1394 ジュニアの冒険:伝説の豆装備
「豆の武器化?」
何を突拍子もないことを言ってるんだ?
『食べもので遊ぶな』と父さんに散々注意されてきたじゃないか。
「遊びじゃねえ! オレはいつだって本気だ!!」
そういう問題じゃないんよ。
「豆の武器化? そういう案は昔から何回も出てきているからねえ」
「月一の頻度で出てきますね」
そんなに!?
意外と手垢まみれのアイデアだった。
「フフフ、そういう凡百の発想と一緒にしないでいただけますかな?」
ノリトが相変わらず不敵だ。
「どうせそういう連中のアイデアって、豆鉄砲でしょう。豆を飛ばして敵を撃つ。……まさしく安易な発想だ。その上でばら撒かれた豆から芽が出て地域の緑化に貢献する、環境にも優しいアイデアだとか言うんじゃないですか?」
「まあ、たしかにそうだけど……?」
ハトが豆鉄砲食らったような顔になるレタスレートおねえさん。
「しかしオレのアイデアはまったく違う! オレの開発した新技術があれば豆は、剣にも槍にも、盾にも鎧にもなる! 無限の可能性を発揮できるのです!!」
「どういうこと?」
ノリトの言うことが確かならば、豆装備一式ができるじゃないか。
お店に行って『まめのけん』『まめのよろい』『まめのたて』『まめのかぶと』買い揃えるの嫌だなあ。
「百聞は一見に然らずんば虎児を得ず! 実際に工程を見ていただきましょう」
「お、おう……!?」
レタスレートおねえさんまで圧倒され気味。
「では早速実行します。過程はこうです、一定量の豆を水の中に浸します」
ふむふむ。
「ある程度時間をおいて、たっぷり水分を吸ったら、ミキサーにかけて豆をすり潰します」
ふむ?
「すり潰してペースト状になった豆を煮込み、コトコトしたあと布で濃し、おからと豆乳に分けます」
いや待て、それって……。
「おからは一旦分け、豆乳に特製にがりを加えて固まるまで待ち……」
豆腐じゃん!
それ豆腐じゃん!!
何かと思って見守っていたら、ただの豆腐作りじゃん!
僕も父さんを手伝ってやったことあるよ、父さんの作る豆腐の味噌汁超美味しい!
「フッ、たしかにこれからできるものは豆腐だ。しかし気づかないか兄貴……」
何を?
このまま一旦崩さないなら出来上がるのは絹ごし豆腐ってことを?
「違うな、これはいわば製錬作業だ。鉱石から金属の成分だけを取り出し、利用しやすいように加工している。それと同じようなことだ」
ますます持ってわからない。
「さっきも言っただろう『特製にがりを加えた』と。そうこの豆腐に使われたにがりはただの、にがりではない。豆乳を固めて豆腐にするためのモノがにがりだが、オレは独自の改良を加えた名付けて、アストロンにがりを投入すると一体どうなるか」
豆乳に投入?
「実際に確かめてもらおうじゃないか」
おッ、にがりを入れた豆乳がもう固まっている?
早くない?
「ううむ、いい感じ固まっているなあ。ではレタスレートおねえさん」
「何?」
「いや、やっぱホルコスフォンおねえさん」
「何よ?」
なんで呼びかける先変えた?
「マナカノンでこの豆腐を撃ってもらえますか?」
「了解しました」
いや、そんなことして何になる?
せっかく作った豆腐が粉みじんになるじゃないか。
食べ物を粗末にするようなマネは、農家の息子として感心しない……。
「マナカノン発射します」
撃つのに躊躇がない。
引き金軽っ。
ホルコスフォンおねえさんのマナカノンは天使の標準装備。
地上のものを焼き尽くし、天を割るための光砲だ。
そんなものの直撃を受けたら地上の大抵のものは無事では済まない。大半が跡形なく消し飛ぶ。
そんな中で豆腐も例外ではなく……。
……例外だった。
豆腐がマナカノンを弾き返したッ!?
ほぼ反射といっていいぐらいの角度でマナカノンの軌道が曲げられた!? いや折られたと言っていいぐらい!?
それで研究所の天井がああああッッ!?
「凄まじい硬さの豆腐です。マナカノンを弾き返すとは、マナメタルに迫るかもしれません」
「少なくとも、既存の金属よりははるかに高い硬度ね。これで盾でも作ったらやたら強固な……、はッ!?」
そこに考えが至ってしまった。
豆で武具を作る。
ノリトが言っていたのは、そういうことかッ!?
「このアストロンにがりで固まった豆腐は、そこいらの鋼鉄よりもずっと硬い。剣に加工すれば岩をも断ち、盾に加工すれば極大魔法も防ぐであろう。その剣と盾がぶつかったらどうなるか、知らん」
加工すれば、っていうけど具体的にはどうするの?
元が豆腐なんだから、金属みたいにいっぺん溶かして……というのも無理だろう?
「うん、一回固めたらもう加工不可能」
ダメじゃん。
「なので固める前に形を整えておく。豆乳の時点で型に流し込んで、にがりを入れて固める……みたいな?」
滅茶苦茶楽そう。
それもう大量生産に打ってつけでは?
「しかも元が豆腐なので軽い。硬い、軽い、加工しやすい。三拍子揃った豆腐装備! これは大ヒット間違いなしですよー!」
弟が凄まじい新製品を生み出していた。
たしかにこの装備が出回れば、既存の商品がすべて駆逐されかねない。
固定概念が覆されかねない。
ノリトの発明は、時代を変える発明なのか!?
「うぅ~ん、どう思うホルコスちゃん?」
「技術は凄まじいですね。そこはもう異論の挟みようがありません」
上層部の話し合いもおおむね好意的。
「……ですが、加工先が武具に絞られるのは難点ですね。戦争も終わって久しく、需要があるとは思えません」
「そうでもないでしょう? 今でも冒険者とかがダンジョン攻略に使ったりとか。世の中平和になっても軍隊は常備してるんだし、標準装備として採用されたらまとまった利益が見込めるわよ?」
「しかし、ただでさえ我が社は一人勝ちに儲けすぎて、世界的に儲けすぎて『裏の支配者』とか言われているんですよ。これで武器とか扱いだしたら……」
「……ますます黒幕とか言われそうね……!」
案外ちゃんとした話し合いをしておられる。
しかも内容的にノリトへの旗色が悪そうだ。
「むしろ武器に拘らなければいいのでは? 軽くて硬い素材なんてなんにでも需要があるでしょう?」
「たしかに建材とか色々使い方ありそうね。その場合は気密性とか熱伝導性とかしっかり検証しないとだけど」
「元が豆腐だから、やはり焼いたら焼き豆腐になるのでしょうか?」
「少なくとも熱伝導性はよくなさそうねえ」
相談が続いている。
あれだけ議論が高まるってことは望み高いんじゃないか。
「あっ、でも……」
レタスレートおねえさんが、何かに気づいたように言う。
「強度の方は本当に大丈夫なのかしら?」
「その点は先ほど証明されたのでは?」
「でもさっきノリトくんあえて私を避けたじゃない」
そういえば!
さっきマナカノンで強度試験する前にノリトは一回レタスレートおねえさんを呼んだ。
そしてすぐやめた!
あれはもしや、レタスレートおねえさんなら豆腐メタルが耐えられないと危惧したからなのか!?
ということはレタスレートおねえさんのパンチはマナカノン以上とみなされているのか?
「よし、改めて強度試験しましょう。本格的な検討はそのあとということで」
レタスレートおねえさんが腕をブンブン振り回しながら言う。
どうするんだノリト?
このままではヤバい気が……?
「わかりました、追加の強度試験を実施しましょう」
おおノリト、勝負に乘るのか!?
「この兄貴に協力してもらって!」
ええええええええええええええええッッ!?
どういうことッ!?
「ここに、豆腐メタルを成形した盾があります! これを兄貴にかまえてもらって、レタスレートおねえさんにぶん殴ってもらう!」
オイそれ、盾の強度が足りなかったら僕が粉砕されますやん、おぼろ豆腐のように!?
まさか実験と称して僕の命を狙っている。
「兄の命を賭けてとは大した心意気ね、それだけ自信があるということ気に入ったわ!」
賭けるなら自分の命を賭けてや。
急にやってくる生命の危機!?