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136 赤い宝石

『海の素材で美味しいものを作れ』


 というオーダーを神から頂きました。


 無茶振り課題を食らうグルメ漫画の主人公ってこんな心境なのかとも思ったが、グルメ漫画だったら、もっと無茶な課題出されるところだろうから、まだ易しい方か。


『海産物なら何でもいい』ってかなり自由度高いしな。


 相手は神という、基本逆らってはいけない相手。

 加えて課題をクリアしたら報酬として何か神的にいいものをくれるということらしいので、一つ素直に頑張ってみるとしよう。


              *    *    *


 それから数日。


「う~む……ッ!?」


 俺は農作業の合間に台所を訪れては、悩み唸るを繰り返していた。


 神様たちはとっくにお帰りになって、俺の作る料理が完成するまで待機中。

 だってポセイドス神が……。


『いいか! ただの料理ではない! これ以上ない最高の海の料理を作ってまいれ!! たけのこご飯やグリーンピースご飯を遥かに凌駕する料理! ハデスのヤツがぐうの音も出ないほどギャフンという料理を作るのだ!!』


 やたらハードルを上げてくるので、その分の猶予を頂いた。

 あと、ぐうの音も出ないのにギャフンが出るのはどうなのか。


 やはり神だけあって時間の概念が異なるのか、明確な期限が示されなかったのは助かるのだが……。


「う~~む……ッ!?」


 実際に取り掛かってみると、意外に難航した。


 今回のお題、海産物。

 海産物といえば代表的なのは魚。


 その魚を使って料理すればいいじゃん、と最初は思ったのだが、魚料理で思いつくものといえば焼き魚、煮魚、刺身。


 これらの調理法では……。


「簡単すぎる気がする」


 クライアントたるポセイドス神は、やたらとハードルを上げて期待感膨らましまくりのため、それこそ生半可な料理では満足してくれないかもしれない。


 料理の良し悪しなんて所詮受け手の気分次第だからな。

『美味しいものが出てきて当たり前』の心理からキッチリ『美味い!!』と言わせるのはかなりの高難易度ではないのか。


 そして忘れてはいけない。


 先に神を唸らせたたけのこご飯、グリーンピースご飯。

 それらはたしかに大地の実りの農産物。

 しかしその大元たるたけのこやグリーンピース、さらにお米は、俺が元いた異世界の品種であるということ。


 それを忘れてはいけない。


 俺が前いた世界は、ここより遥かに文明も進み、農産物だって何十世代にもわたる品種改良によって、味なり見た目なりが改善された代物だということだ。


 俺は『至高の担い手』の効果で、それらを簡単に土から生やしているわけだが、その有難味を絶対忘れるなって感じ。


 たけのこご飯やグリーンピースご飯の神絶賛の味は、この作物たちの進んだ品種クオリティに支えられるところ大。


 対して、ここで調理される魚は元からこの世界のもの。

 素材ブーストはかかっていない。

 その上で神に認められる味を出すとしたら、調理法にウエイトを掛ける以外に手立てはない。


 それなのに、思いつく調理法と言えば焼き魚とか刺身とか。

 どちらかといえば素材の味を活かす系。

 実際には板前さんの匠の技とかがあって『至高の担い手』で再現可能かもしれないが。


 どうせならこちらの世界の人……、もとい神たちが「あっ」と驚くような奇抜な調理法で攻めてみたい。

 それでこそ異世界人の面目躍如ではないか。


 というわけで、アイデアを求めて台所で試しに魚を捌いてみる。


 魚自体はこないだオークボたちが船で漁してきたのがたくさんあるのでサンプルは豊富。

 冷凍していくらでも長期保存できるし、その辺『凍寒の魔女』と呼ばれるパッファが冷凍庫を改良してくれた賜物だ。


 そうして解凍した魚の腹を割いて、ワタを取り出したところ……。


「ん……?」


 あるものを発見して、いいことを思いついた。


              *    *    *


 俺がお魚さんの腹の中から着目したもの。

 それはこれ。


 卵巣。


 出産前だったのか卵でギッチギチに詰まったそれは、即座にあるものを、俺の思い出させた。


 早速その卵巣を塩漬けにして出来るのが……。


 たらこ!


 異世界なればたらこの味など知る由もあるまい!

 しかし相手は神。

 決して甘く見てはいけない相手。詰めを甘くして勝利を逃すことがないようもうひと押し加える。


 出来上がったたらこをさらに、トウガラシをメインにした漬け汁に漬け、辛味と旨味をたっぷり吸収して出来上がったのが……。


 たらこ進化!


 辛子明太子!!


 赤く鮮烈、透明な輝き。

 薄い膜のうちに無数の粒々した卵が独特の歯ごたえを持ちつつ、ピリッとした辛味を含んで、これでしか味わえない感覚があります。


 その存在はまさに海の赤いダイヤモンド!!


「よっしゃ上手くできた!!」


 ここまでかなり簡単に行ったような語り調だったが、実際には何度も失敗を繰り返して、時間もかかっております。


 特に辛子明太子の漬け込み液は完全に手探り状態で、プラティやガラ・ルファ、それにパッファの協力でやっとなんとかなった。


 幸いにも、オークボたちの取ってきた魚の中でもっとも多い種類が、たくさんの卵を孕んでいて大量生産可能。


 俺が元いた世界で言うスケトウダラに近い品種で、プラティの言うところではこちらの世界では溢れかえっている魚らしい。

 ならばいい巡り合わせ、ということでジャンジャン辛子明太子を製造だ!

 我が農場の新名物誕生だぞ!


 ……残った魚の身の方は、かまぼこにして美味しくいただきました。

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[一言] イクラかと思ったらタラコかよw
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