1346 ジュニアの冒険:魔族の人材登用
僕ジュニア。
都合のよい問題解決担当者にされつつあるような気がする。
魔国にやってきたら、即座に魔王さんとの謁見に通され、気づいたら魔族さんたちの新世代人材確保の問題に関わることとなった。
何を言っているかわからないと思うが、僕もよくわからなかった。
そして今、目の前の惨状となっている。
「プロポーズ!? 誰がそんな!? いや我はそんなつもりは毛頭なくパートナーを! 生涯にわたるパートナーを探していてだな!!」
「生涯にわたるパートナーッッ!?」
ゴティア魔王子が相変わらず、誤解を招く表現しか再生できないマシーンになっている。
そのうち刺されそうだな、この人。
ここは都合のいい問題解決担当である僕が翻訳を加えなければ。
「……ええとですね、ゴティア王子が言いたいのは、あくまで仕事上のパートナーということで……」
「ええッ、契約結婚ってことですかッ!?」
……ダメだ。
話を受ける方もだいぶ穿った理解をお持ちだ。
違う、そうじゃない。
とりあえず脳から恋愛を抜き取れ。
僕は、正確な状況説明に思った以上の労力に強いられることとなった。
そう。
まず魔王さんとの謁見をしたこと。
そこでゴティア王子へ、将来の即位へ向けて子飼いの部下を育てるように命令があったこと。
それに従ってゴティア魔王子は、大慌てで新たなる人材選出へ取り掛かったこと。
まずは即刻、魔王城の人事部へ飛び込んで、各人の評価ファイルを見せてもらった。
そこでめぼしい人材をピックアップして……。
年齢から性格、才覚等……期待値の高さを比重を置いて何人かの幹部候補を絞り出した。
その中の一人が……そこのシュトリアさんというわけだ。
「なななッ、ななッ、なんですってぇーッ!?」
やっとこちらの意図が不可分なく伝わっただろうか!?
こちらの伝達力と、あちらの理解力の問題から大分手間取ったように思える。
「あッ、あのアタシは……!?」
と尋ねてくる、たまたま標的の隣にいた同僚らしき女性魔族。
アナタは……まぁ……なんというか……ハイ。
「お眼鏡に叶わなかったんだぁああああああッ!!」
ああ、待って?
別にそうハッキリ言ったわけじゃないんですけれど、アナタのこれからのご活躍をお祈りいたします!!
「いかんぞジュニア殿、女性には優しく接さねば」
ゴティア魔王子!
アナタが誤解を招くような言い方ばかり募らせるからですね!
混乱してこっちも言葉を選べないんじゃないですか!
真実は鋭利なナイフのようなものなんですよ!
「無論、シュトリア嬢だけが大切というわけではない。この魔国に住む女性すべて、我にとって希望であり欠くことのできない、力の源だ」
「浮気!?」
違う。
能力才能に関係なく得難い人材ということです。
「無論、男も同様だ」
「両刀使い!?」
違う!
恋愛から離れろ!
という感じでゴティア王子の人材探しは一進一退。
そう簡単には進まない。
とりあえずシュトリアさんは幹部候補として、主君たるゴティア魔王子との理解を深め合うことに務めてもらうことにした。
……見合い?
「……してジュニア殿、人材は一人二人で充分というわけにもいかぬ。これから魔国を治めていくためにも、その十倍二十倍は欲しいものだ」
御意。
「しかし有用な人材ほどそう簡単に見つかるものではない。あらかじめ用意してあった評価表で割り出すにも限界はある。ジュニア殿、何かいい案はないだろうか?」
御意ぃー。
それでは、このジュニアめに策がございます。
お任せいただければたちどころに、勇者賢者を選り取り見取り集めてみせましょうぞ。
「おお! 心強い!」
……何で僕こんな軍師みたいなノリでいるんだろうか?
一応僕も未来の王様なのに、このままだと王佐ポジションで落ち着いてしまいそうだ。
早いとこ目の前の問題を解決して、いつものノリを取り戻すか……。
ということで……。
では、僕の指示通りに動いていただけますか……?
* * *
そうして今。
僕たちの目の前には、群衆ができていた。
無論ただの群衆ではない。
魔族の、屈強で若い人たち限定だ。
限定したにもかかわらず、それでも数十人いるのはさすがの魔族の母数の多さ。
「あのぉ~? ご命令の通りに魔王軍の有望な若手たちに限定して招集を懸けましたが……?」
と受け合ってくれるのは、魔王軍四天王の人。
マモルさんといったか。
役職的には間違いなく偉いはずだが、そんな事実を感じさせない物腰の柔らかさ。
あらかじめ受けていた説明によると、このマモルさん。ベルフェガミリアさんが抜けた空席となった魔軍司令に、後任としてまった。
現体制における魔国の軍部のトップだ。
前任者であるベルフェガミリアさんに比べれば明らかに弱い。しかしながら前任にはない誠実さと、コツコツとしたひたむきさで戦後の魔王軍をまとめ、維持してきた。
年齢も若いし、ゴティア魔王子の時代が本格的に到来しても、きっと第一線で活躍していることだろう。
こういう人をこそ大事にするべきではないのか?
「それで、あの……肝心のゴティア魔王子はいずこへ?」
「別室で未来のお妃様と親交を深めています」
「お妃ッッ!?」
真実は文官の幹部候補であるシュトリアさんと面談をしているだけだが、もう補足するのに疲れた。
「ゴティア様のお妃候補はまだ選定しきっていないはずだったが……。いつの間に決まったんだ? 場合によってはバランスが崩れることに……?」
気にしなくていいことを気にしがちな人。
こういう人が知らぬ間に苦労をしょい込むものだ。
だが僕は、僕のすべきことを進めよう。
僕自身がこんなところで何してんだ? って感じではあるんだが。
「えー、あー。……テステス」
集まった数十人に向かい合う。
あまり大人数の前に出たことないから緊張するなあ。
でも緊張するのは数十人の方々も同じだろう。
「……誰だ? 知ってる?」
「いや初見……人族か?」
「なんで人族に魔王軍を動かせるんだよ? マモル司令は何で黙ってるんだ?」
というか困惑している。
僕の後ろにマモルさんが控えているからまだ大人しくしているんだろうが、そうでなければ今頃追及の嵐だろう。
じゃ、始めますか……。
「みなさん、突然の招集に応えていただきありがとうございます。僕はゴティア魔王子から全権を委託された者です」
さすがにゴティア魔王子の名を出すと、皆顔色を変えた。
そして威儀を改める。
魔王子の名は覿面に通じるようだなよかった。
「ゴティア魔王子は、将来に向けて優秀な人材を求めています。これまでも人材選抜&育成は行われてきましたが……これから彼が魔王になる将来を見据えて本腰を入れ出した、ということです」
そう告げられて若者たちの目の色が変わった。
今日の招集の意図を、寸分たがわず理解したのだろう。
「ゴティア魔王子本人は現在、文官の人材選出にかかっておられます。なので僕が代わりに武官の選出を担当しているわけです」
今日、ここにいる若者たちの中から十数年後、四天王が現れるかもしれない。
そんな未来の第一歩となるのが、これから行われる選抜会だ。
それを取り仕切る僕。
なんで部外者の僕が、こんな強権託されるのどうかと思うのだが。
しかし、そこを言っても仕方がない。
この魔王軍の人材選抜の手段だが……。
「皆さんには、殺し合いをしてもらいます!」
「「「「「「えええーッ!?」」」」」」
武官に重要なのは強さ。
その強さが魔王軍を無敵とし、外敵からの侵略をはねのける。
可能性に満ち溢れた彼らの実力を計るためにもまず彼ら同士で戦ってもらえば結果はおのずと明らか。
生き残った者こそが将来魔国を守る、前途有望な強者を見極められるということだ。
そういうわけで、さあ、バトルロイヤルを始めようではないか!!






