1360 ジュニアの冒険:大抵の陰キャは陽キャが自称している
「ウェーイ、ウェーイ!」
「「「「「ウェーイ、ウェーイ!」」」」」
「ウェイウェイウェイウェイ!!」
「「「「「ウェイウェイウェイウェイ!!」」」」」
共鳴している……!?
ウチの次弟と、その取り巻きたちがウェイウェイと鳴りあって、非常にやかましい。
何だそのウェイとかいう鳴き声は?
お前たちの習性なのか?
虫とか鳥とかでそういうのあったろう?
「何を言う、これが陽キャの儀式だろう」
ようきゃ!?
「そう、いつも多人数で群れて騒ぎ、今を楽しみ不安などなく、お気楽極楽に過ごす者たち! それが陽キャ!」
なんだろう、弟の解説にそこはかとない険を感じるのは?
「オレたちは陰キャだ! 世の中の窮屈さに抑えられて、みずから飛び立つこともできず、輝くこともできない! 暗く押し込められた陰キャだった! しかし、それらをいつまでも許容し続けなければいけないわけではない!」
「そうだそうだ!」「さすがはエヌ様!!」
周囲の信奉者たちが適度に相槌を打ってくるのが、さらにノリトの語りやすさを誘っている。
「オレが陰キャであることの最大の要因は兄貴、アンタだ!!」
ええ? 僕!?
「そうだ! オヤジの能力を受け継いで。オレの劣等感を刺激するアンタが、オレの陰を深めてきた」
僻みが過ぎると思うんだけど!?
「オレは思った、このままではずっとオレは兄貴の陰だ! その立場を脱するためにはオレ自身の努力で兄貴を超えるしかない! だからオレは努力した! 頑張った!!」
ぐ……具体的には?
「先生に習って勉強したり、ヴィールに挑戦したり、あと世界中を回って武者修行したり……」
それ最後の、今まさに僕がやってるヤツ。
ノリトは、弟でありながら僕の先を言っているということなのか?
「コイツらとはその旅先で会ったんだ」
と周囲を見回すノリト。
彼の回りには幹部の六聖拳どころか、その何倍の数の仲間たちに囲まれている。
「世の中を巡って実感したが、オレと同じように息苦しく感じているヤツは意外と大勢いるんだな。同類だと思うとどうにも放っておけなくなる。話を聞いているうちに仲良くなり、そういうことが何度もあって人数も増えていった」
その成れの果てがコレであると……?
ノリトを中心に形成された社会に息苦しさを感じる者……陰キャ? とやらの集団。
それがウェーゴ。
「オレたちは社会のしがらみから離れ、自分らしさを取り戻し、自由を手に入れた!」
「それがウェーゴという組織!」
「オレたちが自分らしくいられる場所を築いてくれた! それこそがエヌ様の偉業であり、オレたちへの大恩!」
「この居心地のいい場所を守るため、エヌ様への感謝のためにオレたちは全力を尽くす!!」
改めてエヌ様=ウチのノリトね。
「う~ん青臭い。十代じゃなきゃ吐けないセリフのオンパレードをよくまあここまで……」
傍でレタスレートおねえさんが酸っぱい顔になっていた。
そのためにノリトはこんな場所に仲間を集めて、一大ベストプレイスを築き上げてきたと。
……ん? というか待て?
ここは一体どこなんだ?
話の流れから察するにノリトが勝手に占拠した空間なのか?
地主的な人から怒られたりしない?
「あら、気づかない?」
何をですかレタスレートおねえさん?
「ここ、農場国の一部よ」
えええええええええええええッッ!?
知らないですけれど!?
僕、農場国の後継者として父さんの仕事もそこそこ手伝い、自国だって見回ってるんだけど、このようなエリア知らないぞ。
「まあ仕方ないんじゃない。農場国もまだまだ発展中で手つかずの区画だってクソほどあるんだし」
「いまだ開拓中だよな」
なにぃ、するってーと……!
ノリトが農場国の土地を使えるというなら根拠はある。
何しろ父さんの息子なのだから。
父さんは曲がりなりにも農場国の王、キング!
当人はそう呼ばれるのを避けたがるけれど……!
その次男たるノリトは、いわば第二王子。
そんな立場のヤツだから、それはもう多少の我がままくらい通るであろう。
国内の土地だって、よっぽどの無茶を言わなきゃ自由にできるに違いない。
辺鄙な場所の、それほど重要でない土地ぐらいなら。
しかし待てノリト。
国内の土地は皆のもので、決して王様やその家族の所有物じゃないぞ!
どんなに辺鄙なところだろうと王子様の我がままで好きにしていいわけがない!
「はあ、何言ってるんだ兄貴?」
しかし指摘を受けてもノリトは動じる様子もない。
「この土地は、正式に契約結んでオヤジからリースしてもらっているんだが?」
リース?
借りてるの!?
「そうだよ、賃料もしっかり払ってるよ」
身内なのにしっかりしている!?
しかし待て、さらに待て!
賃料って言うとアレだぞ、お金を払うってことだぞ!
それがわかっているのかノリト!?
お金と言うのは虚空から湧き出すものではないんだぞ!?
そんなお金をどこから出しているという!?
まさか母さん辺りからせびってるんじゃないだろうな!?
「オフクロがそんな甘いと思う?」
……。
そうだな、勢いで口を衝いたとはいえ、ありそうもない詮無いことを言ってしまった。
では益々、アナタのお金はどこから?
「自分たちで稼いで……だけども」
なんだとう!?
「周りを見てわからないのかよ? 周囲、畑だろう? 畑は野菜を育てるためのものだ。育ち切った野菜はどうなる?」
そりゃあ収穫して……皆で美味しく食べる?
「出荷するんだよ。農場国に買い取ってもらって、地代は代金から差っ引いている。それでも手元にはそこそこ残るからそれが組織の運営費だな」
なんだってぇえええええッッ!?
この弟、身内相手にしっかり商売を成り立たせている!?
いや、身内だから多少手心を加えてもらっているのか?
……いや、それこそないか。
父さんならともかく、母さんが関わっていれば確実にそんな身内びいきが巻き起こるはずもない。
何故ならそれが母さんなのだから。
「それだけじゃないわよ」
補足するかのようにレタスレートおねえさんが言う。
「コイツらはただ野菜を育てるんじゃなくて……、効率よく、安定して、普通よりもたくさん収穫できる、それでいて出来上がった野菜も美味しくなる方法を模索してるのよ」
それはつまり……。
新たなる農法の研究?
「そもそも最初からそういう触れ込みで親と交渉したみたいだしね。『オレが今より数段いいやり方を編み出してやるから土地寄こせ!』って」
そんなこと父さんたちと話していたのノリトは!?
僕そんなの全々々然知らなかった!?
「セージャも息子可愛さのダメ元で許可したようだけど、結果的にノリトの研究は大成し、農場国全体の育成効率が七〇パーセントアップ(前年比)したんですって」
詐欺を疑うほどの劇的な数字!?
「コイツのちゃっかりしたところは、そこでとどまらずに今度はその成果でもって私の方に交渉を仕掛けてきたってこと。さらなる農業効率化に、豆の育成へ焦点を絞るから出資しろとか言い出したのよ」
ノリトさん!?
身内だけでなく、知り合いとはいえ大社長を向こうに回してのタフネゴシエート!?
だからレタスレートおねえさん、ここに関わってくるの!?
「我が社としても愛する豆の安定育成は最優先事項なの。そこに突っ込んでくる果敢さに感心したということね。まあセージャとプラティの息子だと認めてやらんこともないわ」
「オレにとっちゃ横道さ。兄貴を超える路上で、余計なヤツらが絡んでくるから、コイツらか買えるのに先立つものがないと仕方ねえって話なだけさ」
照れくさそうにそっぽ向いて話すノリト。
ツンデレか。
「エヌ様!」
「ありがとうございますエヌ様!!」
「オレたち一生ついていきます!」
そんなノリトを囲んで盛り上げる組織の仲間たち。
彼らの心が、この場に手一つになっていた。






