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1318 ジュニアの冒険:空の寄り道

 僕ジュニア、今空を飛んでいる。


 ……飛行って案外しんどいな。

 上空は寒いし、飛行速度を上げるほど風がバシバシ顔に当たるし。


 父さんはサカモトに乗って移動している時もこんな辛い思いをしていたのか?

 そんな様子はなかったけれど、何か対策でもしてあるのか?

 今度帰った時にでも聞いてみよう。


 さて……眼下の景色がゴマ粒のようだ。


 ではなく、ここからどこへ向かうかな?


 人間国ひいては冒険者ギルドに帰ってもいいが、折角だしどこかへ寄り道したい気分だ。

 せっかく空も飛べるようになったので、もっと自由に飛び回りたいと浮かれているようだ。

 身も浮いているれど。


 寄り道はいいとしても、どこへ向かうんだ?

 大丈夫。

 そこも心当たりはある。


 ――『世界を見て回るのは詩想を育むであろう』


 去り際、ノーライフキングの老師からオススメの名所を教えてもらったのだ。

 不死山ばかりが名山ではない、と。


 空を飛べるんだから山から山へ移動するのも容易。

 せっかくなので老師おすすめスポットへ足を延ばしてみようと思う。


 ……そうして飛行すること数時間。

 この辺りのはずだが。


 うう、寒い。

 不死山周辺よりだいぶ寒い。


 標高は不死山頂より低いはずなんだけど、気温の低さは段違いだ。

 よく見たら周辺の山肌に雪が積もっている。しかも厚めに。

 パウダースノーでスキーしたら気持ちよさそう……というかそういう地方柄なのか!?

 氷雪気候!?


 うう……何たることだ。

 防寒対策なんてまったくしてないぞ。


 さすがに何でも『究極の担い手』で解決できるわけでもない。

 このまま何の対策もとれずに寒風に当てられ続けたら最悪……死。


「ぐおおおおおおおおッ! やだぁああああああああッッ!」


 老師め、何も知らない僕をこんな死地に送り込みやがって!

 ノーライフキングだから気温の寒暖なんて気にならないのか? だから配慮から抜け落ちていた?


 とにかく生死に関わるから何か対処を!

 カマクラ作れ!……しまった間違えてキャバクラを作ってしまった!?


 ……ダメだ、アホなことに時間取られているうちに氷点下から体温まで奪われて……。

 目がかすむ、動けない。

 急激な眠気が……。


 あッ、農場で待っているはずのヒュペリカオンのポチが……。

 ねえポチ、僕もう疲れたんだ、なんだかとっても眠いんだ。


 それにニワトリのヨッシャモや大地の精霊たちや、猫姿をしたノーライフキングの博士まで……。

 あとクマのモンスターや、ツノイノシシことスクエアボア、マニゴル洞の巨蟹デスマスくん……!

 そして鹿。

 農場、動物たくさんいたなあ……!


 ……って群がりすぎぃー!

 いくら生死の狭間で見る幻だからって、動物たち僕に群がりすぎぃーッ!?


 ぐおおおおッ! と起き上がると周囲は雪山。

 あれだけいた動物たちも跡形もなく消えていた。


「……やはり幻か」


 幻ヤバい。

 雪山で見る幻ほど生命の危機感を刺激されるものはない。


 もういいや、老師がこの雪山で何を見せたかったのかはわからぬが、命を晒してまで見る価値があるとも思えない。

 もう一度飛翔術で飛び立って、全速力で温かい土地に移動しよう。


 行くぞ、ジュワッチ!

 ぐへぇええええええええええッ!?


 なんだッ!?

 飛翔しようとしたところ、急に何かに引っ張られた?

 おかげさまで慣性を殺された僕は、頭から雪にダイブしてしまった!

 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺッ!? 冷たい!


 一体なんだ? 何が僕を引っ張った?

 と思い周囲をも回してみると……鹿?


 鹿がいる?

 なんで鹿?


 そう言えばさっき農場の動物たちに取り囲まれる幻影を見たが、あの中に鹿が混じっていたような。


 農場では鹿は飼ってない。

 基本的に作物を食い荒らす害獣なので。さすがの父さんも見つけたら怒りをあらわにして『ふざけんなぁあああああッ! テメエに食わせるために育ててんじゃねええええッ!』と畑の野菜を貪る鹿を追いかけまわすほどだ。


 だから僕の見る幻の中にも現れようがないんだが……。

 アイツだけ現実だったということか。

 僕が飛翔しようとして失敗したのは、アイツがズボンの裾に噛みついたから?


 何故、鹿に引き留められる僕?

 鹿のアイドルになった覚えはないぞ?


「…………なんだよ?」


 じっとこちらを見てくる鹿。

 その視線は警戒とか興味とかではない、もっと別の判じ難い感情がこもっている。


 その視線に射すくめられて動けないでいると突如、鹿は身をひるがえして駆け出す。

 逃げた? と一瞬思ったがそうではない。

 鹿はすぐに足を止め、確認するかのようにまたこっちを振り返る。


 まるで、ついて来いとでも言っているかのようだ。


「ついて来いって言うのか?」


 口に出して確認してみる。

 すると鹿はまた前を向いて、僕から遠ざかるように駆け出した。


 マジで僕をどこかへ連れて行こうとしているのか。

 でも僕はこんな寒いところから一刻も早く去りたかったので、無視して飛び立つことにした。


 ジュワッチ! ぶふッ!?


 また雪に突っ込んだ!?

 気づけばだいぶ離れたはずの鹿が、もう僕の背後まで接近してまたズボンの裾を噛んでいた。

 素早い! いつの間に!?


 そして再度僕の雪山脱出を阻止した鹿は、見るからに怒りの様子。

 所詮畜生なので言葉は通じないが『ついて来いって伝わったんなら、ついて来いよ!』と言わんばかりだ。


「わかったわかった! ついてくから噛みつくな! 角で突いてくるな!」


 くそう、なんで雪山くんだりまで来て鹿の言いなりにならなきゃならんのだ!?


 仕方ないからついてくか。

 あんまり長く連れまわされると困るぞ、凍死するぞ!?


 そんな僕の心配をよそに鹿はドンドン進んでいく。

 僕はそんな鹿の背中を追いかけるしかできなかった。……いや、僕の目線と鹿の体勢的に尻だろうか?


「げふぇッ!?」


 何故かまた頭突きされたッ!?

 なんだよ、なんだよもうッ!?


 わけもわからず鹿に連れまわされること小一時間。

 不思議なことにこの鹿と出会ってから寒さを感じなくなっていた。


 ついに感覚マヒした? 全身凍傷?

 あるいはこれももう夢で、本物の僕は雪山に凍死体を晒しているとか?


 次々嫌な想像が浮かんできたが、やがて不安は霧散していくことになる。


 どうやら目的地に到達したようだ。


「ここは……!?」


 また現実とは思えない場所だった。


 周囲がただひたすら白い。雪の白ではない。強い光を当てて視界を塗りつぶしたかのごとき白だ。

 さすがに今度こそ天国か? と思った。


 そこで僕を出迎えた者は……?

 者たちは……!?


『ハッピーウェルカム!』

『ウェルカムチューオーバーグラウンド!』


 なんだぁッ!?

 急に大勢から大歓迎を受けた!?


 なんで大勢!?

 ここ雪山だぞ!?

 雪山にこんな多くの人が住んでいるのかと思ったが……、違う。


 コイツら人じゃない。

 農場で生まれ育った僕だからわかる。


 彼らは神だ!


 人とは一線を画す神々しき気配。

 あまりにも清すぎる空気。こんなのをまとう存在は人ではありえない。


 それに見知った顔もチラホラいるし。


 そんな歓迎の一団から、代表者的な人が進み出て言った。


「ようこそ聖者の息子よ! 我々神々は、キミのオリュンポス山への訪問を歓迎する!!」


 え?

 オリュンポス山?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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下界への干渉とか……山だからセーフ?
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