが一切関わっていないとなれば、その見解は間違いだ。


 バティさんは結婚以来、様々な形で旦那さんを支えて彼を四天王にまで押し上げた。


 エリートであれば、それだけで到達できるというほど四天王の座は簡単じゃない。

 同じようにエリート出身の競争相手は何人もいるし、何より魔王軍は血統主義よりも実力主義だ。


 能力実績だけがモノを言う世界で、バティさんは旦那さんが栄達できるように最大限のサポートをした。

 彼女自身、元々魔王軍にいてそれ相応の名声や人脈があったために旦那さんを補佐しやすかったらしい。

 その上に軍人妻としての本来の役割も完璧にこなし、旦那さんとの間に子どもも三人設けて跡継ぎ問題は解決済み。

 ちなみに二男一女でバランスもいい。


 これほど夫によく尽くす良妻ということで界隈では有名になっているらしい。

 さすがは農場で働いたバティさんだ。


「わぁ、おきゃくさんだー!!」


 屋敷の中に案内されると早速、身なりからして坊ちゃまらしい子どもら二人が突撃してきた。


「いらっしゃいませ! 四天王オルバの長男シャバラです!」

「おなじく、じなんのせーりおです!」


 と勢いよく礼をする。

 ちゃんと挨拶できて大した御曹司だ。


 きっとバティさんの教育が行き届いているんだろうな。


「あらあら……、この子らったら……!」


 さらに屋敷の奥から、人が出てきた。

 赤ちゃんを大事そうに抱きかかえた、上品そうなおばあさんだ。


「すみませんお義母様、子どもたちが騒がしくて……!」

「いいのよ、子どもは元気が一番ですから。オルバが小さかった時のことを思いだすわ」

「そう言っていただけると……!」


 察するまでもなく、この屋敷の主人のお母さんだろう。

 つまりはバティさんから見た姑。


 古来から嫁姑と言えば暗闘を繰り広げるものだと聞き及ぶが、この家ではそんなことはない。


 そもそも義母さんがおだやかな人格者なのもあるだろう。しかし嫁姑問題をしっかりと制御しているバティさんの能力の高さももちろんある。


 バティさんが農場を旅立ってからというもの、積み上げられた努力の成果を見せつけられた気分だった。

 それは充分誇るべきだろう。


「貴族パーンチ」

「してんのうスラーッシュ!」


 うわー、やられたー。


 男の子たちとひとしきり遊んでから、お茶に誘われる。


「ごめんなさいね、こちらから招いたというのに子どもたちの遊び相手までさせて……」


 いえいえ。

 僕も幼少時代、農場を訪ねてきた人々とよく遊んでもらったものだ。

 ノリトも一緒に。

 アイツはあの頃は素直だったのに、なんであんなにひねくれたのか。


「こうしてあなたと向き合っていると思い出すわね。農場で過ごした日々を」


 僕の顔って農場での思い出に紐づけされるんだ。

 致し方ないか。


「あの頃はがむしゃらだったわ。夢に向かって駆け抜けていた。脇目もふらず正面だけを見て。だから当時の風景を思い出せないのよ。色々あったはずなのに」


 懐かしむようにバティさんが言う。

 まだ女ざかりの年齢だろうに、その佇まいは老成を感じさせた。


「私が農場で何をしていたか知っているでしょう?」


 ええ、それはもう。


 バティさんが農場で担当していた仕事、それは……服飾。


 農場で働く人たちが着る服を仕立てるのはバティさんの仕事だった。

 元々親御さんがそういう仕事をしていたとかで、戦争に巻き込まれて魔王軍に入ったものの、本当は親御さんのように服を仕立てる職人になりたかったそうな。


 その夢をバティさんは農場で叶えた。

 ただ服を作るだけでなく、デザインにも凝って、彼女の作り出した服は魔国でも売られるようになった。


 そしたら振り上げ爆発ガンバルガーだ。


 バティさんの構想は、相当アヴァンギャルドであったらしく、魔都の多くの人々が争って買い求めた。

 それが最終的に、バティさんをトップデザイナーへと押し上げたのだ。


「私一人の力じゃないわ、私が作っていた服には農場の特別な布地が使われていたから、それが珍しがられた部分が大きいわ」


 またご謙遜を。


 自身がファッション界で有名になったおかげで、戦災で生き別れになったご家族とも再会を果たした。

 今ではご家族が営むファッションブランドにも協力して版図を拡大しているのだとか。


「服作りには情熱があったし、嫁入りしてからも有利に働くことが多かったの。この家と交流する人も、私の作る服が目当てだったりすることが多くてね」


 それで人脈を広げて、旦那さんが四天王にのし上がる土台を築き上げたのだな。


 賢夫人として大成したこの人に会うことも、僕の将来に大事なことだと実感した。

 ここに来た意味はあるのだろう。


「でも……」


 と、バティさんが短いため息をついた。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
さすがにこの流れからの振り上げ爆発ガンバルガーは強引すぎんか。 …振り上げ、売り上げの誤字?分からん。
だーれにーもー言えーなーいーけーれーどー♪ たーい好ーきーなもーのーがあーるーよねー♪ 主題歌がとにかく好きでした。
なんでガンバルガーを知っているのかな? 前にも言ったが異世界人はあくまで父親の聖者であってジュニアは違うよね?
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