1367 ジュニアの冒険:苦労人進化
人材じゃなくて不正ばっかり見つける結果になってしまった。
とりあえず気疲れして座り込む僕たち。
「徒労感が凄い……!」
いや、不正が摘発されるのはいいことなので徒労ではないが……。
「私は別の意味で疲弊しているが……こんなにも不正が蔓延しているとは……慙愧に堪えぬ……!」
ルキフ・フォカレさんがやつれていた。
無理もない、自分の管轄内で不正が起きてるんだから有能かつ真面目な人ほど責任を感じるものだ。
でもルキフ・フォカレさんほどの名宰相の舌でも不正って起こるものなんだなあ。
「いや、逆にルキフ・フォカレ卿がいるからこそ……ではないか?」
「何を仰います殿下!?」
唐突な批判に揺らぐルキフ・フォカレさん。
「これまでも感じてきたことだ。ルキフ・フォカレ卿は優秀な官吏だ。それこそ歴史に残るほどのな。だからこそ彼一人で何でも片付いてしまい下の者に苦労が下くることはなかった。……つまり、ぬるま湯だな」
なるほどゴティア魔王子の言うことにも一理ある。
ルキフ・フォカレさん一強の下で安定した運営ができていた魔国の内政は、他の者にとってイージーな環境であり、向上の機会を失ってしまっていた。
そんな環境では自律心も緩み、不正に手を出してしまうことにも抵抗がなくなってしまうのかもしれない。
「そのようなことが……」
「優れた個人がいることによって組織が濁ってしまうのは皮肉なことだ」
まあ、どっちが間違っているとかいう話でもないんだろうなあ。
大変な時代を乗り越えられたのはルキフ・フォカレさんが頑張ったからだし、その功績が否定されるわけでもない。
「なんということだ……私が頑張ったがために魔国が弛緩してしまったというのか。そんな状況では益々引退などできぬ……! 私が去った瞬間に潰れるではないか……!」
うーんジレンマ発生。
これではルキフ・フォカレさんが可哀想だ。やっぱり腐敗の原因に彼が絡んでいるなんて何かの間違いじゃないのかなあ?
「我もそう思いたいところだが、軍部の方ではまったく不正がないのを鑑みるとなあ。政務はルキフ・フォカレ卿の領分だし」
……ホントに?
軍部はクリーンなんて、ただ発覚していないだけでは?
ザーガくんの件もあるじゃないか。
「ザーガは、ウェーゴに所属しているだけだろう? 結局違法組織じゃなかったのだし、さすればつまるところはプライベートでのことだ」
ウェーゴのことは、そういう感じに着地したんだ。
実の弟が立ち上げた組織なんでギルティ認定されなかったのは非常によかったが。
所属しているメンバーたちはどうなんだろ?
例えば今話題に出たザーガくんとか、ほぼ魔王軍を脱退みたいに出ていったからなあ。
……魔王軍にちゃんと戻れるんだろうか?
そんなことを愚にもつかずに考えていると……。
「ルキフ・フォカレ卿……ここにおりましたか」
誰か来た。
魔軍司令のマモルさんではないか。先日魔王軍を訪れた時に会ったから知っている。
「マモル卿! 何事か!?」
「なんか不正を行った者とか何人も収監されたので何事かと……あと大魔王様とウチの舅もいましたので……私では手に余るんで釈放してもいいですかね?」
「ああ、衛兵は魔王軍の管轄だしなー……」
それで魔王軍のトップみずから来たのか。
誰かに任せればいいのに苦労性だなあ。
「……」
そんなマモルさんのことを凝視するルキフ・フォカレさん。
どうしたんだ、そんなに食い入るように見て。
「……そうか、卿がいたか」
「はい?」
「軍部は不正がないのだったな。それで充分能力の高さは証明できる……」
一人ブツブツ呟くルキフ・フォカレさん。
そして意を決したように言う。
「マモル卿!」
「……なんですか?」
「魔国宰相になる気はないか!?」
「はぁあああああああああああああああああッッ!?」
電撃打診。
マモルさん、魔国宰相就任おめでとう。
「待って待って待ってください!? 私が宰相に!? なんかの間違いでは!?」
「間違いなどではない! 貴殿ならば務まるだろうと確信してのことだ!」
「務まりません! 務まりませんよ! そもそもよく考えてください! 私は既に魔軍司令なんですが!!」
そうだった。
既に魔王軍のトップという重責にあるマモルさんであった。
「兼任すればいいではないか」
「できるかぁッ!?」
サラッととんでもない提案をする。
「軍のトップと内政のトップを兼任なんて、それほぼ国内掌握してるじゃないですか! できるわけがないし許されるわけがない!」
「ほぼ魔王の権力と拮抗するよな」
色々大きすぎるものを背負わされようとするマモルさん。
「マモル卿、貴殿はこれまでも多くの苦労を重ねて、その成果として地位を得てきた。それらの集大成が成ったというだけだ」
「そんな集大成望んでいませんが!?」
僕らもマモルさんの苦労を讃えていきたいと思ったが、さすがにこのまま進んで魔軍司令兼魔国宰相のスペシャル管理職が実現してしまう。
さすがにそんな役職についたらマモルさんの苦労が致死量に達してしまうと止めた。
「待ってください! さすがに無理ですって!」
「そうだぞ、内政と軍事の同時掌握なんて常人には不可能だ、多分!」
しかし、しかしマモルさんほどの苦労人力なら……!
と心の内側からくる誘惑を断ち切る。
「ぬう……行けると思ったんだが……」
いけませんよ。
動揺する気持ちはわかりますが冷静さを保ってください。
「はあ……、ルキフ・フォカレ様もついに後任探しですか?」
ただいま最大限の苦労を背負わされる危機を脱したマモルさんが、ため息交じりに言う。
「いつか来ると思っていましたよ。ルキフ・フォカレ様は一人で背負い込みますから人材が育たないというのも納得できます」
「卿も気をつけるんだぞ」
「……ッ!?」
ゴティア魔王子の何気ないマモルさんに突き刺さった。
「ゴホン……では僭越ながらこの私が、見込みのあるものを何人か紹介させていただきましょう」
「なんと!?」
「言ったでしょう、こういう日が来ると思っていたと。僭越ながらかねてよりピックアップしていたのですよ」
マモルさん!
そんな助かることを兼ねてから準備していたなんて!
やっぱり頼りになる人だ!!
「なんという細やかな気遣い。何手も先を読む見識の高さ。やはり貴殿こそ次の魔国宰相に……!」
「それはやめましょうね!!」
あるいは責任から逃れるために必死なのかもしれない。
「どっちにしろ私は新人の頃から軍部一筋。それでいて今は魔軍司令という大任を任せていただいています。正直器じゃないと思っていますし、現状の職務をこなすので精一杯です。なのでこれ以上は手が回りません、ご容赦ください」
「かーらーのー?」
「ありませんて」
ウザい絡みを一瞬で断ち切る。
さすが魔軍司令だ。
「とは言っても、私の選りすぐりの人材を急に招集するのは無理ですし、三日ほど待ってくれませんか。本物の後任候補をお見せしますよ」
そう言ってマモルさんは去っていった。
「……苦労のかわし方が上手くなったな」
ルキフ・フォカレさんが一言漏らした。
ならばということでその場は解散になったが、ゴティア魔王子はもの足りないからと言ってあと何件か不正を見つけ出して摘発していた。
あの人はとりあえず歩けば不正を見つける特技でも修得しているのか?
僕も乗り掛かった舟だし、マモルさんが準備を終える三日目まで魔国に滞在してみることにした。
そして三日後。
約束の場所に現れた者たちは……!






