1351 ジュニアの冒険:ユートピアへ
拝啓、僕です。
いつの間にやら悪の秘密組織の挑戦を受けることにいなっていました。
つまり僕が正義の味方ってこと?
そんなシチュ、父さんの方が大好物じゃん。
父さんだったら小躍りして誘いに乗りそう。
そんなことないか。
あの人は平和主義者だし。
受け取った挑戦状によると、戦いの場所と日時は指定されていた。
全面的に従うのはどうかと思ったが、調整しようにも連絡を取り合う手段がない。
癪だけど、仕方なく相手の言に合わせることにした。
せめて十分ぐらい遅刻していってやろうか。
「いかんぞジュニア殿、時間には正確でないとな!」
何故か同行者から怒られた。
その名はゴティア魔王子。
なんでアナタも来てるんですん?
「もちろん、魔国を脅かすかもしれない危険因子を我が目で見極めなくてはな! それにヤツらは豪胆にも魔王城へ投げ文したのだ。ということは城の主たる我ら魔王家へ宛てたものと解釈できる!」
できるか?
宛名はしっかり書いてあるんだが?
ま、いいか。
別に『一人で来い』とも書いてないしな。
ルール違反はしていない。明確には。多分。
時間を外せないんならせめて、こういう方向性で抵抗してみるか。
とりあえず何か些細なことでも向こうの言うことそのまんま従いたくない。
僕には、少しばかり反骨の血が流れているようだ。
誰からの継承だ?
母さんか。
「そろそろ約束の場所ではないか? 時間は……三分前。なかなかジャストに着けそうだな」
そしてゴティア王子は真面目だ。
きっと真面目な両親から受け継いだのだろう。
先方が指定したのは、魔都の外へ出てかなり歩いた地点だった。
想像はしていたが普通に野っ原だ。
こんな人っ子一人もこなさそうな場所を指定してくるとは、何を考えている?
「やはり決闘場として周囲の被害を懸念したのではないか? 人も家屋もなければ気兼ねなく暴れられるしな」
やっぱりそうなんでしょうかねえ?
というか、周囲に被害が出るような戦いをするつもりなんですか?
実際目的地に到達してみたら……、やっぱり何もない野原だった。
「わー、風が気持ちいい」
天気もいいし。
「ついてすぐさま無視か……さすが王子、肝が太いな」
そう言って待ち受けていたのは、例のリルレイさんだ。
長髪が目立つ男性だが……鬱陶しくないのかな? 切らないのかな?
「それに、招かれざる客が混じっているようだ。魔国の第一王子か、また豪勢な珍客だ」
「魔王城へ投げ文しておいて、その言い草はなかろう。その時点でお前たちは魔王家にケンカを売ったようなものだぞ?」
「ふん、権力者はいつも大袈裟に解釈する。まあいいだろう、その代わり雑な歓待でも文句は言うなよ。一人分の席しか用意してないんだから」
「一つ分の貴賓席か。お前たちにとってジュニア殿は、余程重要なゲストらしいな」
バチバチ問答が横行している……!
これが上級者の会話なんだ……ってなるわ。
これ僕もできるようにならんといかんの?
「それで、決闘場にしては広々としているが、他が寂しすぎやしないか?」
とゴティア王子、周りを見回しながら言う。
「それに貴殿らは“六聖拳”と名乗っていたように記憶しているが、その割に一人しかいないのも気になる。他にあと五人いるんだろう? そいつらはどうした? 病欠か?」
そんなまさかと思ったが、ここには僕ら三人しかいないし、周囲も野原なので隠れる場所もない。
マジで誰もいないの?
「もちろん歓迎の準備は万端整えてある。私は送迎役だ」
リルレイさんは不敵に笑った。
「では、パーティ会場へと案内しようではないか。お手を拝借……」
そう言った瞬間だった。
僕たち三人を白い光が包み込む。
これは……転移魔法!?
そう気づいた時にはもう視界は塗りつぶされ、次の瞬間には景色はまったく違うものへと変わっていた。
* * *
「ここは……!?」
どうやら転移魔法の移動先のようだ。
なるほど、考えてみれば腑に落ちた。
そう簡単に自分たちのアジトの場所を手紙にしたためるわけがない。
秘密組織にとって、本拠地が秘匿されているのは生命線なんだから。
だから一旦、まったく何の関係もない場所を指定し、そこから転移魔法で飛んだんだ。
現状、転移魔法を追跡する方法はないからな。
先生やヴィール辺りなら可能だろうが、少なくとも人類には不可能だ。
便利なり、転移魔法。
お陰でこの秘密組織の人々はリスクなく、自分らのホームへ僕らを呼び込めたわけだ。
恐ろしや……!
それでもって、到着した場所は……。
何と言うか、賑やかだった。
たくさんの人々が楽しそうに踊っていた!?
「今日もバイブス上げてこうぜー! 皆と送るサタデーナイトフィーバー!」
「走らないでください! 走らないでください!」
「最後尾はこちらです!!」
なんだかよくわからない熱気が盛り上がっている。
場所自体は、広々として自然豊かであるがそこかしこに手が加えられていて、自然と人工物の調和が実現されていた。
一目見て、農場かと錯覚した。
それぐらい農場の雰囲気によく似ている。
「……なんだか聖者様の農場を思い出すな」
ゴティア魔王子も農場を訪れたことがあるため、同じ印象を持ったようだ。
そんな土地に多くの人が詰めかけてお祭りのような状態になっている。
「……あの、今日は何か特別な日でも?」
「いいや、普通の日だが」
答えるリルレイさんに、僕は何とも言えない気分になった。
「ここにいるのは全員ウェーゴのメンバーだ。世界各地より、エヌ様の教えを乞い求め、最後にここへとたどり着く。ここはエヌ様が用意してくださったパラダイスなのだ。皆ここで自由と解放に酔いしれることができるのだ!」
ここにいる全員がウェーゴのメンバー……!?
「ざっと見、数百人はいますよね?」
「千六百人だ。約な。早や数えで算出してみた」
マジですかゴティア魔王子!?
いい特技持ってるなあ!
それにしても千人以上ですか……、思ったよりも巨大な組織……。
「それだけエヌとかいうヤツのカリスマが物凄いということだな。聞けば聞くほど恐ろしい。だが、この流れで行けばそのトップのご尊顔も拝めるというわけだな?」
「思い上がるな、エヌ様がお前らごときと会うわけがない」
リルレイさんからピシャリと言われた。
ええ? じゃあここまで来た意味は?
「エヌ様は我らの希望、尊き御方。お前たちのような外から来た人間がおいそれ会えるほど安くはない」
「然り然り、お前たちは制裁を下される側なのだ」
「私たちはエヌ様のために集い、エヌ様のために戦う戦士」
「今こそエヌ様に代わって、お前を天誅する!」
「バイブス上げてこー!」
いつの間にかリルレイさんの周囲にさらなる人数が加わっていた。
一団としてのまとまりを感じる。
もしや彼らが……!?
「では改めて自己紹介しよう! お前を倒す敵の名だ、覚えておくがいい!」
彼らは、いずれも荒ぶる闘気を振りまき……。
「農場闘魔斗拳のリルレイ!」
「農場名須拳のザーガ!」
「農場大魂拳のイエローテイル!」
「農場伽蔑拳のドミノクラウン!」
「農場明日破羅我巣拳のシブア!!」
と次々名乗りを上げていく。
「エヌ様にもっとも信頼を寄せられるウェーゴの大幹部! その名を……!」
「「「「「農場六聖拳!」」」」」
……。
えっと、とりあえず言っていいかな……。
五人しかいねえじゃん?






