1314 ジュニアの冒険:ゴティアの真実
かつて魔王軍四天王にして人類最強の男ベルフェガミリアさんが言う。
「ゴティア魔王子、アナタが恐れている者は……」
「……ッ!?」
「……」
「…………?」
「………………ぐぅ」
寝るな。
この怠惰の化身、隙あらば惰眠を貪ろうとする。
重要な話の途中ですら。
やっぱこの人、公職向いてないんじゃない?
『春眠暁を覚えず』
そういうことじゃないです老師さん。
いいから、しばらく黙っていて。
あ、できれば老師さん起こしてくれませんか、この一日平均睡眠時間二十四時間男を。
『承知。閃け雷公鞭』
「んぎゃはあああああああああああああッッ!?」
凄まじく輝き閃く電光がベルフェガミリアさんを直撃。
さあ、無益な引き延ばしはこれぐらいにして本題に入ってください。
ベルフェガミリアさん!!
「続きはシーエムのあと」
だからやめろ!!
「殿下が恐れているのはマリネ王女ですよね」
うわあああああ急に本題に戻るな!
急カーブすぎて首の骨折れるかと思った!
「魔国、第一魔王女マリネ姫……。第二魔王妃グラシャラ様が生み落とされた、魔王の血を受け継ぎし新世代の一人」
ああ、マリネお姉さんか。
よく知ってる。あの人よく農場にも農場国にも遊びに来るから。
「いやぁ美しく成長されたよね。か細くて儚げで、そのくせおっぱい大きくてさ。あの筋骨隆々な父母から生まれて、どうしてあんなに細身に育ったんだろうと国中から不思議がられるという。でもおっぱいは大きくてね」
ベルフェガミリアさんキモいです。
娘ぐらい歳の離れた女性のおっぱいにやたら言及するの純粋にキモいです。
『キモい我が弟子』
老師からも率直に言われる。
「そんな細身から発揮される剛力怪力は明らかに両親の血統を受け継いだそれだ。現状、純粋なパワー勝負ではマリネ魔王女に勝てる者はいない。父君であるゼダンくんも、そして異母兄ゴティア魔王子も含めて……」
はッ?
名を挙げられ、露骨に目を逸らすゴティア魔王子。
「そんなマリネ姫は、国内での人気が急上昇している。なにせ天下無双の怪力に加えて、花も恥じらうほどの見目麗しさ……つまり美人ってこと。さらに気品に満ちながらも砕けて親しみやすい性格で、市井の者からも支持を得ている」
ああ、知ってる。
僕も農場に来たのを直接もてなす機会があるから。マリネお姉さん優しいよね。しかも知識豊富で話題にも事欠かない、トークも上手だから一度会話が始まると尽きることがない。
よく笑うからホント会話が楽しいんだよね。
あんな会話の楽しい女性、人気でない方がおかしいよ。
「そんなわけで現状、国の内外問わずマリネ姫のファンがクソほどいるわけ。数千数万ほどの勢力で国政にも影響を与えかねないくらい」
民の声は大切ですよね。
「魔王女も年頃になったから、結婚の申し込みが引きも切らないらしいよ。これも国内国外問わずね。人魚国のアロワナ王は、我が長男との婚姻を切望しているらしいし、魔国内でも降嫁を願う上位魔族が掃いて捨てるほどいる」
まさに選り取り見取り!
そういえばウチの母さんも『ジュニアのお相手にどうかしらッ!?』って鼻息荒く言っていたような……?
「間違いなく今、世界で一番いい女代表だろうねマリネ姫は。しかしそれほど群れなして求婚されていながら、父君である魔王ゼダンくんはいまだ愛娘の結婚相手を決めずにいる。国外へ嫁に出すか、国内に留まらせるか方針すら明確にしていない」
魔王さんも慎重なんですね。
きっとマリネお姉さんに幸せになってほしくて結婚相手も慎重に吟味してるんでしょう。
「かもね。……しかし、そんな魔王の不鮮明な態度が、ある噂を呼んでいるんだな」
ある噂?
「そしてそれが、このゴティアくんが焦り散らかしている原因でもある」
はい?
なんでマリネお姉さんが結婚相手を決めないことで異母兄であるゴティア魔王子が不安になる必要があるんだ?
兄妹なんだから、結婚を素直に祝ってあげればいいだけでは?
「そう、何のしがらみもない一般家庭の兄妹ならね。でも、大きな権力を持った王族だとそう素直に行けないのが悲しいよねえ」
『骨肉相食む』
そうか、わかったぞ。
僕ジュニアわかったぞ。
王の子どもは、未来みずからも王になる。
その可能性は複数いる子どもたち全員にあるものだ。
つまりゴティア魔王子の妹であるマリネお姉さんにも。
「マリネ姫は魔王女だからね、結婚して王室から抜ければ継承権は一旦消える。それを踏まえてゼダンくんの、マリネ姫の結婚相手を決めないという姿勢を鑑みると……」
魔王さんは、マリネお姉さんを次の魔王にと考えている?
だからこそ迂闊に結婚相手を決めないようにしている?
その結論に至った時、ゴティア魔王子の方がビクリと震えた。
悪戯が見つかった子どもみたいになっとる。
「……と世間様からはそう映っちゃうわけだよねえ。実際『マリネ次期魔王説』は市井どころか魔王城内でもまことしやかに囁かれている。マリネ姫が積み重ねてきた名声や評価もあるが昨年、魔都を襲った暗黒大魔獣をマリネ姫が単独撃破したことで爆発的に人気が上がったよね」
マリネお姉さん、何やってるんですか?
「マリネ姫が次期魔王なんて大っぴらに言われるようになったのもその辺りからかな? ホント責任のないヤツらは無責任なことを言うよね」
ベルフェガミリアさんが冷笑的に言った。
そんな感じで今、魔国ではマリネお姉さんがトレンドらしい。
まあ面白くて優しいお姉さんだから人気が上がるのは当然のことながら。
しかしそれで次期魔王説まで上がってくるとはなあ。
そうなってくると……。
マリネお姉さんが魔王になるかもしれない、と言われたら一番焦るであろう人は……。
「「『…………」」』
ここに居合わせた全員の視線が一点へ向かった。
魔王子ゴティアさんの元へと。
「……」
魔王子本人も沈黙。
空気を呼んだのかいつの間にか正座していた。
なるほど、謎はすべて解けた。
僕を引き連れてまで不死山を登り、ベルフェガミリアさんを魔王軍に再就職させようとするゴティア魔王子の真の目的は。
自身の次期魔王という地位を守らんとすることだったのだ!!
「このベルフェガミリアが魔王軍へと戻る、ゴティア魔王子の要請で。そうなれば純粋なゴティア魔王子の功績ともなるし、魔軍司令まで上り詰めた僕が言うことを聞いたともなれば、その点も含めてゴティア魔王子への評価にもつながる」
『三顧の礼、三顧の礼』
ゴティア魔王子はそれをもって、自分が次期魔王にたる逸材だと主張したかったわけか。
マリネお姉さんに対抗するために。
今や魔国では次代の魔王を巡るデッドヒート後継者争いが炸裂しているってことか。
そのチキチキレースに勝利するためにも、ゴティア魔王子は目に見えた功績か実績が欲しい。
自分が魔王になるために。
内情がわかってみると……なんか情けないな。
『小人は小利に聡し』
「師匠、相手はまだ子どもですからね? 言葉のナイフは先端を丸くしてね?」
それほどまでにゴティア魔王子は異母妹を恐れたということか。
まあ、マリネお姉さんは優しいし面白いし、強いし物知りだし機転も利くし芸術的センスもあるし絵も描けるし作曲もできる。トークスキルもあるし大喜利もできるし司会もできるしツッコミもできるし縁起もいいしおっぱいも大きい。
僕の知る限り、彼女以上に完璧な女性はいない。
それに対してゴティア王子は……。
……ああ。
「納得するな!!」
ゴティア王子が激昂した!?
とりあえずキレ芸はできるぞ、この人!
「子どもの頃からずっとそうだ、我はマリネを恐れていた! 王女でありながら実力で圧倒的に我よりも上! マリネこそが魔王に相応しいと、我よりも魔法に相応しいと誰よりわかっていたのは我自身だ! だからこそ努力し続けてきた! 魔王の座を獲るために!」
そっかー。
ゴティア魔王子もこの人なりに、自分が魔王になれることを当たり前とは思わずにひたむきに努力してきたんだろうな。
「しかしマリネの才能は、いつだって我が努力より先に行く。我が魔王になるには、マリネの華々しい存在を消し飛ばすぐらい大きな功績が必要なのだ!」
「それが僕を呼び戻すことだっていうなら、ちょっと足りないと思うけど」
ベルフェガミリアさんが呆れ口調で言った。
『先人は後人を教え導くもの』
「わかってますよ師匠。……もう、子守りなんて面倒くさいなあ」
実際、心底面倒くさそうにベルフェガミリアさんがゴティア魔王子に寄り添った。
「ゴティア魔王子……。いいや、ここはあえてゴティアくんと呼ばせてもらおう」
「な、なんだ?」
「キミは大きな勘違いをしている。そもそもキミは魔王になれる。実力に関係なく」






