137 神々の宴
そしてついにやって来ました。
海の神ポセイドスに、完成した力作料理を献上するお披露目式が。
『来ましたぞ聖者様』
「今日はよろしくお願いします」
神々を召喚する役割のノーライフキングの先生も現地入り。
大手を振って趣味を活かせるということで、この方も今回かなり得な役どころ。
『神々も報せを受けて、神界で召喚を受けるためにスタンバっているようです。先ほど神託で、召喚希望する神々の名簿を頂きました』
「名簿!?」
どういうことですか!?
今日も召喚されるのって、前来たハデス神とポセイドス神だけなのでは!?
『それがこんな風になっておりまして……』
先生から紙片を受け取り、見る。
そこに列挙される無数の神名。
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地の神陣営より召喚希望者
ハデス。
デメテルセポネ。
ラダマンティス。
アイアコス。
ミーノース。
ネメシス。
タナトス。
ヒュプノス。
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海の神陣営より召喚希望者
ポセイドス。
メドゥーサ。
アンフィトルテ。
トリトン。
オリオン。
ケトス。
クリュサオル。
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「なんかたくさんいる!?」
『いずれも三界神であるハデス、ポセイドスの妻や子どもや家臣や浮気相手やその子どもですのう』
でも何でその妻や子どもや家臣や浮気相手やその子どもやらがワラワラやってくるんですか?
そもそもハデス神とポセイドス神だけの騒ぎだったはずでしょう?
『それだけ聖者様のことが神々の間でも評判になっているということでしょう。とにかく召喚いたしますぞ。エイッ!』
先生が呪文を唱えると、錚々と現われたる面子。
神と呼ばれるものたちが、一挙に十神以上。
ここはどこの神の座か? と思いたくなるぐらい我が農場は神々しいこととなっていた。
『異世界よりの来訪者よ。引き続き大儀である。この世界に存在せぬ知識を伝えてくれる者よ』
いえいえ。
さすがに神様のお望みを無碍にするわけにもいきませんから。
冥神ハデスと海神ポセイドスはお馴染みだが、本日は他の神々も御列席ということで……。
たとえばあちらにいらっしゃる女神二名。
『デメテルセポネちゃん、うぇーい!! 元気してたーッ!?』
『相変わらずアンフィトルテちゃんは元気ねえ。これじゃあポセイドスさんも振り回されて浮気どころじゃないでしょう?』
『んなことないわよー! あのアホ旦那浮気しまくりよー!? ゼウスの大アホほどじゃないけど、一途なハデスさんが羨ましいわー!!』
他の神々も海と地でご無沙汰だったのか旧交を温める和気藹藹ぶり。
我が農場で神々の親睦会が勃発。
「ちょっと待ってよぉーッ!!」
そんな中、俺たち地上の生きとし生ける者チームの中から一人昂然と声を上げる者がいた。
「神々相手に度胸あんな誰だ?」と思って振り向くと、猛抗議とばかりに手を挙げているのは、最近ウチに来たばかりの人族の王女レタスレートちゃん。
人間の王女ならそりゃ度胸あるか。
彼女がプンプン怒って言うには……。
「地の神と海の神が大集合しているのに、なんで私たち人族を守護する天の神様が来ていないのよ!! 我らが人族の守護神、天神ゼウス様は!?」
そういえば三つあるうちの二つが揃って一つ足りないのもしっくりこない。
「ゼウス様に直接お目にかかって、今人族が置かれている窮状を訴えれば、きっと何らかの救いをもたらしてくれるはずだわ! それなのに肝心のゼウス様がいないって何なのよ! 地と海がいて、一番必要な神がいない!!」
レタスレートちゃんはその点を怒っているらしかった。
それに答えて冥神ハデスと海神ポセイドスが言うには……。
『アイツは嫌なヤツだから呼ばなかった』
『左様、楽しい宴がブチ壊しになるので呼ばなかった』
実に率直だった。
『ゼウスは我がままで自己中心的だから、自分が最高の扱いをされないと怒るし、思い通りにならないとすぐ暴れる』
『もしゼウスがこの楽園の存在を知ったら、「自分専用の聖域にする」とか言い出しかねんからな。だからアイツは絶対呼ばない』
二神からは断固たる意志の硬さが感じられた。
「ちっくしょーーーーーーーッッ!!」
それを聞いてレタスレートちゃんは泣きながら走り去っていった。
彼女のことはそっとしておこう。
今日の主役は神々だ。
『はーいはいはい、ちゅーもく!』
とポセイドス神が音頭を取って、神々の注目を集める。
いかにも仕切り屋っぽい性格してそうだもんなあの神。
『本日は、余主催「異世界より海の料理、名物認定式」にお集まりいただきありがとう! 普段なかなか接点のない地の神と海の神の眷族ですが、今日をいい機会と心行くまで楽しんで、親睦を深めてほしい!』
なんかいい具合に司会進行している。
『しかし、本イベントの趣旨を忘れてはいけない! 今日はここにいる偉大な異世界人が、余こと海神ポセイドスの要請を受けて地海に轟き渡る珍味を提供してくれるのだ! 余は、その御馳走を賞味したのち、賛美と栄誉を与えるであろう!』
「あの、グイグイハードルを上げないでください……!」
これマンガだったら、持ち上げてから叩き落とす敗北フラグだよ。
『では異世界人よ、完成した料理を見せてもらおうか!? ん? わかっておるぞ? 完成したという報せを聞いたからやってきたのだからな!?』
「わかってます。わかっていますよ……!」
期待でパンパンに膨らんだポセイドス神に急かされ、俺はとにかく用意しておいた明太子を差し出した。
トウガラシエキスをたっぷり吸いこんで、赤々と輝いております。
「辛子明太子でございます」
『な、何だコレは!?』
さすがの神も、初めて見る辛子明太子の面妖さに戸惑う御様子。
『てっきり魚料理が出てくるのかと思いきや……!? 何なのだこの赤くて細長くてプヨプヨした……? キモッ!? これが何なのか推測することもできんぞ!?』
「ともかく御試食ください」
俺が箸を差し出すので、ポセイドス神は戸惑いながらも受け取り、それをもって明太子を挟む。
『おお……、意外と簡単に切れるな……!?』
この神も箸を上手く使うなー。
『中に詰まった小さな粒々は……、卵か!? 魚の卵が何百何千と塊になっておるのだな』
観察はそれぐらいにして、切り分けた明太子の一切れを口に運ぶ。
『うまあああああああーーーーいッッ!?』
よかった、気に入ってくれた……!
散々ハードルを上げてくれたからフラグ的に逆転敗北とかあるんじゃないかと最後まで不安があったけど、お約束に支配されないこの世界でよかった!!
「ついでに卵取ったあとの魚本体で作ったかまぼこもありますのでお召し上がりください」
お好みで醤油をつけてお召し上がりください。
ワサビも付けたいところですが、わが農場ではまだ生産されておりませんので。
『うまああああああッッ!? こっちもうまああああああッッ!?』
よしやった。
『これは文句なしに合格点! この明太子とかまぼこを、今度こそ神の食物と認定する』
だから乱発よしなされ。
「明太子は単品で味わうよりも、ごはんに付けたりパンに塗ったり、パスタと絡めることでより美味しくなります。どんな食材にでも合うのが辛子明太子の強みなのです」
ウチの農場ではまだパスタ作ってないけど。
「今日は、それらの食材をたくさん用意しましたので、皆さんでお召し上がりください」
『なんという至れり尽くせりな異世界人だ!! 神の名において彼を正式に聖者と認定しよう!! 神々よ飲め騒げ! この聖者を讃え祝うのだ!!』
と狂喜するポセイドス神に触発され、神々が沸き返る。
『私にも! 私にも明太子とやらを!!』
『オレは、ハデス様が散々褒めちぎっていたたけのこご飯が食べたいんだが!!』
『というか全種類食べ尽してやらあ! ジャンジャン持ってこーい!!』
という感じで、神々は皆勝手に美味しいごはんを要求するのだった。
ちょっと待って。
これもしや、俺が全力で神々をもてなす側?