1352 ジュニアの冒険:オレのトマトが真っ赤に燃える
おい。
まずキッチリ数を揃えてからやれや農場六聖拳。
なのに五人。
一人足りないじゃないか!
どこに行った、遅刻か!?
だったら遅延証明書貰ってこいって伝えておけ!!
「ふッ、慌てるな。今席を外しておられるのは農場六聖拳・最後の将。我らの中でもっとも強く、もっとも賢い」
「我らが束になっても敵わぬ、恐ろしい御方だ」
「そんな最後の将が出張らずとも、お前たちの始末など我ら五人で充分」
「予告しよう、お前は最後の将を見ることなく我らに叩き潰されると!」
問題はそこじゃない。
既にキミら、エヌ様とかいうラスボスを謎の存在として置いているのに、さらに似たような存在を作るな!
重複すると互いの存在が希薄化するじゃないか!
「ふっふっふ、それだけ我らウェーゴの組織力が厚いということだ」
物は言いよう!
「安心しろ、今目の前にいる我ら五人を倒せば、いずれも姿を現すことになろう」
「ま、そんな事態は万に一つも起らぬがな!!」
ぬぐぐぐ……、ヤツらめ余裕見せつけやがって。
というかそんなに僕らは戦う運命なの?
僕がキミらに何をしたというの?
宿命か何かあるの!?
どうなの!?
「ではまず、私から当たらせてもらうとしよう」
と身を乗り出したのはリルレイさん。
僕らをここまで連れてきた彼が一番手なのか。
「当然だ。真っ先にお前を叩き潰す権利を求めて煩わしい雑用を買って出たのだからな。さあ、一方的な殺戮ショーを始めようではないか!!」
リルレイさんは上着を脱ぎ捨てると、上半身裸となってさらに進み出てくる。
なんで上裸?
「わからんのかジュニア殿、それが拳法家のたしなみというものだ!」
知らんけど!?
局地的な常識を語らんでくださいますか!?
「ふっふっふ、我が農場闘魔斗拳の恐ろしさをみせてくれよう! ずりゃわぁあああああああああああッッ!!」
気合一喝。
と共にリルレイさんの身体が燃え上がった。
全身が真っ赤に赤熱する。
さながら熟れたトマトのように。
……ゆえに農場闘魔斗拳!?
「農場聖拳は、お前の農場神拳を破るために編み出された拳法!『究極の担い手』を攻略するため、様々な方法を考案研究してきた」
「そうか、方法論が多いために農場聖拳には様々な分派があるのだな!」
「さすが魔王子、察しがいいな」
互いに理解を深めるな。
「数多くの分派が生まれた中で、もっとも農場神拳を破る望み高い六つの流派が選別された、それこそが農場六聖拳! その一派である農場闘魔斗拳の神髄は……熱!」
熱だと!?
たしかに見るからに暑苦しそうな真っ赤さだが……。
いや、実際熱い!?
リルレイさんの身体から放たれる熱がこちらにまで届いて、じっくりあぶり焼きにされそうだ!?
「ははははは……体内マナを使って超高熱を発したのだ。三大種族の中でも破格の体内マナを持つ人族だからこそできる芸当よな」
ということはリルレイさんは人族?
たしかに見た目そうだが、でも同じウェーゴで六聖拳のザーガさんは魔族だったよね。
そもそもウェーゴの噂も魔国から広まっていたというのに……。
まさかウェーゴは、種族や国をまたいで広がる組織だというのか!?
「この真っ赤に熱した体表の温度は、二千度を超える。……どうだ、こんな私に直接触れることができるか?」
……あッ。
なるほど、そういうことか。
彼によれば農場聖拳とは、すべて僕の農場神拳を破るために編み出された技らしい。
つまるに、リルレイさんによる僕の攻略法とは……。
「然り! お前の能力は相手に直接触れなければ効果を発揮しない! そこで、お前……私に触れるか? 二千度の高熱を持った今の私に触れば、火傷では済まされんぞ?」
うーん、たしかに。
「それでもお前の『究極の担い手』なら、触れた瞬間私の身体のポテンシャルを操って温度を下げることができるかもしれないな。しかしそれが出来るまでに何秒かかる? それをも一瞬か? どんなに瞬間的になしたとしても、大火傷は免れないな」
リルレイさんの言う通りだな。
僕の『究極の担い手』を作用させるためには何よりまず、相手に触れなければいけない。
この場合、その触れること自体が危険極まりない行為なんだ。
二千度かー、さすがにちょっとなー。
ならば直接触れずに倒せばいいのか。
「えッ? なに!?」
僕と彼の間に、無限の量たゆたう空気。
その空気にも僕は触れることができる。
空気のポテンシャルを操作し、その膨張率を極限以上まではね上げる。
「おおおお……!? なんだ!? 見えない何かに押されて……!? ぐわぁああああああああーーーーッッ!?」
膨張した空気はリルレイさんを吹っ飛ばした。
真っ赤な超高熱のまま、上空に飛ばされ地表に激突。
「ぎゃあああああッ!? あっちいッ!?」
「なんか物凄い熱いものが、空から降ってきたぁああああッ!?」
なんか凄い迷惑をかけてしまった?
それを見た、他の聖拳メンバーの皆さん。
「リルレイがやられた……!? しかもあんなに容易く……!?」
「直接触れられなければ農場神拳など役立たずではなかったのか!?」
たしかに、少し前までの僕なら苦戦を強いられていただろうし、もしかしたら負けていたかもしれない。
そうならずに済んだのは、やっぱり不死山で積んだ経験のお陰だ。
with不死山でのベルフェガミリアさんとの戦いで『空気に触れる』という概念を獲得した。
お陰で『究極の担い手』の応用範囲は劇的に広がった。
空気を介することで、相手に触れないまま倒すことも可能になったんだから。
前回のザーガくん戦でもそうだったが、不死山での経験が異様に光ってくることに驚く。
もし魔国を先に巡っていたら、ここでズタボロにやられていた可能性大だったってことか。
順番って大事だったんだなあ。
いや、不死山に登ったきっかけはゴティア魔王子からの依頼だったから……。
……冒険者としての職業経験が大事なんだな!!
「次は、オレに行かせてもらおう」
そう言って進み出た人物には見覚えがある。
ザーガくん!?
魔王軍若手士官のザーガくんではないか!?
先日拳を交え合ったはずの彼が、今再び相まみえる!
「この間ぶりだな、あの時は後れを取ったが、今日こそは我が農場名須拳の本領を発揮してお前を叩きのめし、エヌ様への供物としてくれよう!」
僕、供物扱いなんかよ!?
邪悪な儀式か!?
「いや待て、その前に我に喋らせてほしい」
と横やりを入れたのはゴティア魔王子だ。
この人、ただ単に見物しに来たんじゃなかったのか。
「ザーガ、お前は最初からウェーゴの一員として魔王軍に入ってきたのではない。そこまでは調べがついている」
「どういう意味かな?」
「純然たる魔族家系に生まれ、将来を嘱望され魔王軍の出世コースに進んだはずだ。それなのにお前は、その途中でウェーゴの勧誘を受け、秘密組織の側に着いた。何故だ?」
「…………」
「魔王軍に不満でもあったか? それとも何の後ろ盾もない秘密組織の方が魅力的だったか? 我は、そのことをどうにも確かめておきたくてな。今日、ジュニア殿に同行したのは、それが第一の目的だ」
そりゃまあ、将来魔国のトップに立つ人なら、そこんところ気になるだろうな。
自分の治める国に不安が?
もしくは自分の国よりもっと魅力的な場所がある?
統治者としては、どっちにしろ由々しき事態だ。
魔王子としては、その決断を下した当人に問いただしたくて仕方がないのか。
それを聞いてザーガくんは、余裕げに目をつぶって……。
「……いいだろう、聞きたいならば教えてやる。オレとエヌ様の運命的な出会いをな!」






