1315 ジュニアの冒険:長子相続の効能
「なれる? 魔王に? 軽はずみなことを言うな!!」:
既に精神的に追い詰められていたゴティア魔王子。
ちょっとしたことですぐ激昂する。
「市井でも魔王城でも、どこでも囁かれている!『次の魔王はマリネ』だと! そのような状況下でどうしてそんな気休めで安心できるというのだ!?」
「いや、気休めも何も真実ですから」
ベルフェガミリアさん、それこそなんでもないことのように言う。
「だってそもそも、魔国は長子相続が基本ですし」
「え?」
「長子相続……つまり王のもとに最初に生まれた男子が王位を継ぐということ。それが魔国で法典にも載っている常識ですよ。ちなみに人魚国もそうだし、王朝が滅びる前の人間国もそうです」
僕のとこの農場国は……どうだろうか?
僕のこと後継者とかよく言われるんで多分そうだと思う。
「現魔王のの長男……つまりゴティアくんキミだ。キミがゼダンくんの最初の息子である限り、次期魔王の座はキミのものということで安心安全確実設定というわけ。だから無責任な連中が何を囀ろうとも、キミは気にしなくていいんだよ」
「そんなものは建前だろう! 国はたくさんの人々が生きる場所だ、その国を守り通すためにも王者は有能であればあるほどいいはずだ!」
ゴティア魔王子の理屈は正しいと思う。
国の舵取りなんて絶対失敗できないのだから、一番優秀な人にやらせるに越したことはない。
だから長男次男、息子娘に関係なく一番優秀な子どもに継がせた方がいい、と思うのは間違いだろうか。
「実力能力こそ、その人物を計るのにもっとも正確な物差しだ。強ければより国を守って発展させられる。弱ければ国の発展を妨げ危険に晒す。だからこそ長子相続などという建前は取っ払って、より強い者を次期魔王とすべきではないか!?」
「だからゴティアくんは、マリネ姫に王位を譲ると?」
「いや、我は我なりに実力でマリネを上回り、誰にも恥じることなく魔王になりたかったのだ」
なるほど、それは立派な心掛けだ。
でもそんなゴティア魔王子の思惑に巻き込まれた僕の立場は?
ん?
「実力がもっとも正確ねえ。…………でもゴティアくん、キミが言うほど能力実力って明確なものかな?」
「え?」
「無能無力なヤツほど言うものさ『オレが一番凄い!!』ってね。僕は魔王軍にいた頃、そんなことを言うヤツを何人も見てきた。いや何百人かな? 一時期なんか僕以外の四天王全員が“四天王筆頭”を名乗っていたこともある」
うわぁ、それは……!
何と言うか……!
「自分の力量が見えていないヤツは思っているよりたくさんいるものさ。いや、世界中の人間のほとんどがそうだろう。己が分際も悟れず、他者の大きさも推し量れない。それでもゴティアくんは実力こそが絶対だと思うかい?」
「いや、それは……!?」
「実力というものは、一つの眼鏡を通してしか計ることはできない。それが成果だ。誰もが成果を上げることで当事者の力量を知ることができる。それまでは未知数。眠れる獅子なのか張り子の虎なのか、誰にもわからない」
ゴティア魔王子だって、こうしてベルフェガミリアさんを召し抱えることで自分の実力を示そうとしていたんだから、同意するところはあるだろう。
「どうだい? こうして考えると実力って、とってもあやふやなものだろう?」
「そ、そうかも……?」
「さてそこで一つの仮定だ。とある王国に、お互い『自分の方が優れている!』と信じて疑わない王子二人がいるとする。実際にどちらが優れていて、次の王に相応しいか? どうやって決めればいい?」
「それは……テストとか、実際に仕事ぶりを見てみるとかで……」
「真面目な回答だね。でもね、仮初の試合で負けた方ほど言うものだよ。『実戦なら負けなかったのに』と」
「え?」
「そこでジュニアくん、キミなら何が正解だと思う?」
えぇ?
いきなり僕に話がふられた?
うぅん、そうだなぁ……。
結局徹底的に、どちらも文句が言えないほど決定的な決着をつけるとなったら……?
「……殺し合い?」
「正解!」
うわ正解した。
「待ってくれ! それはいくら何でも乱暴すぎる! そんなことをしたら国が荒れて」
「でも最高にハッキリ白黒つける方法はやっぱり殺し合いだよ? ブチ殺しさえすれば、負けた方もそれ以上文句はない。何しろ死んでるからね」
死人に口なし、か。
「もちろんそんなことになれば国は荒れるだろう。次の王を決める大事だから王子個人の一騎打ちにはなりえない。必ず互いの派閥を巻き込んだ内乱へと発展するだろう。その戦乱に民は巻きこまれ、罪なき市民は犠牲となり、国内の生産力、文明は後退し、国内は疲弊する」
「大惨事じゃないか! そんなことで王を決めるなんて愚かだ!」
「そう、しかし実力で王者を決めたいなら、もっとも確実な方法です」
命を賭けない模擬的な戦いでは、必ず敗者側に不満が残る。
ベルフェガミリアさんの言う通り、実力なんて曖昧だ。
そりゃ圧倒的な差がある場合は明白だが、大方は肉薄してどっちが優れてるかなんて簡単には決められない。
十回戦って勝つのは六~七回。その方が優れていると言っても、一回勝負で十分の三か四の確立を引き当てて、その一回で完全に息の根を止めてしまえば、自分が優れていたと言えるんだ。
そう考えるとやっぱり実力ってあやふやだな?
「それでも……そんな理屈がまかり通るなら世代交代の際に必ず血で血を洗う大抗争が起こることになる! そうなれば多くの人命が失われ、街や田畑も焼かれ、甚大な被害を負うことになる! そんな方法絶対に認めらない!」
ゴティア魔王子は必死に反論する。
それを満足げに見つめるベルフェガミリアさん。
「そこで登場するのが長子相続というシステムです」
「え?」
「生まれた順番というのはとても明確ですよ。実力なんてものの曖昧さとは比べ物にならない。王子の出産は公式記録に残されるし、次子の出産にはたとえ数日であろうと明確な差が生まれる。……まあ双子みたいな例外はあるけれども」
そう物凄く明確だ、兄と弟というのは。
僕の家も兄弟が多いが、だからこそ弟妹との違いはとてもよくわかる。
『王位は一番上の兄が継ぎます』と言われたら、『一番の実力者が継ぎます』と言われるより屁理屈の付け入る隙はない。
「僕はねゴティアくん。政治とはつまるところ『支配者交代を無血で行う』ことを実現するためのシステムだと思っている。そういう点では王政における長子相続は非常に優れているとは言えないか? 理由はこれまで語った通りでね」
「……」
「実力ももちろん大事だ。無能に、億に及ぶ民の生活が懸かった国家の統率は任せられない。だからこそ王政では、次の王と決まった長子に徹底した帝王教育を施す。キミもそうだっただろう?」
「たしかに……そうだ」
「だからキミがこれまで積み重ねてきた努力もけっして無駄ではない」
ベルフェガミリアさん、いつの間にかタメ口になってない?
元々敬語で話すのが苦手な人そうだし、話していくうちに楽な方に流されていったか。
「まあ、ここまでつらつらと語って何が言いたいというかさ。キミは長子としてドッシリかまえていればいい、ということさ。たとえ実力でどうあろうと、長子相続を採用している魔国で次の魔王になるのはどう転んでもキミだ。マリネ姫をどうこう言ってる無責任な連中には、次の王を決める権限など欠片もない」
「はーい、質問」
「何かねジュニアくん?」
そうは言っても、実際に後継者を決めるのは魔王ゼダンさんですよね。
次の魔王が誰になるかはゼダンさんの考え次第。
そこでゼダンさんが、マリネお姉さんの結婚相手を決めていないことがネックになるんじゃないでしょうか。
実際そのために不穏な噂が流れているわけですから。
「さすがジュニアくんはいいところに気づくよね。ホント愚民は暇さえあれば足りない頭を巡らせて妄想に耽る。さらに現実と妄想を無理やり重ね合わせて、あろうことか妄想を現実と意識的に取り違えようとするから余計にタチが悪い」
うわぁ毒舌。
と思ったがこれもベルフェガミリアさんの地の性格なのだろう。
「その妄想のもとを提供しているゼダンくんにも非はあろうがね。ただ彼の父親としての気持ちもわかってあげてほしい。彼は王様になるにしては情の厚い男だから」
「つまり?」
「最初の推測通りさ。ゼダンくんは、できる限りマリネ姫を嫁にやりたくなくて結婚相手を決めずにいるのさ」
やっぱり!!
そうだと思ったんだよ完全に思った通り!
早く子離れしなよ魔王さん! ホントに子煩悩なんだから!
「それにゴティアくん、婚約者が決まっていないのはキミも同様だろう。ゼダンくんは自分が恋愛結婚だったせいか我が子にも自分で相手を見つけてほしいと思ってるんだろうがね。だからって政治的混乱を招く隙をそのままにしておくのもねえ」
「えッ、恋愛結婚?」
そこへゴティア魔王子が、ある一言に引っかかる。
「しかし父上は二人の王妃を娶って……?」
「大人にはね、色々あるんだよ」
遠い目をするベルフェガミリアさんだった。
「まあそんなわけでゼダンくんは間違いなくキミを後継者と心に決めているよ。情の厚い人だってことは先にも言った通りだから父親として、キミの努力も成長もちゃんと見守っている。そんなキミが後継者に相応しいこともちゃんとわかっているはずだ」
「そうだろうか」
「そうだとも、それでもキミが信じ切れずマリネ姫を目の敵にするというなら……」
ベルフェガミリアさん、目の色がスッと変わって。
「その時こそキミは後継者から外されるかもしれないね」
「えッ?」






