1336 ジュニアの冒険:美の極み
『真秀! ドーエル芸術合戦!』
トリを務めるのはドワーフ地下帝国の王エドワードさんと……。
エルフの宗匠、エルロンさん!
その二人の対決がなんで、こんな大スケールスーパーゴーレム大戦Yみたくなってるんだ!?
そもそもあれもエルロン宗匠たちの作品でいいの!?
だいぶ作風が違ってきますが!?
『ふはーはははははははは! これこそ我が意欲作! ドワーフの鍛冶と鋳造と建築技術の粋を集めた超巨大ゴッド・フィギュアだ! はははははははは!』
高らかな笑い声を放つのはエドワードさんだ。
しかしどこから話している?
周囲に姿は見当たらないが……?
……まさか?
あの鋼鉄巨人の中から声が!?
乗り込んでる!?
搭乗式なのアレ!?
『魔国で流行っているというゴッド・フィギュアから着想を得て、限界までの大きさにチャレンジした! 無論ただ大きいだけではない! 可動、運動性もバッチリだ!』
たしかに魔国では、神様を模したフィギュアが大流行りして今でも人気だ。
最近では第一期シリーズの復刻版が発売されたほどだ。
そのゴッド・フィギュアがここまでのサイズで実現可能というのは、それこそドワーフの技術力の高さが窺える。
でも……これがゴッド・フィギュアだとすれば。
「一体なんの神?」
『ご子息にはピンときませんかな? これぞ我らドワーフ族が崇める神、造形神ヘパイストス像ですぞ!』
え?
えッ?
えええーッ?
うそうそうそうそうそ。
だってこんな、像の詳細を語るならば勇猛そうな。
筋骨隆々で、いかめしい顔つきで、バカデカいハンマーを背負って……。
悪魔が裸足で逃げ出しそうな威容をしていた。
しかしながら……。
僕の知っているヘパイストス神は、こんな感じじゃなかったんだがなあ。
何せ実際会ったことあるから!
天界でお目通りしたヘパイストス神は、何とも穏やかでのんびりそうな……。
菜の花畑の横を短パンタンクトップで旅してそうな感じの神様であった。
目の前の巨大像とは……似ても似つかねえ。
きっとあれは、ドワーフ族が神への尊敬と憧れを形にしたものなのだろう。
守護神として崇め奉るには、こっちの方が絶対見栄えいいものな。
『今年の対抗戦のために一年かけて用意した大傑作だ。これでエルフたちなど圧倒してくれようぞ! ははははははははは!!』
お披露目が上手いこと言ってエドワードさんは有頂天の様子。
……あの巨大像のどのあたりに乗ってるんだろうか? 腹か?
しかも一年かけて準備したなんて、あんな大掛かりなもの本業の片手間でできるようなものじゃないだろう。
むしろメインプロジェクトだったんじゃないか?
このお祭りにどんだけ懸けてきたんですか?
それに対してライバルも怯むことなく……。
『ふッ、たしかによい出来。我がライバルに不足なしといったところだろう。ならばこちらも、エルフ驚異の技術力……超造可動ベラスアレスαの素晴らしさをお披露目せずにはいられまい!』
もしかしてエルロン師匠も搭乗してる!?
その軍神ベラスアレスの巨大木像の中に!?
どういう操縦システムしてるの!?
『そもそも知らんのか、魔国で大流行りのゴッド・フィギュアの大元を作ったのは、私たちエルフだと!』
『なにぃ、そうなのか!?』
そうらしいですよ。
ずっと前、農場で木工細工を担当していたエルフたちが気まぐれに作った木像。
中でも神々を模した像がかなりのクオリティであったために、魔族たちの間で高値でもって売れた。
そのうち安価多売でいきわたるように小さなサイズの像まで作られるようになった。
それがゴッド・フィギュアの原型であるとか。
『ゴッド・フィギュアの祖である農場エルフ、木工細工班長ミエラルの協力を得て作られた超特大ベラスアレス像、木製と侮るなかれ! 農場から輸入されてきた特製樫の木で組み立てられた像の強度は、鋼鉄をも凌駕する!!』
そんなもんどうやって加工したんですか?
鋼鉄並みに硬い木像。つまりドワーフたちの作り出したヘパイストス像に引けを取らないということだ。
どんな意味で?
『モチーフは、我らエルフ族の守護神ベラスアレス! 軍神たる我らの神こそ勇ましき姿に相応しい! さあ頭でっかちのドワーフよ! お前と私の労作、どちらが優れているだろうな!?』
『それはすぐにわかることだ! 直接対決の勝敗によってなぁ!!』
そしてぶつかり合う巨大なる鉄と木。
大スケールの神々の戦いが始まった。
鋼鉄製のヘパイストス神と、木製のベラスアレス神とが殴り合い、掴み合って攻防を繰り広げる。
……何を見せられてるんだ、僕らは?
「おおおーい! せめて森の木を薙ぎ倒さんように戦っておくれよぉおおお!!」
L4C様が懇願風に叫び散らすが、どこまで聞こえているやら。
……おおう、ベラスアレス像のパンチがクリーンヒットし、ヘパイストス像が吹っ飛ばされた。
しかしながらすぐに体勢を立て直し、ゴムマリ並みの弾力で跳ね返ってきてベラスアレス像に体当たり。
「ぐほうッ!?」
あまりの衝撃で、見ている僕が代わりに悲鳴を上げてしまった。
凄まじい戦いだ、アレがモノホンの天界の戦いと言っても通じてしまうぐらいに。
「祭りの趣旨が完全に違うものになったのう」
隣で見守るL4C様も、引き気味だ。
そうですよね、これ元々エルフとドワーフの工芸合戦だったのが、最終戦になっていきなり巨大ロボット大戦になってしまって。
歌合戦が仮装大会になったかのごとき急展開ですよ。
それだけエルロン宗匠とエドワードさんの技術が凄いということだが……。
「平和な時代の技術でホントよかったわい」
たしかに。
戦時にこんなのが出来てきたら、戦争の様相がまるで変っていましたよ。
ところでこの勝負、どうやったら決着つくんですかね?
「わからん、どっちかがどっちかを完全破壊するまでじゃないかえ?」
ですよね。
僕としては特別審査員の責から解放されてとても助かったんですが。
あの二人としては、今が滅茶苦茶楽しい時間でもあるんだろうが。
バトルが楽しいのではない。
これほど豪快なバトルが実現されるほどに出来のいいそれぞれの作品を、その性能を最大限引き出して大勢の目の前で披露できるのが楽しいのだろう。
この世界の職工技術を推進する、最先端の二人だ。
ここが技術の到達点だ。現状での。
その素晴らしいハッスルぶりに、観戦するエルフもドワーフも唖然としながら震えていた。
「これが……エドワード親方の本気……!?」
「凄いわ! 私もエルロン宗匠のような作品を作り上げるわ!!」
この想像を絶する技巧を目の当たりにして、大いに刺激を受けた同族たちは奮起し、さらに各々の技術を深めていくだろう。
これが世界全体の文明を進めていく。
そう考えれば、このお祭りの意義はおのずとわかってくるだろうか。
しかしその一方で……。
妙な気配があった。
「みぅん?」
「どうしたのじゃご子息?……いや」
L4C様も感じ取ったようだ。
ということは僕の気のせいではあるまい。
エルロン宗匠とエドワードさんのセンス極まる技。
観衆の熱狂。
それらに誘われるかのようにして、異形なるモノがこちらへ現れようとしている。
『……お祭りには、もっと必要なものがあるわ』
えッ? 誰?
『だって祭りとは、神を祭るために行われるモノでしょう?』






