1359 ジュニアの冒険:次男登場
ノリト!
我が弟よ!
僕が生まれた聖者家は、今ではけっこうな子だくさん。
ベビーブームの際に生を受けた三男ショウタロウのあとも父母は弟妹をガンガンとこさえた。
その中で長男の立場にあるのがこの僕ジュニアだ。
そしてそのあとに続く次男があのノリト。
その名の由来は、父さんの昔の名にちなんでいるとかいないとか。
長男と次男。
もっとも近い兄弟として僕らはもっとも長い時間を一緒に過ごした気がする。
でも最近はそうでもないような……。
「兄貴!? 一体なんでここにいるんだ!? ここはオレのシマだぞ!」
「知らないよ! 僕はそこの人たちに連れてこられただけなんだから! ここが何処かすら知らないよ!」
シマ!?
どういうこと、ノリトは自分の領域展開したってことか!?
いや違うか。
「さて、ここまでくればアンタたちもわかるでしょうよ。問題の人物……エヌとは誰か?」
はい、わかります。
ここまでハッキリとこの目で見せられては、余程の鈍感主人公でもない限りわかります。
「ノリトこそが……エヌ様だった!」
「私がエヌです」
……どうした?
急に自認しだして? こっちが確定的に指摘したところだが?
「いや、なんか言わなきゃならないような気が漠然としてきて……」
?
かねてからのことだが、唐突に意味不明なことを呟き出すのが癖なんだよな、この弟は。
しかしながら……、エヌ様の正体が我が弟ノリトだとわかると色々なことが腑に落ちる。
彼の率いる組織ウェーゴの幹部たちが“農場”六聖拳を名乗っていること。
さらにその六聖拳の面々が鍛え上げた技が、ことごとく僕の『究極の担い手』のメタを張ってくること。
ずっと何故だったことがすべて当然のことに氷解する。
ノリトだって聖者の実の息子……立派な農場関係者だ。
そのノリトが農場の名を使って何らおかしなことはない。
そしてアイツの部下たちが、あたかも僕の『究極の担い手』を狙い撃ちするかのように適切な対応策をとってくるのも当然のこと。
だって僕のすぐ下の弟であるノリトは、僕の手の内を知り尽くしているのだから。
場合によっては父さん母さんより知り抜いているかもしれない。
そんなノリトであれば一見無敵の『究極の担い手』そして農場神拳も、攻略法の一つや二つや三つや四つ、思いつけるに違いないのだ。
だからここまでのことすべてが筋が通った……。
……と思ったが。
いや、やっぱり筋が通らないぞ。
「腑に落ちたけど腑に落ちない!」
「どっちだよ?」
だってそうじゃないか!
ノリトは僕の可愛い弟だ! 幼い頃から一緒に遊んで仲よしだったんだぞ!
そんなノリトが、僕の能力を封じるような技を開発して、仲間に教えるなんてありえない!
そもそもエヌ様とやらは、世界に仇なす秘密組織ウェーゴのトップ指導者なんだろう!
それこそありえないじゃないか!
ノリとはそんな悪いヤツじゃないやい!
「……何言ってんだ、この兄貴は?」
なんでそんな呆れかえった目で見つめてくる? この兄を?
やめるんだ、その視線は僕に効く!
「ちょっとシマを留守にしてたら、一体何をしてやがった……?」
ノリトはその視線を横へと回す。
目が向く先は、例の六聖拳の五人だった。
五人は特に後ろめたい風もなく……。
「エヌ様! 我ら五人、宿敵ジュニアに天誅を下さんと!」
「一致団結して挑んでおりました!」
「我らが雄姿をとくとご覧ください!」
そこまで言われると、ノリトはまた濃厚そうなため息をついて……。
「そういうことか」
すべてを察したようだ。
さすが我が弟、察しがいい。
「んで結果は?」
「うぐッ!」
「答えてもらうまでもねえ。全員返り討ちにあったんだろう? 全滅の惨敗だ」
「「「「「うぐうぐうぐッ!?」」」」」
図星を突かれる音がした。
息を飲んで、呼吸が一瞬止まる音。
「当たり前だ、農場聖拳はまだまだ未完成。兄貴を追い詰めるまではできても押し切るには一歩足りねえ。……いや、まだ二歩も三歩も足りねえか」
たしかに結果は、ノリトの推測に即していた。
言われるほどに小さく縮こまる五人だった。
「オレに断りなく兄貴にケンカを売るとはな、しかも本拠地にまで招き入れて……。いくらなんでも勝手が過ぎるぜ」
「「「「「す、すみません!!」」」」」
「ま、お前らに采配を預けたオレの責任だ。それに、どう転んだにしろ結果が伴えばデータとして蓄積できる。あとでしっかり反省会をするぞ」
「「「「「はいッ!!」」」」」
独断専行を注意しつつも、しっかりフォローして仲間の士気を下げない。
指導者として理想的なムーブだ。
「ううむ……なんだか魔王子として焦燥感を感じるな……!」
僕も同じものを感じるべきなんだろうなあ。
で、ででででもまだ最初の疑問に答えれてないぞ!
僕の弟のノリトが、どうして僕と敵対するような真似をしているんだ!?
どうにかしてアイツの意に沿わない行動を……?
まさか、家族を人質に取られて!?
あるいは洗脳? 催眠?
「自分じゃ気づけねえか兄貴……?」
なんだって?
「仕方ねえな、ハッキリ言わなきゃわからないか。オレはな、アンタのことをずっと疎んじていたんだ」
なんだってェエエッ!?
「考えてもみろよ、アンタはオヤジから、これ以上ないものを継承した。『至高の担い手』に準ずる『究極の担い手』をな」
それは……、まあ、そうだけども?
「それに対してオレは? オレは何も受け継がなかった。『至高の担い手』の欠片すらも。オレは持たざる者だ、アンタと違ってな。そんなオレがアンタに嫉妬しないとでも思ったのか!?」
それは……ッ!?
でもでも、父さんも母さんもそんなことに関わりなく平等に愛情を注いでくれたじゃないか。
僕にもお前にも、他の兄弟にも。
「そうかもな、たしかにオヤジにもオフクロにも思うことは何もねえ。しかし、オレも男として独り立ちするほどにアンタとの決定的な差を意識しちまう、否が応でもな」
そんな……!
弟がそんな悩みを抱えていたなんて……!
「だからオレは、自分で自分の価値を探し出さなきゃならなかったのさ! それでもってアンタを超える! アンタを乗り越えて初めて、オレは自分を示すことができるんだ!」
「さすがですエヌ様!」「カッコいいです!」「それでこそ我らのトップ!」
周囲からやんやの喝さい。
ここにいるのはノリトを慕って集まったノリトシンパの団体。
いわばホームだ。
翻って僕のアウェイ。
心細い。
「兄弟だからといって互いに張り合う気持ちはあるもの。それは同じ兄弟を持つ身として我にもわかる」
ゴティア魔王子!
この人だけが僕サイドにいてくれる!
ゴティア魔王子がこんなに頼もしく思えたのは初めてだ!!
「だが、それと秘密組織ウェーゴに何の関係がある? 特にないように思えるが?」
「……同類相哀れむというヤツさ」
ノリトが静かに答えた。
「コンプレックスを持ってるヤツは世界にオレ一人だけじゃねえ。誰でも何かしら飲み込めないものを抱えているものさ」
「わかる! わかるぞ!」
……ゴティア魔王子?
「気づいたらオレの下にそういうヤツらが何人も集まってきてな。ただゾロゾロ人が屯ってるだけじゃ具合が悪い。だから名前でもつければピッと引き締まると思ってな」
「そしてつけた名前がウェーゴだぜ!」
つまりウェーゴとは……。
ノリトを中心に集まった自然発生的な集団!?
「暗いことなんてはねのけてウェイウェイ騒ごうぜ……そういう意味を込めてつけた名前が、ウェーゴだ!!」






