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1330 ジュニアの冒険:進撃のエルフ

 僕とエルロン宗匠との間で話がまとまりかけてきた(まったく僕の望んでいない方向に)、その時……。


「どぅりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああ~ッ!!」


 僕らへ向かって突入してくる砲弾があった。

 というか砲弾のように飛んでくる、人。


「我らが森に仇なすらしい侵入者はどこじゃああああッ! 通報を受けてやってきた! 森を傷つける者はハイエルフたるわらわが許さぁああんッッ!!」

「そうですわエルエルエルエルシー様! エルフの敵を駆逐してください!」


 さっき駆け去っていた少女エルフ……エルクちゃんだっけ?

 なんか大人の人を連れてきた!?

 不審者に対する適切な対応!


「森の中では無敵になれるハイエルフの特性を侮るでないぞ! そら刮目せよ、ハイエルフのみが使える自然魔法の脅威をぉおおおおおおッッ!!」

「族長! ハウス! ハウスッ!!」

「えッ、エルロン宗匠!?」

「落ち着きましたか?」

「ハイッ」


 エルロン宗匠の呼びかけで即座に激情が冷静に変わる。

 覿面過ぎない?


 しかし大人の人が呼ばれてきたと言ったが、順じて突入してきたこの人も見た目充分子どもな気が……!?


 身長は僕より低くて150cm程度。

 顔つきもあどけない。

 肌も艶々で、実年齢も十代としか思えない。


 しかし全体の醸し出す気配は落ち着いていて重厚。

 老成の印象が無視しがたい。


 一体この、見た目と気配がまったく噛み合っていない少女(?)は何者?


「そうか、ご子息は直接会ったのは初めてか?」


 すべての状況を俯瞰的に見られるのはエルロン宗匠だけだ。


「いい機会だから紹介しておこう。エルフの重要人物だから知見を持っておいて損はないぞ」


 は、はあ……?


「この御方はハイエルフ。我らエルフの上位種だ。名をエルエルエルエルシー様という」


 ハイエルフ?

 なんか聞いたことがあるような、ないような?

 父さんか母さんが話題に出したことがあったか?


「高位のエルフには聖号たる“エル”がたくさんつくからな。面倒くさければ縮めてL4C様と呼べばいい、それか大抵のヤツはそう呼んでる」


 それって略称になるんですか?

 いともたやすく行われるエルつくない行為。


「ハイエルフは、百年以上を生きる長命なエルフで、目の前にいらっしゃるL4C様も御年二百歳に迫ろうという長寿の人だ」

「エルロン宗匠……乙女の年齢についてそうつまびらかに……!?」

「乙女?」


 いつだろうと年齢の話は、女性にとってナイーブな主題らしい。


「どうしてそんなに長生きでいられるかというと、ハイエルフは森との親和性が段違いに高いからだ。そりゃもう通常のエルフとは比べ物にならないほどの」

「森の清浄なマナを取り入れることで、生命としての段階を上げることができたのじゃ」

「その在り様から小ノーライフキングとも呼ばれる。彼らはダンジョンの瘴気を取り込むことで不老不死化するからな」

「あんなバケモノと一緒にするでない!」


 そこまで言い合って、肩を組んで笑い合う宗匠とL4C。

 ここまでが一つのフリなのか?


 で、その準ノーライフキングさんがどうしてこちらへ突入を?


「ハッ、そうじゃ! 悪さを企み森へ侵入した人族がおると報告を受けたんじゃ! 賊はいずこ!? わらわの親と言うべき森と、わらわの娘たちと言うべきエルフたちを脅かす者は、何人たりとも許さぬ! それがハイエルフたる我が役目!!」

「どうどうどうどうどう……!」


 エキサイトするL4Cさんをなだめるエルロン宗匠。

 なだめ方が手慣れていた。


「何を聞いたか知りませんが誤報、虚偽報告ですよ。たしかに今ここに人間の客を迎えていますが」

「おお、言われてみれば、そこにおるは紛れもなく人族! おのれまたしても我らが森を穢しにきたか!? 許さんぞ、ハイエルフの秘技、森の獣たち大葬陣をくらうがいい」

「鎮まりたまえ鎮まりたまえ……!」


 会話のたびに興奮してるじゃん。

 ハイエルフってもしかして見た目以上に荒ぶる人?


「よく見てくださいL4C様。彼は、エルフの森と深い関わりのある御方ですよ」

「何? しかしわらわには何とも見覚えがないが?」

「もう十年前に会ったでしょう」

「十年前? そんな昔のこと覚えとらんわ」


 しかしハイエルフのL4C様、僕のことをまじまじと見つめて……。


「ふーむ? 何やら見覚えがあるぞ?……聖者か!? いやアイツはもっと老けとったような?」

「惜しいですよL4C様! そう彼は、聖者様の御子息ジュニア殿です!」

「なにぃいいいいいいッ!?」


 なんかオーバーなリアクション。


「そういや聖者って、ところによってわらべを連れておったような記憶があるが……、そのわらべか!?」

「そのわらべです」


 そのわらべ本人です。


「おうおうおう! そうかそうかそうか! あんな小さなわらべがちょっと見ぬうちにこんなに大きくなるとは! 人間の時間は早いのう!」

「それが言いたいだけですね?」

「いやいやそんなことはないぞ! もはや見た目も父親と瓜二つではないか! 人族のそういうところがまた奇特じゃのう!」


 そうですか、えへへへへへへへ……。

 父さんと似ていると言われると悪い気はしない。


「聖者の息子が訪ねてきていたとは、水臭いのう。ちゃんと言ってくれればこちらも歓迎の準備をしたのに!」


 そこまでしてくれるんです?


 まあ、ウチの父さんはエルフの森復活に関してけっこうな尽力をしたと聞いているのでエルフたちにとっては恩人なんだろう。

 だから関係者の僕を歓迎する気持ち話わかるが、僕ら親子揃ってあまり派手なのは好きじゃないから、その辺機微を知ってるエルロンさんが気を回してくれたのか。


「…………」


 いや、違う。


 あの目の泳ぎよう、完璧に報連相を忘れてた人のリアクションだ。

 こういうところエルフは!


「やれやれ、お陰で恩人の前で飛んだ恥をかいてしまったわい。これエルク・エル・トリエル! 危険に敏感なのは森で生きるために必要なことじゃが、早とちりはいかんぞ!」


 L4C様から窘められて、身をすくめるのは、さっきから駆け去ったり駆け寄ったりの少女エルフ。


「でも……私は、エルフ族のために……」

「状況を正しく判断してこそ危険を回避できるのじゃ。闇雲に動くだけではむしろ危険を呼び込むことにもなりかねんぞ」


 まったくその通りです。


「L4C様こそ二百年を生きるハイエルフとして、森の興亡をその目で見てきた御方。森が枯れ朽ちていく悲哀も、復活して生い茂る喜びも知っている」


 そんなL4C様にとってこそ、かつてエルフの森を滅亡寸前にまで追い込んだ人族への感情はとても複雑なものだろう。


 植林作業で再びエルフの森を拡大させたのが、人族……によく似る……父さんだからこそ敵意は和らいだが、そうでなかったら今でもバリバリ人族への憎悪を募らせていたに違いない。


 そんな彼女だからこそ、安易に人族への敵意を煽ってはいけないのだ。

 繊細な問題なのだよ。


「エルク・エル・トリエル、お前はエルフ王からの特別な配慮で、この森での席を設けているが、あまりに和を乱すようであれば強制的にエルフ王の下へ送り返さねばならなくなるぞ」

「そんな、宗匠お待ちください」


 割かし決定的なことを言われて慌てるエルフ少女ことエルクさん。


「私はエルロン宗匠に憧れているのです! エルロン宗匠が生み出す作品は輝かしく、まるで美の女神が宿っているかのようです!」


 何という語彙。


「私もあのような傑作を作れるようになりたいとエルフ王様に頼み込んで留学を許可してくださったのです。何も得ることなく帰ることはできません!」


 留学?

 僕が訝しげな顔をしていたのか、同じく外野となっているL4C様が察して。


「エルフの森と一口に言っても、世界にここ一つだけではない。複数あって世界中に散らばっておる。その中でも特に大きいのがここと、魔国側にある世界樹を中心としたエルフの森じゃ」


 いわばぞれぞれ人間国側、魔国側の拠点ということになる。エルフの。


「人族どもの魔法のせいで一時滅亡寸前まで行ったこちら側と違い、世界樹を擁する魔国側の森は常に隆盛を誇ってきた。その魔国側のエルフの森を治めているのがエルフ王で、そのエルフ王の姉妹のひ孫の孫に当たるのがあのエルク・エル・トリエルじゃ」


 おおう、連なる系譜。


「わらわも、こっちの森の長として頼まれれば嫌とも言えんからのう。当のエルフ王からも『厳しく躾けてくれ』とも言われたが……。あるいは行儀見習いもかねて送り込まれたのかものう。アイツは身内に甘そうじゃし」


 と言って眉間に皺を寄せるL4C様


 やはり彼女が問題児という認識は森の共通らしい。

 とすれば、やっぱり矯正の意味もかねて僕との勝負が実現してしまうのでは?

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