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1334 ジュニアの冒険:新たなる戦いの歴史

 エルフvsドワーフ、年に一度の争いが今、定例で行われようとしている。


 その名も『真秀! ドーエル芸術合戦!』『ポロリもあるよ!』

 ねえよ。


 そしてそんな明らかな奇祭に巻き込まれる形となった僕。

 完全なるとばっちりだ。

 来る時期完全に間違えた。

 観光地ならオフシーズンに来た方がまだマシなレベル。


 たとえるならたまたま観光に来た日に台風直撃したような気分だ。


「さあエルフども! 今日こそ我らドワーフの脅威の科学力を感じ入るがいい! 真の美とは常に、弛まぬ研鑽の先にある!」

「たかだか手先を器用に動かすことだけが研鑽だというのが貴様らドワーフの勘違いであり驕りであり無知蒙昧! 自然と一体化し、自然の美を人の手で再現しようとする我らエルフの研鑽を理解できないことこそお前たちの哀れと知れ!!」


 バチバチ火花を散らすエルフとドワーフ。


 これアレだ。

 彼らがしようとしているのは祭りは祭りでもケンカ祭りだ。


 過激で時には死者すら出るという非常にデンジャラスなヤツだ。

 ますますここから一刻も早く立ち去りたいという本能が抑えがたい。


「エルフとドワーフは、古くより道を違えるライバル同士、その争いは遠い過去から連綿と続いてきた……!」


 と、この対決ムードを少女エルフのエルクさんが解説してくれる。

 まったくの部外者で、初遭遇の僕にもわかりやすく。


 遠い過去から連綿とって。

 具体的には何年?


「十数年」


 浅い。

 めっちゃ浅いエルフとドワーフの対決の歴史。

 人族と魔族が数百年争い続けてきたのを思えば十数年なんてそこそこじゃん」


「それも仕方ないわ! 大体ドワーフが絡んでくるようになったのは、エルロン宗匠が陶芸の道を切り拓いてからなのだから!」


 キッチリと争いの種を振りまくエルロン宗匠。


「違う! エルロン宗匠は、気取らない自然の美を器に込めるという偉業を成し遂げた御方! ドワーフどもにはそれが理解できずに突っかかってくるだけよ! その時からエルフとドワーフの、避けがたい対立は生まれたのよ!」


 人族と魔族が数百年を経てやっと和解したというのに、ちょうど時を同じくして始まるエルフとドワーフの争い。

 ことは上手く進まぬことよ……。


「どうせドワーフの作るものなんて宝石のキラキラ☆キティラで、飾り付けるだけのものでしょう! そんなの、エルロン宗匠の独自の世界観が生み出す自然の美には到底及ばないのよ!」


 それもまた偏見では?


「だからこそ、今日の『真秀! ドーエル芸術合戦!』でエルフの創り出す美こそが高尚であると、ぐうの音も出ない程にわからせてやるわ! わからせよ! わからせ!!」


 外見的にはエルクさんの方がわからせられやすそうな印象をしているんですが。

 それも先入観か……。


 ともかく。

 僕も父さんから聞いたことがある。


 エルフもドワーフも、それぞれに独自の美的感覚を持った種族だと。


 エルフは、自然のあるがままの姿に美を見出し、それを人の手で再現することを目指す。

 対してドワーフは、人の手で連綿と積み重ねられてきた技術と理論に重んじて、その結晶としての作品に美を感じる。


 双方のスタンスは対極的で、それゆえに互いを否定し合いいがみ合うことも多いんだとか。


『皆違って皆いい』と父さんは言っていたが。

 その父さんこそ、ドワーフエルフが繰り広げる美意識合戦に振り回されゲッソリしてしまった人々の最たる者であるのだろう。


 苦労してたんだな……父さん。


 そして今、今度はその息子が巻き込まれつつあるわけで……。


「フッフッフ、今日の祭りは一味違うぞ。なんとスペシャルゲストが参加してくださることになっているのだから!」

「なにぃ、ま、まさか聖者様か!? 聖者様が我らの祭りに参加してくださるのか!?」

「まさか、お前とて覚えているだろう。最初に祭りの開催が決まり、聖者様にも何らかの形で関わっていただきたいと我ら揃ってお願いに上がったではないか」


 お願いに行ったんだ。

 僕知らないな。僕がヴィールの山で遊んでいたときにでも来たんだろうか。


 それでお願いされて、父さんはなんと?


 ――『もう勘弁してくれ!!』


 と。


「聖者様は、エルフ側の美意識もドワーフ側の美意識もどちらにも理解を示してくださっている。その上でどっちが優れているかはお互いで決めてくれ、もう俺を巻き込むな! と涙ながらに言われたことを」

「うむ、昨日のことのように思い出すな」


 泣きながら抵抗されるほどウチの父さんを追い込まないでくださいますか。


「では聖者様ではないということなら、一体どんなスペシャルゲストが?」

「ふふむ、聞いて驚け、その聖者様のご子息、ジュニア殿だ!!」


 はい僕です。

 そういう流れだろうと思っていましたよ。


 こうなりゃヤケだ。

 ちなみに僕も父さん同様、『皆違って皆よい』と思う派なので、どっちかに肩入れすることはないとあらかじめ宣言しておきます。

 生きよ、世界は美しい!!


「なななななな、なんだって!? 聖者様のご子息!?」

「しかも純後継者と目される長男だ!」


 ハイそうです、長男です。

 次男ならこの状況、耐えられそうにありません。


「どうだドワーフども……!? 今回の祭りが、これまでとは比べ物にならんほどに貴重であることが理解できたかな? 聖者様の後継者に認められるということは、聖者様ご本人に認められるも同じということ!」


 違いますよ?

 僕も父さんのことは尊敬していますけれども、あくまで僕と父さんは別人ですよ。混同することなかれ。

 その上で僕は、どっちか一方に肩入れすることはないと言ったばかりですが。


「なるほど……今年の祭りの勝利には三勝分の価値がありそうだな……!!」

「そういうことだ、今年は例年に増して絶対に負けられぬ……!!」


 エルフ、ドワーフそれぞれのボルテージが上がっていく。

 本当に大丈夫かこれ?

 流血沙汰など勘弁ですぞ?


「ではエルフどもよ、戦いの……いや祭りを始めようではないか!」

「いいだろう、今年もエルフ軍団の勝利で幕を閉じてくれよう!!」


 平和に終わるかどうかもわからぬ祭りの火蓋が切って落とされた。


   *   *   *


 それで、このエルフとドワーフの対決祭りはどんな方式で進んでいくのですか。


「それぞれが、この一年で出来上がった新作を出し合って、出来栄えを競い合うのよ。最終的に勝ち点の多いチームが優勝」


 思ったより穏やかに進むカリキュラムだった。


 ……いや、でも待て?

 競い合うって、勝ち負けはどうやって決めるんだ?


 エルフとドワーフの美意識は真逆なんだから、優劣なんてつけようもないだろう?


「いいところに気がついたわね」


 エルクさんが得意げに胸を張る。

 まだそんなに膨らんでもいない胸を。


「審査の公正さを保証するために。毎年第三者の審査委員をお招きしているのよ! 昨年は魔王ゼダン様、一昨年は人間王リテセウス様、さらにその前は人魚王アロワナ様におこしただいたわ!」


 思った以上のビッグネームで言葉が詰まる。

 あとリテセウスお兄さんは王様ではないので。細かいことだが大事だぞ。


 しかし王様級が雁首揃えて参加するなんて。

 小種族ながらも、エルフとドワーフがどれほどこの世界に影響力を持っているかが伺えるエピソードだ。


「私も例年のお祭りを見ていたけれど、そのゲストも終わったあとやつれた表情で返っていくのよね。アレは何なんでしょう?」


 容易に想像がつく。

 美醜なんて絶対的基準のないもので優劣決めるなんて、神経使うに決まってるんだから。


 しかも一方を選べば確実に、もう一方からの不興を買うという状況。

 エルフもドワーフも取引相手として絶対に欠かせないんだから取捨選択なんて胃が痛くなりすぎる。


 絶対選択肢の中に『両方』があってほしい状況。

 全員勝者でいいじゃないですか。為政者追い込んでそんなに楽しいか?


「でもさらに昨年お呼びした農場王のお妃様は、まったく気負うことなく『アレはダメ』『コレは嫌』と自分の感覚でお決めになってたわよ」


 ウチの母だッ!!

 農場国のお妃って言ったらウチの実母プラティに他ならない!


 言うよそりゃ! あの胆力を持った母さんならね!


 しかし世界中の全員が母さん並みの豪胆なんて思わないでいただきたい!

 誰もが己の決断に相応の責任や因果が乗っかかって、内心ブルブルなんですよ!


 ……いや、待て?

 この流れで行くと、次そのゲッソリするような決断を求められるのは、他ならぬ僕ではないか?


 望むと望まざるとに関わらず!


「さあ、第一審査開始ですぞ!」

「ご子息こっちへ、エルフとドワーフの作品どちらが優れているか審査してください!」


 ホラこういうことになった!!

 嫌だよ何のメリットもなく、こっちの精神が削れていくだけの決断なんて!


 答えは沈黙。


 それでいいじゃないですか!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
母を真似てズバッと切り捨て且つ叩き潰すのが良いかな?
沈黙…それが正解…
次男なら「歯ぁ食いしばれ! そんな大人、修正してやる!!」とか言うぞ
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