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1375 閑話:同じ釜の飯を食った者たち2

 時はまさに同窓会。


 リテセウスくんの話題で盛り上がっていたその最中、当人が現れた。


 ズドォン!! という轟音と共に。


「うわぁああああッッ!? なんだッ!?」

「転移魔法だぁああああッ!?」

「会場のど真ん中に落ちてくるなあああああッ!!」


 驚きヤジりながらも、ご馳走を避難させたり適切な対処をとる元農場学生たちはさすがだ。

 芯のところではちゃんと冷静。


 濛々と上がる土煙の中から現れたのは人間大統領リテセウスくんと、その妻であるエリンギア。

 二人ともこの農場で学んだ人たちだ。

 ……つまり学生時代からの恋を実らせた。主にエリンギアの方が。


「久しぶり大統領!」

「よッ、大統領!」

「アンタが大統領!」


 早速イジり倒されている。


「もぅー、皆やめてくれよー。私だってやりたくてやってるんじゃないからさぁー」

「本当だろうなッ!」


 胸倉掴む勢いで迫ってくる酔っ払いことワラキナくん。


「本当にそうか!? やりたくてやってるんじゃなきゃ三期当選は無理なんじゃねえか!? 付き合わされるこっちの身にもなってみろ!?」

「だ、大丈夫大丈夫、絶対に今期で引退するから……!」

「それ前期でも言ってたよなあ!」


 顔を合わせるなり大揉めする大統領と副大統領だった。


「いいか、もし四期目も当選したらオレは勝手にやめるからな! 一人で政局を担いやがれ!」

「それダメだ! 一緒に地獄に落ちよう!!」


 グダグダと揉め合う横で、エリンギアがこちらへ来た。


「ご無沙汰しております聖者様、先生」

『うむ』


 極めてスマートな挨拶に、先生が満足げに頷く。


『そつのない所作じゃのう。ぬしも大統領夫人が板についたか』

「だってもう三期目ですよ。嫌でも慣れるものですって」


 そう言ってコロコロ笑う仕草は、農場にいた頃のかわいらしさのままだ。


 思えば農場で学んでいた当時は、典型的なツンデレでリテセウスくんを翻弄していたものだ。

 それだけじゃなく入学したての時期は『魔族最強!』などとわかりやすくエリート意識に凝り固まっていたしなあ。

 わかりやすい“ざまぁ”され体質でもあった。


 それが今では大統領夫人として夫を支える日々。

 ……でいいのか?


「おー、エリンギアー久しぶりー!」

「シリちゃんテクとんおひさー!」


 と旧交を温め合う者たち。

 エリンギアは元々魔族なので、魔族の卒業生とも関わり深い。


「いつ以来だっけ? 結婚式ぶり?」

「いやいや、こないだ魔都に表敬訪問した時に会ったでしょうよ? もう記憶力に衰え?」

「コイツもクソ忙しいんだからしょうがないでしょ? 大統領夫人なのに外務大臣みたいな立場についているから、些細な出来事なんて記憶野から流れていくって」

「毎日が戦場みたいなもんだろうからねー」


 何とそうなのか?

 エリンギアは魔族でありながら人間大統領リテセウスの下へ嫁入りし、魔国との懸け橋にもってこいな立ち位置にいる。

 そりゃ自然と忙しくなるだろう。


「エリンギアってば学生の頃は『魔王軍の頂点に立つ!』って言ってたのに、気づけば真っ先に退役してるんだもん」

「ホント次に何するか予想できないヤツだよねー。魔王軍にいた頃は一番人族を見下してたくせに、その人族のリテセウスくんに一目ぼれしちゃうんだからー」


 えッ? そうだったの?


「その話はいいじゃない! もうッ!!」

「今は大統領夫人として人族の代表になったエリンギアちゃんにカンパーイ」


 いい感じに元同僚たちにあしらわれている大統領夫人だった。


 その間も腹心と大揉めに揉めていたリテセウスくんがやっと話をまとめたようだ。


「行くぞ! 四期落選! 四期落選!! 四期落選ッッ!!」

「そもそも立候補するなッ!」


 そして僕らの方へ挨拶に向かってくる。


「ご無沙汰しております聖者様、先生」


 こないだ定例会議で会ったがな。


『彼も記憶が滑り流れておりますのう』


 彼こそが多忙の主体なんだからしゃあない。


 リテセウスくんが若くして頑張ってくれたおかげで、今日の人間国の発展があるんだ。


 彼はこの農場国にいた時代から麒麟児で通っていたが、卒業後も目覚ましい成長を止めずに大統領就任後したたかな駆け引きを覚えた。

 そのお陰で世界が動くたびに人間国へ利益が入るように振る舞ってきた。


 今日の人間国の発展があるのはリテセウスくんの存在あってのものと否定しようがない。


『そなたの活躍は毎日のように我が耳に届いておる。ワシもそなたに教えた者として鼻が高いぞ』

「いいえ、先生に教えていただいたから今日の私がいるんです! 先生への感謝はいつだって忘れません!」


 ここまで偉い立場になっても慎みを忘れない。

 やはりリテセウスくんはこれからも人間国を引っ張っていくべき存在であろう。


「……あッ、そういえば聖者様」


 ん? どうした?


「こないだウチに来ましたよジュニアくん。大きくなりましたね」


 なんだとぉおおおおおおおおおおおおッッ!?

 貴様、何故それを早く言わない!?


 こちとら修行に旅する息子を案じない日はないというのに!

 そんな親に、息子の様子を伝えないなんて意地悪ができるのか!

 おおッ!?


「い、いやヴィール様も一緒にいましたから、ヴィール様から聞いてないんですか?」


 知らないが!?


 そういやアイツ一旦人間国に行ってたな! そのあと何も話聞いてねえ!

 あのドラゴン、ジュニアとの思い出を独り占めしやがって明日のおやつ抜きにするぞ!!


「ジュニアくんは本当に大人になりましたね。ただ大きくなっただけじゃなくていい判断ができるようになりました。たくさんの人を思いやって頭の回転も速いし……!」


 そうだろうそうだろう!

 もっとうちの息子を褒めてくれてもいいんだぞ!


「ギルドマスターのシルバーウルフさんも褒めていましたよ。何かギルドでたくさんの女性にモテてたらしいですよ。王城でも誰かホレさせてたみたいだし、やっぱり優秀ですねジュニアくんは」


 なにぃいいいいいいッ!?

 それは知らんぞ!?


 ウチの息子をたぶらかそうなんて、世間にはなんて悪い女が目白押しなんだ!?


「いや……アナタの息子さんの方がたぶらかしてるんじゃ? あ、それよりも先生……」


 急に話題を変えるな!?

 というかコイツ自身も知らない間に女性からホレられるラノベ主人公体質だった!!


 本当に主人公体質のヤツらときたら!!


「今先生のところにいる学生で、将来人間国に仕えてくれそうな優秀な人材はいませんか?」

『おお、おるよネヨーテくんというてな。ルキフ・フォカレ殿の推薦を受けて見させてもらったんだが、なるほど見込みある少年でのう』

「魔国宰相から推薦を受けたんですか? 人族なのに?

『なにやらいい縁があったようじゃ』


 やはりリテセウスくん……抜け目ない……!


 ああやって優秀な人材を確保し、人間国の安定を目指していくんだろうな。

 やっぱり四期目狙ってるんじゃないだろうか。


『……こうして実際に目にしてみると、満足感があるのう』


 先生、しみじみと言う。


『ワシの教えた子たちが実力を身に着け、世界の役に立ち、みずからも幸せになれるように実社会で活躍している。……ワシにとってこれほど幸福な出来事はない……!』


 先生の周囲に光が集まり始めた。

 その体がキラキラと輝いて、その光の中に先生が消えていくかのようだ。


 まさか……!?


『よぉーし、やる気になってきた!! これからも益々教育指導に力を注ぎますぞぉー!!』


 光の中からリフレッシュした先生が現れた。


 ……先生、そのウソ成仏ネタ金輪際やめてください。

 こっちの心臓に悪いので。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
リセテウスはネヨーテを知ってるはずです。 オークボ城の時に声をかけ、その後は先生のところで学んでます。 どういうこと?
先生そのうち冗談で浮遊しだしそうw
温泉に入れば若返るくらいには謎存在だし……
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