1393 ジュニアの冒険:ヒット商品を生み出せ
ここはレタスレート&ホルコスフォン豆カンパニー。
大資本大設備で、この世界に予測された深刻な食糧危機を乗り越える一助になった。
その実績によって、この会社は世界にただたる大企業へと躍進した。
いまや、国であろうと脅かすことのできない会社。
「しかし、資本に胡坐をかくだけでは大企業は守れません」
「そうよ! 世の中常に移り変わっていくんだから、ボサッとしていたら取り残されるわ!」
共同経営者であるホルコスフォンおねえさんとレタスレートおねえさんが息を合わせて言う。
「常に時代の要請に合った商品を売り出していかねば、消費者からそっぽを向かれてしまうわ! それで生き残れる企業なんてないのよ!」
「その通りですレタスレート」
「だからこそ我が社は研究部門を設置し、新しい商品を生み出すことに力を注いでいるのよ! ここからはその研究の途中経過を視察しに行くわ!」
そう言って移動する。
僕もついていく。
レタスレート&ホルコスフォン豆カンパニー、新商品開発部門。
この会社はそんな部門まで抱えているという。
「ただ豆を出せばそれだけで売れるs、そんな時代は過ぎ去ったわ。豆に付加価値を付けて、他商品との差をつけるからこそ消費者に選んでもらえる逸品となるのよ!」
「それが時代の流れに合わせるということです」
業界トップに君臨しながら停滞を認めぬ心がまえ。
これが、レタスレートおねえさんを世界の裏番に押し上げたのか。
「参考までに、これまで当社が開発してきたヒット商品を紹介していきましょう」
「アイデアととっかかりとしてまず、地域性に着目してみたわ!」
ところ変われば品代わる。
同じ豆でも、植えて育てた場所が違えば風合いも変わってくるはずだ。
「そこで最初に売り出したのは、人魚国産の豆!」
人魚国産の豆!?
人魚国って海の中ですけれど、畑あるんですか?
「人魚国にも特別に整えられた海底農地があるのよ! プラティのコネで、その一部で守を育てているの」
「そこで収穫された豆は海洋深層水などの影響からミネラルたっぷりの優良栄養豆として全世界に販売展開されています。その商品の名は……!」
「ハカタの豆!!」
……たしかに海洋の栄養分がたっぷり染み込んでそう。
「栄養だけでなく味もまろやかほのかな甘みもあり、大人気の豆です」
「発売されて年月が経った今でも、健康志向のお客様に大人気の豆ね!」
マジすか……!
「それに勢いを得て、次に開発した商品がこれよ!」
これは?
豆というのに、なんかただの液体が出てきたぞ。
しかし液体の色は、豆を髣髴とさせる暖かなクリーム色だ。
「これは、人間国で生産した豆を材料に作り出した、肉体改造飲料よ!」
肉体改造飲料!?
「人間国は特に潤沢な自然マナが循環しているから、それを吸い取ってマナ総量の高い豆が収穫されるのよ! それを原料に、含有マナを損なわないようにかつ、糖分や油分をできる限りカットして液状化したドリンクが、これ! その名も、プロマメイン!」
シェイカーになみなみ注がれた乳白色の液体。
「豆乳とはまた別物よ! おからと搾り分けた豆乳と違って、豆を丸ごと原料にしているから食物繊維が豊富で健康にいいの!」
「栄養豊富ということで、鍛錬中の兵士などに人気の商品です。粉末状にして取り扱いを容易にしたところ、さらに売り上げが爆増しました」
「摂取する時は水、もしくはミルクに溶かすのよ! 簡単に摂れるのでトレーニングに最適!!」
「売り出し当初は、これを飲めばレタスレートのように強くなれると噂がたって大変なことになりましたね」
「まったくよ、誤認表示とかって立ち入り調査受けて……! こっちはそんな宣伝文句一言もだしてないってのにね!!」
そんなゴタゴタがあったのか……!?
たしかにレタスレートおねえさんぐらいの強さを手に入れられるとなったら毒でも飲むだろうが、そんなうまい話があってなるものか。
一般ユーザーも少し考えてわかれよ。
レタスレートおねえさんほどの大剛力が、ドリンク一つで備わるわけないじゃない。
「ヴィールとコラボして開発したドラゴンエキス配合プロマメインは、それぐらいの効き目あったけどねー」
「あちらは薬事法に引っかかりました」
そんな簡単にドラゴンエキスに手を出しちゃダメですよ……。
「そして最後に魔国原産の豆を利用した商品! 魔族の代表的な特徴、魔法を元に開発された豆、その名は!」
「魔法の豆です」
そのままじゃないですか。
「こちら、どんな食材にも合い、美味しさを何倍にも引き出す素敵な豆となっております」
そういう意味での魔法かよ。
「食卓ではこちらを手放せない……などという有難い感想をいただき、安定した売り上げを叩き出す主力商品となっております」
「私も食事の時はこの魔法の豆を、豆にかけて食べているわ!」
ご飯をおかずにご飯を食う、みたいなことになっている。
「このようにして……我らがレタスレート&ホルコスフォン豆カンパニーはいくつもの商品を世に出してきました」
「それそのものが我が社の歴史でもあるわね」
「正直、ヒットした商品もあればハズレ商品もありましたが」
「3Dバーチャル豆……絶対売れると思ったのに……!」
レタスレートおねえさんたちの歩みにも山あり谷ありがあったようだ。
そして今日の大成がある。
「そして今日、私たちは新しいモデルを取り入れることになるわ。研究中の新商品……その試作が完成したと報告を受けたの!」
えッ?
もしやここまで前振り?
「今回の企画には、我々も大いなる期待を寄せています。時間も資金も大いにつぎ込みましたからね」
「企画がこけたら会社もこける!……という気概で進めているわ!」
マジかよ。
そんな伸るか反るかの勝負仕掛けてるの? ここまで大きな会社に育ったのに?
それは冒険心が迸りすぎていない?
「新商品の研究が進められている第二開発室はここねー!」
「突入しましょうレタスレート」
普通にノックして入ってください。
「視察の話の時間よオラァッ!」
本当に突入していった。
これが社風なのだろうか、絶対入社したくない。
「お待ちしてましたCEO、用意は万端にできております」
室内には見知った顔。
……ってノリト?
またお前か!?
最近行く先々に弟が現れる!?
「げッ兄貴? 最近行く先々に兄貴が現れる!?」
兄弟で同じことを思っていた。
まず本当に何でノリトがここに?
武闘会に敗退したオベローヌさんを慰めに残念解するって言ってたじゃん?
「そっちは無事終わったよ。オベローヌ様は元気を取り戻して、明日からの商売に励むために帰っていかれた! なので今度はこっちへ飛んできたんだよ前々から予定されていた研究の経過報告をレタスレートおばさんにするためにな、ぐほッ!?」
本人の前で『おばさん』発言はさすがに蛮勇すぎる。
そういえばコイツ、レタスレートおねえさんからも資金提供受けていたんだ。
それでここにいるわけか。
コイツも日々を分刻みで生きていやがるな。
「というわけで本日の研究は、このオレが全身全霊を懸けたものです。きっとCEOもお気に入り、爆売れ間違いなしと確信しております!」
「大層な自信ね、もし期待に届かなかったら今まで提供してきた資金は耳を揃えて返してもらうのでそのつもりで」
「肝に銘じております!」
シビアすぎる。
そんなことある?
「では商品のコンセプトから解説させていただきます。追及するのは、豆の新たな可能性!」
また漠然としたことを言いだした。
「豆は、ただ食べ物に収まるのか? いいや、豆の可能性は、そんな小さな枠には収まらない! もっと広く、大きく、豆は様々なものに変わるポテンシャルを秘めている!」
「ほうほう、それで?」
「オレは、模索しました。豆の新たな可能性を! そして発見したのです、新たな工法を。それによって豆は、今までにない姿を現すことになるでしょう。オレの研究、それは……」
ノリト、一拍溜めて、言う。
「豆の武器化です!」