1350 ジュニアの冒険:挑戦状
こうしてザーガくんとリルレイさんの騒ぎがあったあと、僕らは魔王さんの下へ急行した。
ついてみるとアスタレスさんとグラシャラさんがガチバトルしていて、こっちの方が大惨事だ! ってなった。
「なにッ!? ウェーゴが!?」
報告すると魔王さんがすぐさまシリアスモードで……。
「ヤツら、ついに行動を開始したか。だが想定よりも早い……一体何があった!?」
すぐさま緊急会議が開かれる。
最初はゴティア魔王子の人材選びという話だったのに、話が逸れて大きくなりだした。
ゴティア魔王子も呼ばれ、重苦しい空気が立ち込める。
「ウェーゴは、ここ最近確認されるようになった秘密組織だ」
魔王さんが僕らに説明する。
というか、この人は既に秘密組織の情報を掴んでいたのか。
「とは言っても、我もそこまで詳しく知っているわけではない。あやつらの名が流れてきたのはつい最近のことだ。市井に放っている隠密たちが持ち帰る何気ない流説の中にあった」
魔王さんによればここ最近、魔都の巷に謎の集団が流行るようになったらしい。
噂話に曰く、その集団と出会えれば……。
・支配から卒業できる。
・自由になれた気がする。
・今だけは悲しい歌が聞こえなくなる。
……らしい。
「なんじゃそら?」
「とにかく組織からの主張を見るに反政府、反体制の意図が見られるために、要監視対象としてマークしていた。とは言っても実際に何らかの被害を出しているわけではないので監視対象に留まっているが……」
「つまり具体的な反逆行為はないわけですね?」
ゴティア魔王子が真剣な表情で言う。
さすが魔王子、国の危機となると気配も鋭い。
「そんな話、我にはまったく届いていませんでした。情報を遮断していたのですか?」
「お前をのけ者にしたかったわけではないのだ。お前には魔王子としての修行に集中してもらいたかった。現行の危機に際して備えておくのは、現魔王たる我の務めでもあるしな」
「それでも、情報共有ぐらいはしていただきたかった……!」
「もちろん必要な段階に来たと判断すれば知らせるつもりでいた。だから今こうして伝えている」
「……」
ゴティア魔王子はまだ納得いっていないようだが、追及しても詮無いと思ったのか鳴りをひそめた。
「つまり……実害が起きた、ということですか」
「うむ、魔王軍にスパイを送り込んでいたとは、実に周到な手口だ。思った以上に計画的な動きをしおる」
魔王さんが視線を向けると、四天王のマモルさんが答えた。
僕をここへ連れてきた流れで、そのまま参加している。
「急ぎ調べ上げた結果ですが、問題のザーガは『貪』の家系の分家筋に当たる中級魔族の子息です。長男であるため必然家の跡取りでもあり、魔王軍入隊は跡取りとしての箔をつけるためであったようですね」
「その一家がウェーゴと関係があったのか?」
「いえ、入隊時の予備調査では何も出てきていません。それよりも当人の入隊後の素行を調査したところ、プライベートで何かしら怪しい人物との接触があったようです」
それって、魔王軍に入ってからなんやかんやあって秘密組織に入ったってこと?
秘密組織の人がスパイ目的で魔王軍に潜入したんではなく、既に魔王軍に入隊した仕官を誑し込んでスパイに仕立て上げたってことか。
「平和な世とは言え用心しないわけにはいかんのでな。しかし入隊時には念入りにチェックされるが、既に入っている者を取り込むとはな。そうすることで我々の注意から掻い潜ろうというのか。小癪な……」
「そのザーガも、間諜として怪しい行動は一切見受けられませんでした。せいぜい非番の時に行方がわからなくなるぐらいで、その程度の不明瞭行動は他の魔王軍仕官にはいくらでもあります」
「もしかしたらスパイとして休眠状態であったのかもな。ヤツらとしても今は目立った行動をせずに組織を大きくする時期であったのかもしれぬ」
それが今になっていきなり行動を活発にした。
あまりにも急な目覚めに、体制側としても戸惑うしかない。
「では、この突発的な顕著化の理由は……」
魔族のお偉いさん方の視線が、一斉にこっちを向いた。
……僕ですか。
「いやいやいやいや、心当たりないですけれど!?」
「そうは言いますが、ザーガやあとから来たもう一人……リルレイといったかな? 彼らは明らかにジュニア王子に強い執着を持っていました」
たしかにねえ!?
でも本当に心当たりがないんですよ!
「ジュニア王子のお立場から考えたら農場国と何かしら関係があるのかもしれません。アナタも一国の王子、身に覚えのない恨みをかけられていたとしてもけっしておかしくはない」
そんな怖いこと言わないでくれます!?
僕も父さんも、ヒト様から恨まれるような後ろ暗いことをしてきたつもりはないんですけれど!
母さんは……。
……。
母さん経由ルートならあるかも?
「……そのウェーゴとか言う組織は何なのでしょう?」
「わからぬ。……わかっているのは『自由を求めること』『早く自由になりたかった』『自由になれた気がした』を標榜していることぐらいだ」
自由好きすぎかよ。
何からそんなに自由になりたいんだ。
「だが今回有用なことがいくつか判明した。農場六聖拳。それが組織の幹部名とか」
「そしてもう一つ。秘密組織ウェーゴの指導者の存在、そしてその名前がわかりました。向こうがペラペラと明かしていった情報ですが……」
そうそう。
僕もその場で聞いていましたよ。
エヌ。
それが指導者の名らしい。
単純すぎて、なんだか空々しいが。
「存在するという情報だけでも収穫ですね。ああいった非合法組織の場合、特定のトップがいないこともありますから」
「ここまで急激に拡大したことも、そのトップのカリスマ性が異様であることの証明ともいえるな。大いなる人のうねりの中心に大人物あり。……興味が湧いてきたな」
「まさか、臣下としてお求めで?」
魔王さんのギラリとした笑みにマモルさんが戸惑うのだった。
うーん、これが国のトップの問答。
帰りたい。
……けど、暴れてった彼らが僕のこと重要人物扱いする限り、中心人物から外してくれなさそうだし。
「ご報告! ご報告!」
とか思ってたらなんか報せが届いた。
次から次へと何ですか?
「門前にこのような檄文が! 魔王様の客人宛と書かれております!」
魔王様の客人?
僕だ!
そして送り主は思った通り秘密結社の方々からだった。
ウェーゴさんからの主張はこう。
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ウェーゴの高弟。
農場六聖拳は王子ジュニアに決闘を申し込む。
臆して逃げださずば下記の場所へと来られたし。
(以下略)
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「これは……?」
読んで硬直。
理解するのにかかる数刻。
文面の内容から察しますに……。
挑戦状か?
「しかもジュニア殿を名指しとは、彼らのジュニア殿への執着は一体どこから来るんだ?」
そうよなぁ。
国家転覆そっちのけで僕を突け狙うような、そんな執着を受ける心当たりがマジにないんですが?
「しかし、答えを得る方法はある」
魔王さんが言った。
同時にとてもヤバい予感がした。
「この誘いに乗ればいい。さすれば嫌でもわかるだろう、ヤツらの目的とジュニア殿との関係性が」
「それはな違いないですよね」
マモルさんまで、何を同意しているんですか!?
「だがジュニア殿、ここまで言われて引き下がるでは男が廃るぞ! キミのいずれ王となるならば、この挑戦を堂々と受けねば!!」
ゴティア魔王子まで同意して。
どうやら僕は好む好まざるにかかわらず、この挑戦を受けねばならないようだ。






